岩本功・ジュニアデビスカップ監督、日本ジュニアの求められることは「苦しくなってから闘う、ファイトする取り組みが練習から必要」

西岡良仁、綿貫陽介らの成長を間近で見てきた岩本功氏が語る日本男子ジュニアに必要なもの

今年のUSオープンでは、坂本怜(誉高校)がベスト8、松岡隼(桜田俱楽部)が初戦敗退となった。望月慎太郎(IMG Academy/世界ランク197位)が2019年に優勝したことを考えると、まだ伸びしろはあるようにも思える。全豪、全仏オープンでベスト16の西岡良仁(ミキハウス/世界ランク44位)やトップ100入りを果たした綿貫陽介(フリー/同85位)ら、長年ジュニア時代から見てきたジュニアデビスカップ代表監督を務める岩本功氏に、日本男子ジュニアが世界で戦っていくためにジュニア時代で必要なことを聞いた。

――(8強入りした)坂本怜選手をどのように見ていますか。

彼は日本人選手の中では規格外の選手です。背が高く、この夏も背が1㎝伸びて194㎝になりました。今後は筋トレ、体づくり、またフットワークの強化が必要だと思います。(練習中に坂本選手がミスしたのを見て)簡単なミスが無くなれば良いのですが、それにはもう少し時間がかかり、下半身の強化も必要です。手足が長いことや物怖じしない性格も魅力ですね。

試合を重ねて経験を積むことで、まだまだ可能性は未知数。17歳という年齢は来年もジュニア部門に出場できるという意味では時間もあります。アドバンデージはありますが、早くこのステージ(ジュニア部門)をクリアして上の方にいってほしい。今の年代の中ではいい方だと思います。現在のジュニアランキング(9月4日時点でITFジュニアランク21位)ではシードには入れなかったのですが、相手も(坂本)怜をタフな相手だと思っていると思います。身体がしっかりできてきて体幹ももっと強くなったら変わってくるでしょう。フィジカルを強化していくことによって更なるプレーの質の向上が期待できます。

――去年に比べるとプレーしっかりしている印象です。

サーブは持っているものに関しては言うことがない。あとは選択肢だったり、大事なところで力まない。どうしても子供、ジュニアなので大事なポイントで硬くなる。

――それは伝えていって変えられるものなのでしょうか。

自分がその場の経験を踏むことだと思います。このようなグランドスラムの大舞台でできるということですね。それが上に行くことのできる近道です。

――他のITFジュニアのツアーと比べてもグランドスラムというのはやはり違う舞台。

雰囲気も違い、フレンチオープンやUSオープンなどみんなが目指しているところで本当のトップしか出場しないというのもあります。今、ランキングシステムが変わりジュニアの上位何人かはATPのチャレンジャーにワイルドカードで出場できる本数も与えられていて、女子もそのような制度があります。これまではジュニア大会をスキップする子もいるけれど、上位の選手でもグランドスラム本戦に出るという流れになってきています。それ以上に早く(坂本選手には)卒業して欲しいと思っています。

――これまで多くの日本人のジュニアを育ててこられたと思いますが、現に西岡選手が20位台になった今年。誰がどう伸びていくかは分からないのですが、伸びていく要因があれば教えて下さい。

伸びていく子は「個性が強い」、(西岡)良仁がジュニア時代にここ(USオープン)に連れてきた時、単複ベスト4でした。もう一人の内田海智もベスト4だった時、日本人がここまで残れるのかと思った記憶があります。こういう場に来たことにより、良仁に関してはそのエネルギーがあるだけに抜けていきました。海智に関しても早く100位以内に入って欲しいと思います。

元々、日本人というのが(錦織)圭を除いて、30歳を越してトップ100に入っていたので個人的には早いところそれを変えたいという思いがあります。(綿貫)陽介も芽が出てくれた。陽介がUSオープンジュニアに初めて出場した時は、2回戦でライリー・オペルカ(アメリカ/自己最高ランク17位/現在怪我でツアーを離脱中)に負けた(2015年:4−6、1−6で敗退)と記憶しています。

こういう場を経験しながら選手強化に取り組んでいます。昔はアジアのITFジュニアツアーを回ってジュニアトップ10というやり方を取っていましたが、その当時はグランドスラムジュニアに出場できてもほぼ全部1回戦負けという歴史がありました。その方法を10数年前に変えることにしました。

――それはあえてレベルの高いタフなところに飛び込んでいくという方法を取ったということですね。

そうですね。修造チャレンジ、NTC(ナショナルテニスセンター)合宿、海外遠征、16歳ぐらいからジュニアデビスカップ組はオランダ遠征、ヨーロッパの今で言えば「J60」(かつてのグレード4)、南米遠征やヨーロッパ遠征など少しでも試合をしてテニスの「質」を上げた。(ダニエル)太郎は違うけど、今の(日本男子の上位にいる)ほぼメンバーは連れて行きましたが、それがあって今があると思っています。

これをスタートし始めた時の年間の目標は、ジュニアグランドスラムでベスト8以上を2回、年末のランキングでトップ10に入ること。年始は卒業生が出てくるので自動的に上がってきますが、そこを勘違いしてはいけません。そして、ATPポイントを取ることでした。

そうやり出して、やっと選手の芽が出てきたのですが、世界のジュニアのレベルが高い年や低い年など波はいまだにあります。(望月)慎太郎の頃のジュニアのレベルは高く、アルカラスやルーネがいました。2019年の慎太郎は全仏ベスト4、ウインブルドンで優勝、ジュニアデビスカップも世界一になったりしたことを考えると自分達にできることとしては、「環境」は大事だと思います。自分達だけでは選手を伸ばすことは限りがあり、「盛田ファンド」であったり、現在だと「ラファ・ナダル・アカデミー」に 行っている選手もいる。日本の各ホームコーチなども含め、その中で切磋琢磨しながら日本人選手のサポートをしています。

この夏に日本に帰った際には、日本のNTC(ナショナルトレーニングセンター)で合宿を行い、プロの練習にヒッティングとして入れてもらったりしながら工夫をしています。プロの選手とジュニアとのヒッティングという部分には気を遣いながら、良好な関係になるよう努めています。プロになれば年が10歳離れていても関係なく対戦するので。こういうグランドスラムの舞台を経験し、羽ばたいてデ杯に出場したり国を背負う選手になって欲しいですね。

――アルカラスやルーネもジュニアの当時から上手かったのでしょうか?

アルカラスは上手かった、というかエネルギーがすごかった。スタイルも今と変わらずです。ボールをすごく攻撃的に強く打つイメージですがミスは多かった。南米遠征に選手を連れていった時に齋藤惠佑がアルカラスにストレートで勝っていました。それが3〜4年前なので超エリートがものすごいスピードで成長したことになります。世界には超エリートがいて、エリートもいます。怜の場合は世界基準から見てエリートにいます。ただここから先が長い。

――追い込まないと成長しない、追い込みすぎても怪我につながるのでバランスを取るのが難しそうです。

彼はキャラクターもいいので。少しポイントがかかる場面で弱気なプレーになることもありますが、その殻を破らないといけない。こういう舞台の試合で(強気で)できるということ、それが普通でなければいけません。

USオープンジュニアシングルスでベスト8入りを果たした坂本怜

――それば教えてできるものでしょうか。

場数と経験です。それを言って、できるのであればみんなフェデラーやジョコビッチになれます。そんなものではないと分かっているから毎日、毎日の積み重ねが大切になってきます。

――現在のテニスは昔とは違いすぎるように思います。ドロップショットを拾う、ロブが上がりそれを取る、サイドに打ち込んでも決まらない。運動量を求められ、コートセンスも求められます。

(身体が)大きくて動けたにこしたことはない。それは海外にはたくさんいますが、怜のサイズは修造さん以来だと思います。15歳の時からこの舞台を経験しているということは世界のレベルの中にいる、ということだけの魅力もあります。

――日本人の良さと改善した方が良いところなどあれば教えて下さい。

個性が大事、エネルギーですかね。日本はどうしても枠の中に入れてしまいがちなところもあり、抑えつけられるわけではないですが、伸び伸びすることも大事なことだと思います。もちろんダメなものはダメ。ラケットを折ったりするなど態度のところですね。人間なので完璧な人はいないのですが、「個性」というのは大事な要素となってきます。エネルギーが出てくるかというのもポイントになります。

苦しくなってから闘う、ファイトする、ギアを上げるとかの取り組みが普段の練習から必要になってきます。それがこういう試合になった時にできることで自分のものになっていきます。(坂本は)もう少し体重が増えていくといいですね。他にも海外にいる日本人選手で良いプレーヤーがいます。その子たちが2、3年後に出てきて欲しいし、近いところで来年はいいプレーヤーが出てくると思います。

――日本人選手は皆さんとても器用だと思います。

日本人は基本的に真面目です。そういうところでアメリカの大学に好まれる選手が多いと感じます。海外はそういう意味では「えげつない」子がたくさんいます。あれが「個性」なんです。しかし、あとになって蓋を開けるとそういう選手が伸びてくる例をたくさん見てきました。私自身も高校から大学までをアメリカで過ごした経験からも重なりますが個性は大事です。

――テニス界以外にも通じるお話のように思いました。

可能性があるのであれば、海外のファイターと早めに試合をさせてあげたい。それが当たり前にならないと。以前もオランダ遠征にジュニアを連れていきましたが、アウトの判定をして(クレーコートで)相手がベースラインまで来て(マークの確認のために相手のコートに行き確認可能なルール)その迫力に威圧され(2回も)てしまいポイントを持っていかれました。そういうものなんです。だから「経験」というのは大事です。良い子なんです、良い子すぎるんです。

――その試合後のミーティングはどんなの内容になるんでしょうか。

「勝ちにきたんでしょ?」と。テニスとはそういうもので、マークがわかっているのであれば、そこから目を離さずに土に印をラケットでつけて自分が「これだ!」とアウトを主張すべきです。それに慣れるしかない、最初からそれができる人なんていないんです。

良仁を含め、みんな最初の頃はそうでした。でも場数を踏むと「譲らない」。審判を自ら呼んできてファイトして「これが俺のコールだ!」と負けず嫌いでした。それはもう『鉄則』です。コートに入れば檻の中ではないけれどファイトできる人、それは大事です。人が変わるではないですが、そうやってもテニスを楽しめる人、好きなテニスで勝つということに楽しみを見い出せるかです。

今は昔と違う点で言えば試合の回り方もあります。こういうグランドスラムジュニアに出ながら、プロの大会に出場するのも大事なこと。全てジュニアの大会に出るということは、その枠にはめてしまうことになります。上のプレーヤーと対戦することが重要で、例えるとすれば、簡単な道を選ぶということは水槽に入った魚のようで、それを海に放しても生きていくことは難しいように思います。だから外に出ていくんだと。

――いきなり海(ATPツアー)は難しいので水槽(ジュニア)との併用でうまく移行していくと。

世界は広い。日本だけにいると勝手にお山の大将になることになります。だから昔は勝てませんでしたが、今は違う。実践し結果が出てきています。錦織圭が、そして良仁があのサイズで勝っています。

――それを証明したということですね。

そうです。先日、良仁とご飯を食べる機会があり、その席でも彼もそのことを言っていました。

――そういう経験をした先輩たちからいろいろ伝えてもらうことは嬉しいですね。

圭なども合宿していたら顔を出してくれたりします。それがまた日本チームのいいところでもあります。ジュニアと打ってくれるプロ選手との機会も少ないのが現状です。現役でツアーを回っていれば練習のタイミングを合わせることも難しいのかもしれません。

――最後は人と人。

そうですね。運もあるし、出会いも大事にしないといけない。その時の「環境」というのは大事ですね。

――環境にはすごく気を遣っているように思います。

それは人として応援される人間でないと。良仁はここだけの話、態度が悪いというけれどとても「いい奴」なんです。ジュニアたちと遊んでくれたりもしてくれるし。ただ試合の時になるとファイトして(周りが)見えなくなる。彼が14歳の時に遠征に連れて行き、ラケットを投げたりしたこともありました。それを叱り注意し、1〜2時間どこかに行って泣いていたかと思えば、気がついたら隣にちょこんと座ってきてゲームしてたんです。

――かわいいですね(笑)

かわいいんですよ。(西岡選手の人柄をふまえ)それとは別に試合中に対する彼のエネルギーと生き残りを賭けた気迫を感じると思います。あれがなくなったら良仁ではなくなる。あのエネルギーをマイナスではなくプラスの方に持っていって欲しいなと思います。

――50位以内の壁を破るのも凄いと思いましたが、20位台(現在は44位:9/3日現在)にいくことは異次元だと思います。お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

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