2023年10月から始まる【インボイス制度】の焦点は?よゐこ有野「話が見えてきた」

お笑い芸人・よゐこの有野晋哉さんが、毎月さまざまな専門家をゲストに迎えて、お金の知識を身に付けていく「お金の知りたいを解決!お金の学園〜学級委員・よゐこ有野晋哉〜」。2023年9月は税理士の小島孝子先生に、インボイス制度について伺いました。

今回は、「インボイス制度の導入で何が変わるのか」について解説いただきます。


有野晋哉(以下、有野):10周年イベントの時は日本武道館が満員で大騒ぎやったけど、今回の感謝祭は倍以上の1万5,000人か~。ワクワクするけど、来た人らを満足させられるか、やっぱり不安もあるなぁ。

小島孝子(以下、小島):1万5,000人はすごいですね! さいたまスーパーアリーナのイベントですよね?

有野:そうです! 「ゲームセンターCX」の感謝祭イベントで、10周年の時が武道館、20周年の今回がさいたまスーパーアリーナになりました。武道館の時は観客が7,000人やったから、席はかなり増えたんです。

小島:1万5,000人がゲームで大騒ぎするって、私からするとイメージしづらいですね。どういうポイントで盛り上がるんですか?

有野:難しいところをクリアすると歓声は上がりますね。それでこっちもテンションが上がるんです。でも、いい所でミスすると1万5,000人のため息が聞けます。その後、「課長がんばれ~!」なんて応援してくれる人もおったりして、支えられます。4時間くらいの公演ですけど、大騒ぎのイベントですね。あ、大騒ぎといえば、いま「インボイス制度」も騒がれてるみたいなんですけど、なんでそんな騒ぎになってるんですか?

小島:前回は、主にインボイス制度が導入される背景についてお話ししましたね。今回は、インボイス制度が始まることで「これまでと一体何が変わって、どうして問題になっているのか」を中心に、お話ししたいと思います。

有野:よろしくお願いします!

「課税事業者」と「免税事業者」

有野:でも正直なところ、いま一つピンとこないんですよ。消費税の税率が上がるわけではないんでしょ?

小島:税率うんぬんとは全く別の話です。とりあえず、今回のインボイス制度の導入に合わせて消費税の税率自体が上がることはありません。まずは、制度の概要とポイントからお話ししましょう。

有野:そもそも、「インボイス」っていうワード自体、なんなのかわかってないんですよ(笑)

小島:確かに、インボイスという横文字だと馴染みが薄いかもしれませんね。インボイスを日本語でいうと「適格請求書」。インボイスの登録番号、税率、消費税の金額などが記載された請求書のことです。前回、「今後、飲食店などでもらう領収書が、インボイスじゃないと経費として認められなくなる可能性もある」というお話しをしたように、請求書だけではなく、領収書や納品書なども対象になります。

有野:請求書とかを見れば、その会社が「インボイスに登録していますよ~」っていうのがわかる、ってことですか。

小島:そうですね。税務署に申請して「適格請求書発行事業者」の証明になる登録番号をもらって、それを請求書や領収書に記載することになります。

有野:登録したお店は、領収書の自分の店の住所や名前、電話番号のほかに登録番号も載せないといけないって事か。追加しないといけないのは面倒そうやけど、申請して登録するだけですよね。それの何が問題なんですか?

小島:焦点になるのは、「課税事業者」と「免税事業者」という分類です。これまで、売り上げが年間で1,000万円以下の事業者は、消費税の支払いを免除されていました。

有野:あ~っ、それ聞いたことあります。「1,000万円以下だと消費税は払わへんでええんか!」って思った記憶があるわ。

インボイス制度の焦点は「仕入税額控除」

小島:たとえば、あるハンバーガー屋さんでハンバーガーセットが売れ、2,000円の売り上げがあったとしましょう。それにかかる消費税は200円。当然、お客さんは消費税込みで2,200円を支払うことになります。でも、ハンバーガー屋さんも、自分たちでお肉やパンなどを生産しているわけではないので、仕入業者から材料を買って、お店で調理しています。

有野:ハンバーガーといえば、どんどん値段が上がってきてますよね、前まで1個100円もしなかったもんなぁ。あれくらいのハンバーガーは食べやすいけど、1個2,000円とかするハンバーガーって、具が多くて分厚すぎて、それをデートで食べるって考えたら、食べる時に開ける大きな口を好きな人に見せられへんと思うねんなー。お店も「ぎゅーって、押しつぶして食べるんです」って、そんな乱暴な。なので僕は、ハンバーガー食べないんです(笑) すみません、続けてください。

小島:ハンバーガーセットの2,000円に対して、材料の代金が1,000円でした。そうなると、仕入元には1,000円の売り上げがあるので、消費税100円を支払う必要があります。この時、ハンバーガー屋さんは原材料の仕入れにかかった1,000円分の消費税を差し引いて、残り1,000円分の消費税だけ納税できます。

有野:うわ、この図すごいわかりやすい! そうか、ハンバーガー屋さんが200円そのまま納税したら、仕入れ時とタブルで消費税を払うことになるもんな。

小島:これが「仕入税額控除」という制度で、仕入れにかかった消費税を差し引いて納税するパターンです。

有野:仕入税額控除……また新しい用語がでてきた! でも好きな言葉の「控除」が入ってる(笑)

小島:仕入税額控除は、仕入れの際に消費税を支払っている「(消費税が)課税された仕入れ」であることが適用の主な要件です。複雑な制度なので、今回は細かい説明は省いて、ひとまず「原材料の仕入れにかかった分の消費税を差し引いて、残りの消費税だけ納税できる制度」という感じで、ぼんやりとイメージできればOKです。

有野:ぼんやりとイメージするのは得意です(笑)

小島:ただ、仕入元が年間の売り上げが1,000万円に届いていない「免税事業者」だった場合、仕入元は消費税の支払いを免除されます。すると、消費税と納税額が一致しないことになります。

有野:でも、バーガーセットを買ったお客さんは200円の消費税を払っているから、ハンバーガー屋さんが200円分の消費税を納めなきゃいけなくなる、つまりハンバーガー屋さんが仕入元の分の消費税まで負担しなきゃいけなくなる、ってことですか?

小島:全額を負担する、というケースも出てくると思います。インボイス制度が運用されることで、この税額を正確に把握することができるようになるんです。

有野:何で? ぼんやりイメージしてたものが、綺麗に見えなくなりましたよ。

小島:この例の場合、仕入業者さんが国税庁にインボイス制度適格請求書発行事業者として登録をして、インボイスを発行することによって、「課税された仕入れ」の証明になりますから、ハンバーガー屋さんは引き続き「仕入税額控除」を活用できます。一方、仕入業者さんがインボイスの登録をしないと「課税された仕入れ」の扱いにならないので、仕入税額控除を活用できなくなってしまいます。

有野:なるほど、話がクッキリ見えました! インボイスがないと、仕入れの時にかかる消費税の分も、ハンバーガー屋さんが負担せなあかんようになる、ってことですね。そうなると、全額負担してるハンバーガー屋さんからすれば、仕入業者に「インボイスに登録してくれ」って言いたなるよなぁ。

小島:おっしゃる通りです。そこが、いままさに問題になっている点なんです。

結局は取引先との力関係がモノを言う?

小島:有野さんがおっしゃるように、ハンバーガー屋さんからすれば、当然、仕入業者にはインボイス制度適格請求書発行事業者として登録してもらって、インボイスの登録番号が記載された請求書を発行してほしいと考えますよね。一方で、仕入業者側からすると、これまで「免税事業者」として消費税の支払いを免除されていたとしても、インボイスに登録することで仕入れ時の消費税を支払う必要が出てきます。

有野:免税事業者って、売り上げが1,000万円以下の会社ですもんね。なのに、売り上げの10%を追加で払わなあかんとなると、その分の売り上げが減る。難儀やなぁ。そら、インボイスに登録したくない、って気持ちになりますね。

小島:そうなりますよね。インボイスの登録は“任意”ですから、「登録しない」という選択もできるわけです。そこで、前回もお話した「圧力」の話につながるわけです。

有野:そうかぁ、腑に落ちました。仕入業者は、ハンバーガー屋さんから「君らの分の消費税も払わなあかんようになるから、インボイスに登録してくれ」って言われるかもしれへん、ってことか。面と向かってそう言われないとしても、「あっちの仕入先がインボイス登録したの知ってる?」って、言葉の“匂わせ”とかありそうやなぁ。

小島:ハンバーガー屋さんと仕入業者の例もそうですが、基本的に取引先が大手で、自分側が小規模事業者の場合、大手の思惑に対して断りづらいのが実情でしょう。仮に直接的にそう言われなくても「インボイスに登録しないと、取引を打ち切られるかもしれない」と、仕入業者側が勝手に思い込んでしまうのも無理はありません。特に、フリーランスや個人事業主の方々で、大企業を相手に取引をしていると、どうしても個人が弱い立場にあるケースが多いと思います。現実的には、力関係がモノを言いそうです。

有野:初めは、インボイスについて「面倒やけど会社から言われてるし、やらなアカンか」くらいの感覚やったけど、かなり根が深い問題なんですね。

小島:そうなんです。今回は「ハンバーガー屋さんと仕入業者」という、1対1の例で説明しましたが、実際には卸や仲卸業者、原材料の一次加工業者など、1つの商品やサービスに複数の会社が関わっているケースが多いですし、もっと複雑になりますね。大手は大手で、替えがきかない仕入先が「インボイスに対応しません」と言われると、仕入先の分の消費税負担が増えるので、利益に影響が出ることになります。

有野:そうか、ハンバーガー屋さんとはいえ、野菜農家、肉、パン、テイクアウトの箱って、仕入先は多いか。フリーランスや個人事業主だけじゃなくて、大手は大手で、いくら売り上げがあるって言うても、仕入先の面倒を全部見るのもねえ。売り上げが減ってきたら、真っ先に切るやろうしなぁ。でも、どうするのが正解かわからんなぁ……。

小島:ただ、今すぐ対応を決めなくても大丈夫です。先ほど「仕入税額控除」のお話しをしましたが、3年先、2026年の9月までは「インボイスに登録していない免税事業者からの仕入れでも、80%は消費税の控除が可能」といった特例が設けられるなど、ある程度の猶予期間は設けられています。

有野:そういえば前回、「すべての会社が慌ててインボイスに対応しなくても大丈夫」っておっしゃってましたね。

小島:そうなんですよ。現実として、「消費税を払うのは嫌だけど、仕事が減ったり、お客さんが減ったりするなら、やるしかないのかな」などと、揺れている事業者さんは多いと思います。インボイス未登録が表向きの理由ではないとしても、何らかの理由で発注を減らされる可能性がないとは言い切れないですからね。

有野:僕も、松竹芸能からインボイスやってくださいって言われてるけど、まだ様子見ときたいから、無視してしまおうかな(笑)

小島:有野さんは、これまで会社と積み上げてきた信頼関係があるでしょうし、対応しなかったとしても、すぐに関係がこじれるということはないと思います。ただ、同じ事務所の若手芸人さんに関しては、対応してもらわないと会社の税負担が増える可能性があるので、対応せざるを得なくなるかもしれませんね。

有野:インボイスに登録しないと、お仕事の営業が減るかもしれへんってことか。そうなると、やらなあかんやろなぁ……。

小島:芸能関係は大きく報じられやすいので、露骨に圧力をかけることはないと思います。ただ、今後2〜3年で会社と話し合いながら、探り探り動いていく感じになるのではないでしょうか。

有野:なるほどなぁ。でも、念には念を入れて、インボイス様子見組にヒコロヒーとなすなかにしも取り込んでおくか、会社との交渉は北野誠さんにお願いしよ(笑)

次回(9月19日配信予定)は「インボイス制度の企業・会社員・個人事業主への影響」について聞いていきます。

有野晋哉
1972年2月25日生まれ。大阪府出身。テレビやラジオ、CM、雑誌の連載などマルチに活躍。コンビで公式YouTube「よゐこチャンネル」も開設しており、幅広い世代から支持を得ている。自身が50歳を迎えた2022年に、お金にまつわる知識の大切さに目覚め、日々勉強中。

小島孝子
神奈川県生まれ、税理士。ミライコンサル株式会社代表取締役。1999 年早稲田大学社会科学部卒、2019 年青山学院大学会計プロフェッション研究科修了。大学在学中から地元会計事務所に勤務した後、都内税理士法人、大手税理士受験対策校講師、一般経理職に従事したのち2010 年に小島孝子税理士事務所を設立。税務や経理業務に関する執筆やセミナー講師の傍ら、街歩き、旅好きが高じて日本全国さまざまな地域にクライアントを持つ、自称、「旅する税理士」。著書に、『会話でスッキリ 電帳法とインボイス制度のきほん(令和5年度税制改正大綱対応版)』(税務研究会出版局)、『ちいさな会社とフリーランスの人のための どうする?消費税インボイス』(税務経理協会)、『3年後に必ず差が出る 20代から知っておきたい経理の教科書』(翔泳社)など。

ライター:新井奈央

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