ドローンの仲立ち

 〈生命は/自分自身だけでは完結できないように/つくられているらしい〉。詩人、吉野弘さんの「生命は」という一編はこう始まり、花をその例に挙げる。〈花も/めしべとおしべが揃(そろ)っているだけでは/不十分で/虫や風が訪れて/めしべとおしべを仲立ちする〉▲「虫」とは主にハチやチョウだろう。「雄のハチ」という意味の小型無人機ドローンもまた、優れた仲立ち役らしい。先ごろ五島市から長崎市へ、ドローンの物流デモ飛行があった。片道100キロに及ぶ物流の実証飛行は国内初という▲五島から特産品の「鬼鯖鮨(さばずし)」を1時間ほどで長崎へ届け、半径10メートルの回収地点へ正確に着地させた。今どきのハチは、花粉ではなく「新鮮さ」を乗せて飛ぶ▲物流サービス会社が、島から島へ、ある時は医薬品を乗せて飛ばし、ある時は日用品や食品を届けている。買い物がままならない離島の人々が受け取るのは、何よりも「安心」だろう▲無人飛行機はかねて農薬をまくのに使われてきた。今では配送、測量、災害現場の確認や捜索と、役割はぐんと広がっている▲注文した品をドローンがすぐさま自宅に配達する…。いずれ空想話ではなくなるのだろう。働きバチと比べ、実際の「雄ハチ」はまるで働かないというが、人工バチは多事を極めるに違いない。(徹)

© 株式会社長崎新聞社