<社説>児童虐待5年連続最多 児相の体制強化が急務だ

 県内の児童相談所(児相)が2022年度に対応した児童虐待相談件数(速報値)が5年連続で過去最多を更新した。前年度と比べ76件増え、2585件に上る。全国でも1990年度の統計開始から32年連続で増加し、21万9170件だった。事態は深刻だ。 社会全体で虐待への認識が深まったこともあろうが、背景にある貧困や孤立の影響も指摘されている。

 まず重要なのは子どもの命を守ることである。そのためには早期発見と、警察や児相など関係機関の情報共有、迅速な対応が肝要だ。児相の体制は強化されつつあるが、さらなる強化が急務である。再発防止のための啓発活動とともに、親の貧困や孤立を防ぐための支援も欠かせない。

 子ども家庭庁によると、県内の相談件数の内訳は、子どもの前で夫婦が暴力を振るう「面前DV」を含む心理的虐待が1921件と最も多く、次いで身体的虐待が330件、ネグレクト(育児放棄)311件、性的虐待23件と続いた。

 全国でも心理的虐待が最も多い。中でも「面前DV」の増加が目立っている。子ども家庭庁の担当者は、夫婦げんかなどで出動した警察からの通告増が要因と分析している。

 県内では全体の相談件数が2018年度から急増している。県は本年度、児相職員を増員したが、児童虐待の相談への対応件数が増え、業務過多になりつつあるという。このため、軽微な虐待事案については、外部の関係機関に対応を委託することも検討している。対応が追い付いていない実情を直視する必要がある。

 厚生労働省は、深刻化する児童虐待への対応を強化するため、全国の児相で子どもの保護や親の指導に当たる児童福祉司を24年度までに約千人増員し、約6850人とする方針だ。児童福祉司は17年度は3235人だった。18年に東京都目黒区で5歳女児が虐待死した事件をきっかけに、政府が増員目標を掲げ、22年度には1.8倍に増えた。

 ただ、勤務年数が3年未満の人が半数を超えている。経験や専門性を要する仕事だけに、人材を育成するには時間がかかる。人員の確保とともに職員のスキルアップも含めた体制強化が急がれる。

 一方で、法改正や条例制定によって虐待を許さないという機運が社会全体で高まっている。19年4月に東京都が全国に先駆けて児童虐待防止条例を施行。20年4月には、親などによる体罰禁止を明記した改正児童虐待防止法、児相の強化を定めた改正児童福祉法が施行された。県内でも同年3月に「子どもの権利を尊重し虐待から守る社会づくり条例」が施行された。 

 この流れを生かし、虐待防止の啓発活動を徹底すべきだ。日本は子ども関連予算が欧州諸国と比べ低水準にある。児相の体制強化や啓発活動推進のためにも、政府には予算増額に向けた財源確保に一層力を入れることが求められる。

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