大阪万博 吉村知事「予算の増額なし」のはずが、万博協会は「必要な額の精査中」

(写真:時事通信)

あれっ? 少し前まで“大阪のイベント”と思っていた大阪万博が、いつの間にか“国家プロジェクト”に格上げされている……。そんな展開に違和感を覚えた人も多いのでは?

「総理大臣として成功に向けて政府の先頭に立って取り組む決意だ」

8月31日、「大阪・関西万博」(以下、万博)について行われた、大阪府の吉村洋文知事らとの会合でこう語った岸田文雄首相。パビリオン建設の遅れなどで2025年の開幕が危惧されている万博の「はた振り役」になることを宣言した形だ。神戸大学の小笠原博毅教授(社会学)はこう語る。

「党勢拡大を狙う日本維新の会の共同代表である吉村知事は、万博を成功させて自分や党の功積にするつもりだったのでしょう。しかし建設費が上振れするなどさまざまな課題が噴出し、当初の目論見に不安が生じた。岸田首相とタッグを組むことで責任の所在をあいまいにし、万博が成功と言えなくなっても、批判の矛先を変える狙いがあるのかもしれません」

今年4月に行われた大阪府知事選、市長選のダブル選挙で、吉村知事は「(万博を)最後まで責任を持ってすばらしいものにする」と演説している。また、立憲民主党の蓮舫議員からの批判に対し、7月20日にX(旧Twitter)で《万博の成功は僕の公約の柱の一つ》と反論するなど、万博を自分の責任で開催することに強いこだわりを持ってきたはずなのだが……。政治アナリストの伊藤惇夫さんもこう指摘する。

「今年7月に万博の華である海外パビリオンの『建設申請ゼロ』というニュースが流れました。万博が開催できるかどうか瀬戸際に追い詰められた吉村知事は急きょ、『万博は国家事業で国が主催すべき』と方針を変え、政府に泣きついたのです。

それまで“お手並み拝見”とばかりに静観していた岸田首相ですが、吉村知事が“国主導でお願いします”とヒザを屈した。政治は貸し借りの世界ですから、岸田首相は維新に恩を売るチャンスと考えるのが当然です。国会審議や選挙の協力などのなんらかの約束を取り交わしたはず。大阪府の選挙区では圧倒的に強い維新が、1?2議席を自民党に譲る“お礼”があってもおかしくありません」

万博の会場建設費は、国、大阪府と市、経済界が3分の1ずつ負担することになっている。つまり3分の2は税金だ。しかし、資材価格の高騰や人手不足の影響で、2020年12月時点で、会場建設費は1250億円から1850億円に引き上げられている。

吉村知事は、昨年10月26日の囲み取材で、「(会場建設費を)1850億円の予算の範囲内でおさめていきたい」などと明言してきたが、その時点から物価はさらに高騰しているうえ、準備の遅れもあって、建設費のさらなる上昇が懸念されている。

“予算の範囲内でおさめる”という約束は守られるのか。吉村知事も副会長を務める、万博の運営主体「日本国際博覧会協会」に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「会場建設費については資材高騰の影響により、増額の懸念が高まっていることから、8月31日に政府のほうから指示があり、必要な額の精査を行っているところです」

岸田首相と吉村知事がタッグを組んだとたん、予算の枠を超え、さらなる血税がつぎ込まれる可能性があることを示唆された。吉村知事が共同代表を務める日本維新の会は「身を切る改革」を信条としてきたが、“公約の柱”である万博だけはどうやら特別になりそうだ。

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