「金儲けの道具」に成り下がった北朝鮮の秋の大運動会

地域によって異なるが、日本の学校において秋の風物詩といえば、運動会だろう。これは、全世界的に行われているのではなく、日本の植民地支配を受けた南北朝鮮や台湾など、一部の地域に限られる。

日本ではお弁当、韓国ではキンパプ(海苔巻き)を昼休みの時間に食べるというのが、典型的な運動会の光景だ。北朝鮮も似たような感じだったが、最近になって変化が生じているという。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

中国との国境に接する会寧(フェリョン)市内の小中高の各学校では今月5日、秋の登山と運動会が行われた。毎年春と秋に行われる登山と遠足、運動会だが、以前は親に包んでもらった弁当や果物を持って参加するものだった。

ところが2010年代からは、拝金主義的な今の北朝鮮の社会風潮が、子どもたちのイベントにも大きな影響を与えるようになった。保護者が教師に現金や値の張るプレゼントなど、付け届けをする日になってしまったのだ。

他の一般国民同様に、現実離れした薄給に苦しむ教師は、記念日や学校行事など、ありとあらゆる機会に、児童、生徒の保護者から金品を受け取り、生活の足しにするようになった。「贈らなければ自分の子どもがどんな目に遭うかわからない」そんな親心を悪用したものだ。

期待している教師に何も持っていかなければ、まともに面倒を見てくれなくなる。そのため、子どもに持たせる弁当は粗末なものにしたとしても、金品を持たせて教師に渡した方が気が楽だという。情報筋によると、その費用は少なくとも200元(約4000円)。

だが、2020年1月からのコロナ鎖国が解けたばかりで、未だに多くの国民が食糧難に苦しむ中、そんな余裕はないという親も少なくない。運動会や登山、遠足に参加できなかった子どもたちがかなりの数に達したという。

ある保護者は、「子どもが学校で登山に行くと喜んでいたが、生活難で送り出せず、胸が張り裂けそうだ」と、その悲しみを打ち明けた。

「担任に50元(約1000円)以上は掴ませなければならないが、どう頑張ってもそんなカネは絞り出せない。そんな状況で子どもを登山に送り出す余裕がないという親が今年は例年にも増して多かった」

何も出せなければ教師の扱いが悪くなるので、それならばいっそ学校行事に行かせない方がマシだと考えた保護者が多かったようだ。20人から25人が在籍する1クラスで、出席率は4割から5割に過ぎなかったという。

逆に言うと、保護者の半分近くがそんな大金を出せる会寧は、他の地域に比べてまだ恵まれていると言えよう。彼らの多くが幹部、貿易関係者、トンジュ(金主、ニューリッチ)と思われる。他の地域では、1日に1000北朝鮮ウォン(約17円)の儲けすら出せないのに、取り締まりのターゲットとなる露天商を営み、生計を立てている人も少なくない。いや、露天商どころか商売そのものが成り立たないほどの寒村に住んでいる人々も少なくないのだ。

「深刻な生活難の最中にある今、秋の登山は児童、生徒にとって楽しみではなく悲しみ、親にとっては心配のタネだ」(情報筋)

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