【角田裕毅を海外F1ライターが斬る:第14/15戦】レッドブルが2024年に角田を抜擢すべき理由とペレスの現状

 F1での3年目を迎えた角田裕毅がどう成長し、あるいはどこに課題があるのかを、F1ライター、エディ・エディントン氏が忌憚なく指摘していく。今回は、第14戦オランダと第15戦イタリアについて語ったもらった。

─────────────

 私は、正しいと感じたらすぐさま決断することをためらわない。したがって、彼らが、フレッシュでエキサイティングな可能性が目の前にあるのに、最適とはいえず、将来性もなく、避けられないことを先延ばしにしているだけと分かっているソリューションに、なぜこだわり続けるのか、私にはさっぱり分からない。

 もちろん、リスク管理はチーム首脳陣にとって大事な仕事のひとつだが、リスクを全く冒さない人生は退屈だ。勝ち続けるために重要な要素が揃っているのであれば、多少のリスクを取って踏み出してみるべきではないだろうか。意外と、大きな波に見舞われることなしに、新しい成果を得られるかもしれない。

 何の話をしているのか、と当惑している人もいるだろうから、これからじっくり説明しよう。私が言いたいのは、私がヘルムート・マルコ氏の立場だったら、今シーズン末でセルジオ・ペレスを退場させて、若い角田裕毅をレッドブルに入れるだろう、ということだ。もちろん、ペレスは2024年末までの契約を結んでいるし、チームに多額のスポンサーマネーをもたらし、彼の人気のおかげでメキシコでレッドブルが飛ぶように売れている。ペレスはいま、選手権2位の位置にいるし、シーズンここまでで2勝を挙げている。そんなことはすべて分かっているが、他の要素にも目を向けようではないか。

 今のペレスは精神的に行き詰まっており、特に難しいコンディションの際には、マックス・フェルスタッペンとの差が非常に大きい。たとえば、ザントフォールトのウエットコンディションのスティントがそうだった。そしてペレスは、フリープラクティスで驚くほどの頻度でクラッシュし、それがチームの準備作業に悪影響を及ぼしている。さらに、信頼できる筋から聞いた話では、オーストリアGPのスプリント1周目にペレスがフェルスタッペンを芝生に押し出してから、ふたりの関係は、ペアを組んで以来、最悪の状態にあるということだ。

2023年F1第15戦イタリアGP マックス・フェルスタッペン&セルジオ・ペレス(レッドブル)

 F1技術レギュレーションがあと2年変わらないことから考えて、フェルスタッペンが2025年末まで勝ち続けることはほぼ確実だ。今年ほど支配的ではないかもしれないし、ライバルたちが徐々に追いついてくるにしても、2024年と2025年のタイトルをフェルスタッペンが獲る可能性は極めて高いだろう。そのため、レッドブルのセカンドドライバーは、彼をサポートする役割を果たす必要がある。たとえば、最初からそう明確に伝えて角田を起用すれば、彼は大きなプレシャーなくレッドブルからグランプリに臨むことができ、その結果、真のポテンシャルを発揮することができるかもしれない。

2023年F1第15戦イタリアGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 レッドブルにとって、ペレスがフェルスタッペンの将来の後継者でないことは確かだ。しかし、角田やリアム・ローソンなら、そうなる可能性はある。そのポテンシャルを測るために、角田をレッドブルに昇格させ、アルファタウリではローソンのチームメイトとしてダニエル・リカルドを走らせてはどうだろうか。ローソンはF1に乗ってから日が浅いが、速さと安定感があることをすでに証明している。2024年に契約に従ってペレスを残せば、ローソン、角田、リカルドの誰かを外すしかない。私なら、将来を考えて、ペレスを切るだろう。

……そうそう、このコラムのメインテーマは、角田のグランプリでのパフォーマンスを評価することだった。オランダでは、ジョージ・ラッセルと接触するまでは良いレースをしており、ポイントを獲得できた可能性があっただろう。このペナルティは幾分不公平なものに思える。ジョージにはアウト側に十分スペースがあり、ターン1に向けて、より速いラインを取ることができた。彼は、角田があれほどブレーキングを遅らせるとは思わなかったのだろう。モンツァについては、残念だったとしか言いようがない。予選では、完璧なラップを走っていれば、Q3に進めただろうが、それでも11番手は非常に良い結果だった。だが、トラブルでレースをスタートすることができず、そのポジションが無駄になってしまったのだ。

2023年F1第15戦イタリアGP 角田裕毅(アルファタウリ)

────────────────────────
筆者エディ・エディントンについて

 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。

 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。

 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。

 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちがあるのはバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。

© 株式会社三栄