成功すれば5か国目、地球のことではない「争い」

山陰中央新報デジタル

 19世紀半ばから20世紀初頭にかけての話。世界地図で「未知の領域」といわれていた中央アジア(アフガニスタン、モンゴル、チベットなど)を巡る、大英帝国と帝政ロシアの情報の探り合いは、当時「グレート・ゲーム」と呼ばれ、スパイ小説として描かれた。

 インドを植民地にしていた英国と、不凍港を求めて南に目が向いていたロシアにとって、その間の同地域で主導権を握ることは死活問題だった。日本は明治時代。中央アジアに着目した武官はいたが、国家としての関心は両国に比べると高くはなかったようだ。

 今回は様相が異なる。地球のことではない。月面着陸を巡る各国の競い合いである。日本初を目指す探査機「SLIM(スリム)」と、エックス線観測衛星「XRISM(クリズム)」を載せたH2Aロケット47号機が打ち上げに成功した。来年1~2月ごろ、着陸に挑戦し成功すれば旧ソ連、米国、中国、インドに続き5カ国目となる。

 狙った場所に着陸させるのがミソ。粒がより細かい岩石や水資源の探索ができるなど、高度な画像技術が持ち味となり、米航空宇宙局(NASA)をはじめ各国間の連携も想定される。

 月面探査の結果、有益な鉱物や水資源があったとして、それらは人類全体のために活用されるのか。それとも各国の覇権争いの道具となるのか。地図が地球外に広がった新たなグレート・ゲームの行く先はまだ見えない。

© 山陰中央新報社