最低賃金1,002円に引き上げも「手取り」増えず 零細企業の倒産危機も

厚生労働省の審議会は7月28日、最低賃金の引き上げ目安を過去最高の41円と決めました。今後は各地で審議され、10月ごろに地域別の最低賃金が正式決定されますが、目安どおりに上がれば最低賃金の全国平均は1千2円。過去最高の上昇率4.3%で、初めて1千円の大台に達します。

最低賃金は企業が従業員に支払う賃金の最低ラインで、全労働者に適用されます。ですから最低賃金の上昇は、働く私たちにとって喜ばしいことには違いありません。

しかし、昨今の物価上昇は激しく、物価変動を除いた実質賃金は14カ月連続でマイナス(厚生労働省)。つまり賃金の伸びより、物価上昇が大きい状態です。

実際に最低賃金が上がる10月には、国による電気・ガスやガソリン代の補助が終わり、物価はもう一段上がるでしょう。

また、増税や社会保険料引き上げの議論もあります。最低賃金が1千円を超えたからといって、手取りが増え生活が楽になるとは思えません。

加えて、日本の最低賃金は諸外国に比べてかなり低いことも問題です。7月11日に発表されたOECDの統計では、’20年12月~’23年5月の最低賃金の伸び率は、アメリカを除く29カ国の平均が29%、物価上昇を差し引いた実質でも2.3%です。いっぽう、同時期の日本の平均は6.5%、実質では0.7%にとどまり、世界の3分の1にも届きません。たとえ1千円超が実現しても、諸外国との差は埋まらないでしょう。

■今年はすでに倒産67件 前年同期の2.3倍

原因は、国が給料アップのための有効な政策をとらないこと。今の賃上げ税制は、従業員の給料を一定以上上げたら、その年は給料上昇分の最大40%法人税を下げるというものですが、そもそも日本の企業の約7割は赤字で、法人税を払っていません。赤字企業に法人減税のメリットはないのです。

また、法人税を払う企業にとっても、給料はいったん上げると簡単に下げられないもの。だから法人税の1回減額くらいでは、給料アップの英断は下せません。

これらの結果、給料アップが遅々として進まないのです。

私は、給与アップに「同一労働同一賃金」の厳格化が有効だと思います。実現すると、非正規で働く人の給料が上がり、楽になる家庭も多いと思います。ただ経団連など雇用する側の反対が根強く、国は決断できません。国には雇う側の顔色ではなく、生活に苦しむ労働者をよく見てほしいものです。

最後に、最低賃金の上昇で1つ心配があります。企業、特に中小零細企業の経営が厳しくなることです。’23年1~6月でも人件費の高騰などに関する倒産は67件。前年同期の2.3倍です(東京商工リサーチ)。こうした倒産がこれ以上増えないよう国の支援が必要だと思います。

家計にとって最低賃金の上昇は“焼け石に水”。私たちは一層生活を引き締めるしかありません。

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