<社説>南部土砂、採掘搬出へ 沖縄戦継承にも逆行する

 沖縄本島南部の糸満市米須での鉱山開発で、県は業者が搬出道路の整備のために申請していた農地転用を許可した。琉球石灰岩の採掘、搬出が10月にも始まる。 極めて残念な判断と言わざるを得ない。遺族が懸念する遺骨混入を防ぐことができるのか。激戦地土砂の搬出許可は沖縄戦継承にも逆行する。

 そもそもは沖縄防衛局が名護市辺野古の新基地建設で、埋め立て土砂の採掘候補地に本島南部一帯を追加したことが発端だ。遺骨の混じった土砂が用いられる可能性があるとして、戦没者遺族を中心に反対の声が広がった。

 全国230もの地方議会が遺骨混入土砂を埋め立てに用いないよう訴える陳情を採択し、全国的にも遺族らへの懸念に寄り添う動きが広がった。県議会も同様の意見書を全会一致で可決している。

 県は懸念や批判を受け、開発を進める業者に採掘前に遺骨の有無を確認することを求める措置命令を出して対抗。しかし、国の公害等調整委員会の裁定もあり、業者の採掘計画を受理せざるを得なかった。採掘に向けた道路建設のための農地転用の許諾が焦点で、これに許可が下りた。

 手続きに瑕疵(かし)がなければ、許可せざるを得ないことは理解できる。しかし、沖縄戦激戦地からの土砂搬出に反対する戦没者遺族らの声に応えることはできなかった。打つべき手についての検討と対応は十分だったとは言えない。

 全国の議会に陳情を提出してきた遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表の具志堅隆松さんらは、遺族から意見を聞く公聴会の実施や本島南部の未開発緑地を県有地とすることなどを対抗策として提案、要請してきた。

 南部土砂を埋め立てに使わせない根拠とする具体的提案だった。県の土地買い取りによる県有地化は、次世代が遺骨の収集体験をするための場として保全するという、沖縄戦の体験継承の狙いもあっての提案である。

 県も戦跡公園の保全を図ることなどを目的とする独自の条例制定に向けた検討チームを発足させていた。これらの検討がどれだけ具体的に庁内で行われたのかを明らかにしてもらいたい。

 公調委裁定の業者との合意案で、遺骨が見つかれば採掘を中断することになっている。しかし、業者任せではいけない。県は遺骨混入を防ぐ手だてを担保すべきだ。

 国が進めようとしている軟弱地盤の改良工事は、仮に設計変更が承認されて着工されても、事業費は約9300億円に膨らみ、完工まで12年以上かかる。普天間飛行場の早期返還にもつながらない。

 政府は遺骨収集を国の責務と明言している。南部土砂の問題は県と業者の問題にとどまらない。仮に遺骨が混じった土砂が基地建設に用いられることになれば、戦没者は「2度殺される」との遺族の声に、国も向き合うべきだ。

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