「空気中に蒸発した長男...」息子を9.11で失った日本人父の苦悩【米同時多発テロから22年】

By 「ニューヨーク直行便」安部かすみ

(c)Kasumi Abe

静寂な空気に包まれる中、目を閉じると両側にある噴水の水しぶきの音だけが聞こえてくる。

ニューヨークの世界貿易センタービル跡地「グラウンド・ゼロ」では、現地時間9月11日の午前8時30分から、追悼式典が開かれた。

今年も壇上では、遺族が交代で亡くなった1人ひとりの名前を読み上げた。旅客機がビルに突入、倒壊、墜落した同時刻には鐘が鳴らされ、人々は黙祷を捧げる。

遺族用の貴賓席には、日本人らしき男性が座っていた。私はチャンスを窺い、声をかけた。

住山一貞(すみやまかずさだ)さん(86歳)。テロの犠牲となった杉山陽一さんの父親だ。陽一さんは当時、世界貿易センター内の富士銀行(現・みずほ銀行)で総務の仕事をしていた。

おそらく遺族としてもっとも酷な記憶だろうと思い、最大限の気配りとして答えられる範囲でお願いしますと前置きをしつつ、陽一さんは発見されたのかを確認すると、住山さんは静かにこう言った。

「体のほんの一部ですね。ボディ自体は見つかっていない」

住山さんは事件後、何度もニューヨークを訪れた。イーストリバーの近くにある市の施設に当時、遺体が収容されていた。「陽一の遺体の一部が発見されたのは10月くらいだった。メディカル・イグザミナー(監察医)は大きなご遺体から順番にDNA鑑定をするのですが、陽一のは小さいので、DNAで身元が判明したのは翌年の3月、4月ごろでした」。

(本文より一部引用)

Interview and Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)本記事の無断転載・AI学習への利用 禁止

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