<レスリング>【特集】「世界選手権の優勝しか頭にない」…パリ確定第1号なるか、男子フリースタイル57kg級・樋口黎(ミキハウス)

 

(文・撮影=布施鋼治)

 「調整の方はボチボチ。いつも通りという感じですね。あとは、しっかりと減量するだけです」

 2023年世界選手権が、いよいよ9月16日にセルビア・ベオグラードで開幕する。昨年の男子フリースタイル61㎏級で優勝した樋口黎(ミキハウス)は、今大会はオリンピック階級の57㎏級に移して2年連続優勝を狙う。大会第2日(17日)に登場する。

▲世界選手権を前に最後の調整に励む樋口黎(ミキハウス)

 東京オリンピック出場権をかけた2021年4月のアジア予選(カザフスタン)では、計量失格というミステークをおかしている。樋口は「もう、特に引きずっていない」と語る。「ただ、しっかりと前回(の失格)を教訓として、同じミスをしないように調整していきたい」

 9月8日、都内で公開練習を行なった時点で、体重はミリットまであと4.5㎏というところまで落ちていた。

 「出発(12日)までに1kg落として、残りは現地に到着してから脱水して落とします。最後は水分で落とすしかない。今は、水分を1日6リットルくらいとって、代謝をよくする時期。まだまだしっかりと動けています」

57kg級のシード選手をビデオで徹底研究

 すでに唇の皮はむけていた。約90分の公開練習時の後半はバイクをこいでいる姿が印象的だったが、樋口は「(減量のために)頑張ってバイクというわけではない」と補足した。「自分がマットに入っていない時間がもったいないので、有酸素運動を入れたくてやっていました。今はしっかりとスパーリングに集中したい」

▲スパーリングの合間にもバイク・トレーニング

 樋口といえば、対戦相手の試合映像をじっくりと見ることで有名だが、今回も「57㎏級のシード選手の情報も協会のホームページに出ていたので、全部チェックしました」と言う。「対策は全部できていると思います。ただ、試合当日になって(抽選を)引かないと誰と当たるか分からないので、組み合わせが決まってから、試合前に見直したいですね」

 順調に勝ち抜けば、前年に57㎏級を制したゼリムハン・アバカロフ(アルバニア)や東京オリンピックで金メダルを獲得したザウール・ウグエフ(AIN=ロシア)との争いになることが予想される。樋口もアバカロフやウグエフとの対決をシミュレーションする。

 「練習前になったら、(彼らの試合を)1試合は見るようにしています。もう何試合みたか、分からないくらい見ています」

61kg級王者としての周囲からのマークは「覚悟している」

 61㎏級の前年王者として、樋口へのマークは厳しくなることが予想されるが、それは覚悟のうえだ。「みんな僕の片足タックルとか対策してくると思う。でも、僕はそれを上回るフィジカルと技術を持っていると思うので、それをしっかりと出したい。ロースコアの展開になると逆転される展開もあると思うので、全試合とも10点取るつもりで攻め続けたい」

▲優勝候補の一人、昨年王者のゼリムハン・アバカロフ(アルバニア=元ロシア)

 樋口の長所は大一番になっても、必要以上の緊張を感じないことが挙げられる。2016年にリオデジャネイロ・オリンピック57㎏級で銀メダルを獲得したときも、オリンピック初出場だったにもかかわらずリラックスして闘えたという。

 「自分は大事な試合で緊張しない。かしこまっていかなきゃ、という方でもないので、いつも通りに闘いたい。今も、練習していないときにはリラックスをしてゲームをしたり、漫画を読んだりしています。セルビアでも同じようにやるだけですね」

 3位以内に入賞すればオリンピックの代表権を獲得できる。樋口は「正直、パリのことはあまり深く考えていません」ときっぱり。「今は世界選手権で優勝することしか頭にない」

 力まずに最初から最後まで攻め続けるレスリングで、パリ確定第1号となるか。

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