【今週のサンモニ】「テレビの沈黙」が性加害を生んだ|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。今週はジャニーズ性加害問題。

「性加害を止められなかった背景」にある「テレビの沈黙」

今週の『サンデーモーニング』は、ジャニーズ事務所の会見をトップで報じました。非常に興味深かったのは、この期に及んでも、まだメディアの隠蔽の責任を逃れようとしている番組の演出でした。

アナウンサー:性加害問題の発覚後、はじめて記者会見に臨んだジャニーズ事務所。東山紀之氏の社長就任などが発表されましたが、被害者の救済など重い課題が横たわっています。
国内外のメディアが注目する中、初めて公の場に姿を現した藤島ジュリー景子氏。性加害問題の責任を取る形で社長を辞任。被害者への補償、事務所の出直しを担う新たなトップに東山紀之氏の就任が発表されました。半世紀以上にわたって続いたと見られる性加害。止められなかった背景について東山氏は…

東山紀之社長(VTR):今となっては恥じておりますが、エンターテイメントの世界でそういった絶対的な存在がいますと、やはり下の者たちはそれを信じて行動していかなければならない状況下にある。それが被害の拡大を生んだのではないかと考えています。

アナウンサー:現在ジャニーズジュニアの育成を統括している井ノ原快彦氏は…

井ノ原快彦氏(VTR):回りも皆仲間たちも「そうなのかな」というような噂はしていた。なんだか得体のしれない、触れてはいけない空気というのはあった。

「性加害問題の発覚」というのは、実は60年近くも前の1965年に産経新聞社『週刊サンケイ』が報じた「ジャニーズ売り出しのかげに」という記事でした。この記事以来、2023年4月までテレビはジャニー喜多川氏の性加害の事実を隠蔽してきました。

番組が疑問を呈している「半世紀以上にわたって続いたと見られる性加害を止められなかった背景」にあるのは、「マスメディアの沈黙」ではなく「テレビの沈黙」に他なりません。雑誌はもとより新聞ですら最高裁による性加害認定を報じていました。

しかしながら、世界一テレビ報道を信頼してきた日本国民は、テレビが報じないために、雑誌と新聞の報道を認知しながらも都市伝説化してしまったのです。

映像編集で印象付け

番組は、記者会見の映像クリップを編集して、東山氏が性加害の事実を完全に認識していたにも拘らず嘘をついている」ことを印象付ける映像シークエンスを作成します。

アナウンサー:所属タレントの間でも噂になっていた性加害。40年以上にわたり所属してきた東山氏はどこまで知っていたのでしょうか。

東山紀之社長(VTR):恥ずかしながら何もできず、何の行動もしていなかった。ただ噂としてはもちろん聞いていた。私自身は被害を受けたことがなく、受けている現場に立ち会ったこともなく、先輩たちからも後輩たちからも相談もなかった。

アナウンサー:そう語っていた東山氏、会見を見ていた当事者の会のメンバーからは…

平本淳也氏(VTR):残念だね。

石丸志門氏(VTR):東山紀之氏の発言は真実性に欠けると思う。本当のことを語っているのか。大いにこれから追及して行きたい。

アナウンサー:さらに会見ではかつてジャニーズJr.だった男性の暴露本についても話が及びました。その中で、男性は東山氏からセクハラ行為を受けていたと証言しています。

東山紀之社長(VTR):僕はしたことがないです。

アナウンサー:この点についてはきっぱりと否定した東山氏、しかし別の記者から強く問われると…

事実がどうであるかにかかわらず、この映像シークエンスを見れば、多くの人は性加害を隠蔽したのはジャニーズ事務所であると認識するものと推察されます。さらに番組は畳みかけます。

アナウンサー:性加害が報道されなかった背景とされるジャニーズ側の無言の圧力とメディア側の忖度についても話が及びました。

東山紀之社長(VTR):やはり喜多川氏、そしてうちの事務所が全て悪いのだと思います。

アナウンサー:さらにタレントの出演拒否などで長年メディアに圧力をかけてきたのでは?などと問われると…

東山紀之社長(VTR):やはり時代と共にこういうものは進化して行かなければいけないですし、メディアの皆さんとの向き合い方というのは、きちっと話し合いをしていくことが大事になっていく。

記者:忖度・圧力は必要ないとうふうにもう1回お願いします。明言して下さい。

東山社長:必要ないと思っています。

ジャニーズ事務所よりも強いテレビ局の権力

この映像を見れば、性加害の隠蔽のメカニズムは「ジャニーズ事務所の強力な圧力にテレビ局が屈して事実を報じなかった」、すなわち「本当に悪いのはジャニーズ事務所であり、テレビ局は権力者に脅された被害者である」といったような印象を持ちます。

このメカニズムは明らかに論理的ではありません。なぜなら、実際には、テレビ局はジャニーズ事務所よりも強い権力を持っているからです。

公共の電波を独占して番組の編成権・編集権および調査報道能力を持ちあわせたテレビ局が、本気を出してジャニーズ性加害の告発キャンペーンを徹底的に行えば、ジャニーズ事務所を芸能界から簡単に葬ることが可能でした。ただ、テレビ局はジャニー喜多川氏を告発しませんでした。

なぜそうしなかったかと言えば、ジャニー喜多川氏の性加害に沈黙しさえすれば、ジャニーズ・タレントは長期間にわたって安易に視聴率を稼ぐために利用価値がある優良コンテンツであったからです。テレビ局は、社会正義よりも安易な商売を優先したのです。ジャニーズJr.の人権よりも視聴率が大事なのです。

アナウンサー:ジャニーズ事務所を取り巻く状況は厳しさを増しています。飲料水などのCMに所属タレントを起用してきたキリンやアサヒ、さらには日本航空、東京海上日動の4社はCMの契約更新を見送ることを発表しています。

通常の企業コンプライアンスをもつ一般企業は、人権を重視してジャニーズ事務所との取引を停止し始めました。しかしながら、人権意識が希薄なTBSは、編成部長が「タレントさん本人が起こした問題ではない」としてジャニーズ・タレントの起用継続を明言しています。

TBS「タレントさん本人が起こした問題ではない」 ジャニーズタレントの起用継続を明言 : スポーツ報知

ジャニーズ・タレントが出演するテレビ番組は現在も1日当たり、20~25番組にのぼります。この値は、カウアン岡本氏が性加害をSNSで告発しても、BBCが性被害の証言を集めた特別番組を放映しても、藤島社長の謝罪動画が公開されても、第三者委員会が性加害の存在を報告しても、そしてジャニーズ事務所が性加害の存在を認めても、まったく不変です。

4年前に盛大に「ジャニー礼賛」

ジャニーズ問題をめぐって本当に番組の欺瞞が満ち溢れていたのが、ビッグモーターの不正をめぐる次の報道です。

関口宏氏:ビッグモーターの保険料不正請求をめぐって損保ジャパンの白川社長が辞任しました。不正請求を把握後も取引を再開していたことが問題視されていたようです。

これを問題視するなら、ジャニーズの性加害を把握後も取引を停止しないTBSの方が悪質です。こんな超ダブル・スタンダードな報道を恥も外聞もなくできるのは、TBSが権力者であるからに他なりません。

ジャニー喜多川氏に性加害を続けさせる環境を提供し続けたテレビ局は、第三者委員会を作って、番組編成者・番組制作者・報道局などを徹底的に調査する必要があります。意図的な性加害の隠蔽が認められた場合には、放送免許を取り消す必要があります。テレビ局は権力者に屈した協力者ではなく、事態を支配できる権力者そのものなのです。

さて、ここに『サンデーモーニング』がジャニー喜多川氏について報じた興味深い放送記録があります。それは、2019年9月14日に「風をよむ」のセグメントで放映された「テレビとアイドル」という特集報道です。

「風をよむ」テレビとアイドル

アナウンサー:日本のショービジネスに一時代を築いた一人のプロデューサーが亡くなりました。金曜日行われたジャニー喜多川さんの家族葬、弔問に訪れたのは1980年代から現在まで日本のテレビ界を彩るおよそ150人のジャニーズ事務所所属のアイドルたちでした。ジャニーズ事務所の社長であるジャニー喜多川さんは1931年ロサンゼルス生まれ、1962年ジャニーズ事務所を設立、その後数々の男性アイドルグループをデビューさせたのです。

これまでにない男性の歌って踊れるアイドルグループをデビューさせたのが、ジャニーズ事務所でした。相次いでデビューする若いアイドルたち、彼らはお茶の間の視聴者たちの圧倒的人気を博します。テレビは手の届かない銀幕のスターに代わって、スターを自分たちに身近な親しみやすい存在へと変えたのです。

碓井広義教授(VTR):スターと呼ばれる人であってもだんだん近いい存在になってくる。若い人達を惹きつける存在としてのアイドルと呼ばれ始めた。アイドルとテレビの親和性みたいなことで言えば、アイドルはけっして完成形ではない。ジャニーさんはそんなテレビの特性をよくわかっていらっしゃったから、その成長のプロセスをきちんと提供していくということを意識していた。

アナウンサー:視聴者に親しみを感じさせ、多くの人を惹きつけたテレビ。アイドルはまさにそうしたテレビの申し子でした。

碓井教授(VTR):「頑張れ」という応援・声援ができるメディアがテレビなんですよね~

アナウンサー:こうしたテレビの特性を活かしてジャニーさんは若い男性たちを時代のアイドルへと変えて行きます。一昨日、そうしたアイドルたちに見送られたジャニー喜多川さん。その軌跡はあらためてテレビとは何かということを考えさせてくれます。

アナウンサー(スタジオトーク):映画だと出来上がった美しい所しか見ないと思うんですけど。テレビだと、歌ったり踊ったりしている時は凄くかっこいいんだけど、バラエティだとかだとちょっとダメダメな部分が見えたり、面白いところが見えたり、そういうところがいいのかなと思います。

関口宏氏:それがテレビなんだろうね。テレビは客観的に見る情報メディアだと思っている。

……と、今となっては、嘘と隠蔽で固めて大衆を騙すテレビの「アイドル商売」をしっかりと検証させてくれる放送でした。「造り物と思わせてしまう造り物」である映画と違って、テレビが「造り物と思わせない造り物」であることがよくわかります。

TBSテレビは、過去の性加害など一切触れることもなく、商売のパートナーであるジャニー喜多川様の人生を、特別に時間を割いて情報番組で礼賛しました。ジャニーズ・タレントの代表曲が散りばめられた映像シークエンスの放映は、TBSとジャニーズ事務所がその後に展開した「アイドル商売」のプロモーション・ヴィデオとしては、意義あるものであったと考えます。

この時に、BBCがジャニー喜多川氏の死去の報道の際に性加害を併せて報道したのとは大きな違いです。

絶好調の風評加害者コンビ

福島第一原発の「汚染水放流デマ」を公共の電波を使って拡散することで、福島市民をはじめとする日本国民に散々迷惑をかけた風評加害者コンビである目加田説子氏と青木理氏がこの日の番組に出演し、ジャニーズ問題で懲りないコメントを連発しました。

目加田説子氏:今回の会見で禊が済んだと思うかと言えば全く逆で解体的な出直しは全く見られなかった。到底納得できない。被害者の救済が繰り返し言われるが、被害者は誰なのか。根底には我々の人権意識の弱さが日本社会にあって、それで、メディア側の責任やCMとして起用してきた企業の責任も問われる必要がある。社会全体で我々はこの問題を今後どういうふうにしていくかを考える必要がある。

番組で禊をして、被害者に賠償していただきたいのは「汚染水放出デマ」を流した目加田氏の方です。被害者は当時者だけでなく、風評被害対策に1千億円も払わされる羽目になった国民も到底納得できません。

ジャニーズ問題に関しては、公共の電波を独占するテレビが報じてもない事案で、国民や企業が人権意識の低さを問題視され、責任を取らされるのは理不尽の極致です。一体、自分を何様だと思っているのでしょうか。

青木理氏:得体のしれない空気にメディアも完全にのまれていた。これは芸能報道だけやジャニーズ問題だけの問題なのか。かつての一強政権下でいろんなキャスターの方が辞めた。忖度と萎縮と無縁ではなかった。報道の自由度ランキングで日本は70位になっている。これは勿論政権が定めた特定秘密保護法なんかも理由になっているが、国境なき記者団の選評を見てみると、日本のジャーナリストは概ね安全な取材環境を享受していると。自主規制で報道の自由度ランキングを下げていると。
そう考えると、芸能だけでなく、政治に対しても、ありとあらゆる権威に対して我々ファイティングポーズを取っているのかが問われる。われわれメディア全体をもう一度見つめ直す機会にしなければいけない。

論点を換えるのは、いい加減やめて下さい。

ちなみに、当時話題となった『NEWS23』岸井成格氏、『報道ステーション』古舘伊知郎、『クローズアップ現代』国谷裕子氏のいずれも国家権力に萎縮してキャスターを辞めたことを否定しています。日本の報道の自由度が低い最大の原因は、記者クラブによる国内外のジャーナリストの排除です。

そんなことよりも日本のメディアの最大の問題は、安倍政権に対してはモリカケという「なかったこと」を「あったこと」にし、ジャニーズ事務所に対しては性加害という「あったこと」を「なかったこと」にする仰天の偏向報道です。青木氏が『サンデーモーニング』で拡散した「汚染水放出デマ」も放射線汚染という「ないこと」を「あること」にして、権力者ならぬ弱者に風評被害を与えたものです。本当に国民は迷惑しています。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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