若い女性との性愛に溺れる人妻、絡み合う情念を描く『卍』公開初日舞台挨拶で新藤まなみ&小原徳子「見た瞬間に恋に落ちました」

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昭和の文豪・谷崎潤一郎原作小説「卍」を令和の現代にアレンジした新作映画『卍』の公開を祝して、公開初日の9月9日(土)、新宿K’s cinemaにて公開記念舞台挨拶が開催された。

舞台挨拶に登壇したのは、王様のブランチでリポーターを務め、グラビアアイドル、また女優として、いまおかしんじ監督作品『遠くへ、もっと遠くへ』の主演も記憶に新しい新藤まなみ。木嶋のりことしてキャリアをスタートし、数多くの映画、ドラマ、イメージビデオなどに出演しながらも、2018年に改名し、近年では女優のみならずプロデューサー、脚本家としても活躍する小原徳子。

2003年の映画『赤目四十八瀧心中未遂』で主役に抜擢され俳優デビュー。同年、毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞、日本映画批評家大賞新人賞を受賞、映画出演を中心に活動している大西信満。2019年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭でグランプリを獲得した映画『されど青春の端くれ』の主演で注目を集め、以後、映画を中心に活動する黒住尚生。瀬々敬久監督初期作品で多く脚本を手掛け、近年では『溺れるナイフ』『生きるとか死ぬとか父親とか』のシナリオを手掛け脚本家としても活躍する今作品の監督・井土紀州。

また、司会には本映画に1シーン特別出演しているという芸人・ぶっちゃあが担当。各々が作品への想い、撮影秘話などをたっぷりと語った。

新藤まなみ&小原徳子、互いの第一印象は?

光子を演じた新藤まなみは「素直に本当に嬉しいです。何よりも観てくれる方がいないと作品は完成しないと思うので発売して1日で(初日の)チケットが完売して初速はとってもいいのかなって嬉しいです」と語ると、園子を演じた小原も「もう本当にこの(満席の)景色を見られて幸せです。1月の撮影の日々を思い返すと、ここに立てて本当に幸せです」と語り、新藤と小原は向き合って「頑張ってよかったね!」と声を掛け合った。

続けて小原からは「あの時の私の、園子の光子への思いをみなさんにスクリーンで見られてしまうのかと思うと少し恥ずかしいですが、しっかりとみなさんに体感して帰っていただけたら嬉しいなと思います」と挨拶した。

本作が初共演となる新藤と小原は互いの第一印象を聞かれると、新藤は「(小原を)見かけた瞬間に園子だと思いました。こんな女性になりたい、の体現みたいな感じで、見た瞬間に恋に落ちましたね」と告白。すると小原も「本読みをする前に(新藤さんの)SNSなんかを見ていたら大胆なお写真が出てきて、ドキドキした状態で会ったんですけど、会った瞬間、光子のように私の心の中にすっと入り込んでくる笑顔があって、私もやはり(新藤さんは)光子だなっと思って夢中です。それからいつもインスタ見させていただいてます」と明かした。新藤は客席に向かって「すみませんね、このイチャイチャしたところを見てもらう感じで」と会場を沸かせた。

監督からの演出について質問された新藤は「自由にやってねっていう感じのことをポンと投げられて『じゃあ自由にやります』みたいな感じでした」と撮影時のことを振り返った。対して小原は撮影前に監督とディスカッションの時間を作ったと言い、「『卍』は園子の目線で描かれていくものだし、園子がしっかり自立して立っているのにも関わらず、光子によって崩れていくというところがすごく重要なので、そこを事前にしっかり話し合って作りました」と明かすと、すかさず新藤は「私は何にも話し合ってない、逆すぎません?」と笑いを誘った。

女性二人に翻弄される男たちを大西信満と黒住尚生が好演

園子の夫・孝太郎役を演じた大西は、今回の役を振り返り「(僕の役は)複雑ですよね。でも今振り返れば、なんと贅沢な葛藤を抱えた時間だったんだろうというふうに思います。観終わったらきっと僕が言っている意味も分かっていただけるのではないか」と語った。続けて女優二人の印象を聞かれると「小原さんとは初日で全部撮ってしまったという感じで、息つく暇もないくらい濃密な時間があっという間に過ぎてしまった感じ。新藤さんとは控室でちょこちょこ話してから芝居に入れました」と撮影時を振り返った。

さらに大西は「こういう作品で、(例えば今日も)来てみたら男性陣はみんな普段着で女性陣は綺麗な格好をしていて、身の置き場がないんです。楽屋にいてもどこにいても、僕と黒住くんは肩身が狭いんです。絡みのシーンとかある中で、なかなかお二人の顔をちゃんと見れなくて、ひとりで勝手に照れて、黒住くんと関係ない話をしたりして仕事とはいえ緊張するんですよね」と語った。

光子の彼氏・エイジ役を演じた黒住は、「『卍』は何回もリメイクされていて、映画が好きで横山(博人)監督の『卍』を観ていて、今回エイジ役で歴史のある作品に携われるのが嬉しかったし、初日満席で嬉しい」と語った。現場中は「新藤さんとは現場でも言葉で多くコミュニケーション取っていたわけではないが、光子のキャラクターと同じくらい何を思っているのか掴みづらくて、それがすごく映画の中に合っているんじゃないかと思った。逆に小原さんは読み合わせをやった時に話を聞いてくれる、優しいと思って」と女優二人の印象の違いに触れた。

昭和の名作を令和に――『卍』誕生秘話

本作の企画について聞かれた井土監督は「『卍』は増村保造監督、横山博人監督、井口昇監督など過去にたくさん撮られていて、先行するものが多いとたくさん勉強できるので勉強しながら撮ったという感じなんですよね」と語った。続けて「今や女性どうしが恋愛したり肉体関係持つことって何のタブーでもスキャンダルでもない、むしろ自然なこととして捉えられている。もともと谷崎の原作ではそこがポイントでタブーに触れている、禁断の、あるいはスキャンダラスだったが、じゃあ今やるならそこの枷は無くなるよねというところと、あともう一方で現代は既婚者の不倫とかに非常に厳しい社会になっている。つまり、谷崎のころとは価値観が逆転している。この時代に谷崎を読み直すとしたら、そこで残るものって何だろうかと考えてみた」と企画意図を説明。

司会のぶっちゃあが「令和の時代に合ったスタイリッシュな都会的な映画だと感じた」と言うと「僕はスタイリッシュで都会的な人間ではないが、なんとかそうなるように、女性二人を撮る上で、園子をセレクトショップの経営者にして、僕だけではなく、制作担当の方にも頑張ってもらった」とスタッフをねぎらった。

「現場では『ドライにお願いします』『泣かないでください』と」

光子を演じた新藤は「監督からは好きにやっていいよと言われ、のびのびやらせてもらった。撮影でオッケーをもらってもこれでいいのかと模索する感じでした。普段から私自身、自由奔放ではあるんですけど」と話すと、小原が「今の話を聞いていて監督の作戦がすごいなと思って。過去の『卍』も光子の狂気をどう描くかというのがすごい考えらえているが、今回は令和版だからこそ、そこに狂気だけではなく光子の危うさも人間として描いている。だからこそ(新藤さんの)素材を生かした演出というのがやはり素晴らしいなと」と言葉をつないだ。

井土監督は演出について「ご本人たちがもっている資質をあまり抑圧しないようにということが一番大事かなと。気を付けていたのは、二人でお芝居していると甘い方に流れがちだったので、『ドライにお願いします』『泣かないでください』とそのことは現場で言っていました。

最後にコメントを求めらた新藤は「『卍』は今日から公開が始まって、このあと全国で色々な劇場で公開されていくと思いますので、もう私たちがどうにかするというよりはみなさんに観てもらって作品が完成するので、1回2回といっぱい観に来てもらえればなと思います」と語った。続いて小原が「今まさに時代が変わろうとしている時だなと思っていて、それぞれの価値観が認められる時代だからこそ生まれたのがこの『卍』だと思っていますので、みなさまがどんな風な感想を持ってくれるのか、すごく楽しみにしています。『ハッシュタグ 卍』で感想をきかせてください」と会場に呼びかけた。最後に井土監督が「新藤まなみ、小原徳子の光子と園子をぜひご堪能ください」と締めくくった。

『卍』は新宿K’s cinemaほか全国順次公開中

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