相次ぐ大学募集停止、厳しい女子大や女子短期大学の時代、 小規模の女子短大になぜ高校生が集まるのか?

今年に入って、伝統ある女子大学の募集停止のニュースが流れたことはまだ記憶に新しい。近年、少子化や社会ニーズの多様化によって、多くの女子大学・女子短期大学が閉校に追い込まれている。しかし、その中でも好調に学生募集を続ける女子短期大学がある。それが戸板女子短期大学だ。

定員割れから、選ばれる大学へ

募集好調の要因について入試・広報部 澁谷太輔部長に話を聞いた。

「戸板女子短期大学でも今から10年以上前は定員割れが続き一時期は入学者が80名になったこともありました。そこから学びや強みを見直し、どうすれば高校生にうちの学校に来てもらえるか?時代に合った学び、企業で当たり前に行っているマーケティングやブランディング手法を取り入れ、高校生に選ばれる大学作りを学校一丸となって行いました。」

他校、特に短大や女子大が学生募集に苦戦する中、10年連続で定員充足を続ける戸板女子短期大学の実績は注目度も高く、全国の大学や専門学校、高校からの問合せや来校見学が相次いでいると言う。

人にフォーカスし、ストーリーで伝える

広報とマーケティングの観点から、澁谷部長は、戸板女子短期大学の魅力は、「人」と「ストーリー」だと言い切る。

「戸板女子短期大学の一番の特長は、学生が入学してから直ぐに企業連携やイベント、課外授業など様々なチャレンジする風土があること。四年制大学に比べて2年間しかないので、入学してから最初から全速力で走り出します。そういった学生が多いので周りの学生が「自分も何かやらなければ」と触発されて走り出す。学生数に比べて、コンテンツが豊富なイメージがありますが、年々やる気のある学生に合わせて増えていきます。戸板女子短期大学の広報は、そうしたたくさんの取り組みやプロジェクトをキャッチアップし、受け取る側が共感できる「人」の魅力にスポットを当てています。

プロジェクト開始から終わった後まで、その時々の心理や行動を段階的なストーリーにして、WEB記事やYouTube、SNS、オープンキャンパスでのプレゼンなど、ありとあらゆるメディアを使い倒して世の中へリリースしています。「プロジェクトをやりました」の報告WEB記事一つで終えてしまうことは、多くの人を巻き込んだ労力の割に凄く勿体無いことです。

最近では、YouTubeなど動画メディアでプロジェクトをわかりやすく残すことで、学生や先生方自身が「次はもっとこうしたい」「去年の先輩よりももっとバージョンアップしたい」と毎年クオリティやモチベーションが自然に上がるような仕掛けもしています。」

魅力ある企業コラボやプレゼンテーション。在学生が大学のファンになっていく

戸板女子短期大学が取り組む産学連携の企業コラボの授業は、『すき家』『WEGO』『Lee』『FRESHNESS BURGER』など、学生も聞いたことのある企業やブランドなど多彩だ。企画から実施まで数カ月~半年くらいの時間をかけて取り組む。

「広報としては、取り組んだ内容や写真、都度都度の学生の感想を全て発表するくらいのつもりで取材しています。また学生や先生のその時の思いや内容を記事ブログでの発信や制作をお願いしています。

企業コラボはもちろんですが、その他の活動でも、学生同士意見がぶつかることもあれば、自分の意見が通らずに涙すること、そして最後に形として世の中にリリースされ、最後には成長の手応えと、一つのプロジェクトに取り組む中で学生の数だけそれぞれのドラマがあります。

学生の等身大の姿を丁寧に伝えていくことで参加する学生自身だけではなく、それを見た周りの学生が誇りに思い「戸板女子短期大学のファンになってもらうこと」が実は大切だと思います。それを見た高校生が「自分もあのプロジェクトを経験したい」と知った状態で入学をしてくる。その「循環」が学生募集にとって重要だと考えています。いわば、人を媒介にしたファンマーケティングですね」

大学側の視点ではなく、常に高校生の目線で

一瞬、市販の女性誌と見間違える戸板女子短期大学のパンフレットは、高校生が読む雑誌のような作りになっている。表紙のモデルは学生、中面も他の大学案内と比べて、1冊200名以上の学生が掲載されているなど、読み物としてもまさに女性誌に近い。このような大学案内を作るにあたっても、コンセプトやデザインの方向性、写真のセレクトなどは、制作会社まかせにせず、広報の担当者が一つずつこだわって決めていく。なぜなら、戸板女子短期大学のブランディング全体を取りまとめていくことが広報の役割であり、それを様々な意見を取り込んでしまって、「アイディアの均質化」というリスクを回避する必要があるからだ。

例えば、ありがちな「パンフレット全体に統一感を出したくなること」はよくないことだと言う。戸板女子短期大学の場合は、学科や学生、学びの個性がバラバラであることが、強みでもあるので、ページの作りやデザインも学科ごとにまったく違うようにしている。個性があることが「コンセプト」だからこそ、この点をブレないように進めて行くことは案外難しい。人は安定したものへと流れるものであり、どうしても、同じ学校であれば統一感を出したくなってくるからだ。そして、あたりさわりのない「均質的な」内容になっていくことは、他の大学や専門学校との差別化、魅力を際立たせることから遠ざかることになる。

学生を巻き込み、学生自体が「媒体化」していく

日常、スマートフォンでのコミュニケーションが欠かすことができない高校生に向けて、ホームページやSNSでの発信の手法についても、他の大学や専門学校からの問い合わせが多いと言う。

「広報が率先してSNSで発信するのではなく、学生自身がSNSで自分の大学のプロジェクトを自慢したくなるような仕掛け、学生がイキイキと活躍できる場=映えるシーンを意図的に用意することが重要です。それが、戸板女子短期大学では年3回開催される学祭であったり、ダンス同好会や部活動、課外活動であったり、企業コラボであったりするわけです。

その中でも、戸板女子短期大学の一番の魅力といえるのが、オープンキャンパスの学生スタッフ『Teamといたん』です。」

現在『Teamといたん』は、「感動を与える日本一のオープンキャンパス」という目標を掲げて活動をしている。自分たちで目標を設定したことで、学生は学校の代表として、ひとつ一つの行動や言動を日本一に適したものかと、不思議と律して振舞うようになったそうだ。

「彼女たちは、高校生や保護者、高校の先生に対して、戸板女子短期大学のプレスや企画者の役割であり、オープンキャンパスや体験の企画、プレゼンテーションなど、学生が主体となって運営しています。戸板女子短期大学のオープンキャンパスに訪れると、その行動力や姿勢、ホスピタリティに憧れて、戸板女子短期大学への入学を希望する高校生も多いです。

正直申し上げて、戸板女子短期大学は定員400名の小規模短大。四年制大学志向の現在において、私たちの学校に対する保護者や高校の先生方の第一印象や知名度は、ほとんど知られていない、といった方がいいかもしれません。ただ、上記に挙げたマーケティング施策から、オープンキャンパスに来てくれた高校生が「短大にいきたい。戸板に行きたい」と保護者や先生方に言ってくれることで実際にオープンキャンパスに来校され、そこで想像を超えてイキイキと活動する戸板女子短期大学の学生をみて、短大でこんなに活気がある学校があるのかと驚かれます。

保護者にとっては我が子の、高校の先生とっては教え子の、1年後、2年後の姿が彼女たちですから。母校の先生に学生が会いに行ったりすると、やはり教え子の成長に驚かれる先生も多いようです。今ではチームといたんだけでなく、他の学生にもその効果は広がっています。」

『Teamといたん』で培ったオープンキャンパスの運営ノウハウを学生募集に苦戦する高校でのオープンスクール研修に協力をしていく。戸板女子短期大学の最大の武器である「学生育成」で高校との連携を進めていく新しい形だ。すでに数校での実施も決まっている。

多彩なコンテンツが就職力を磨き早く社会で活躍する

また戸板女子短期大学では、就職率についても99%(2023年度)という高い実績を出している。就職先も大手食品メーカーやIT、エアライン、ホテルなどの人気の企業が並ぶ。学生は、企業コラボへの取り組みや学祭、部活動のほか、授業で鍛えられたプレゼンテーション力などで自信をつけ、希望する企業への就職を果たしている。それは上位の四年制大学と比べても引けを取らない。

「もちろん、私たちの規模だからできることではありますが、学生がイキイキと活躍できる場をつくり、そしてそれを正しくセレクトして伝えていく仕掛けをつくることが、大学広報の役割だと思っています。

表面的にパンフの見栄えをよくしただけ、記事を出しただけでは効果は続いていきません。その場に参加する学生がその経験を入学前からイメージし、現場や成長を楽しみ、俯瞰的に見ることで広報につながる。そうなると、広報が一つ一つに手をかけずともナラティブ的にストーリーとして自然とうまく回り出します。そうなると、私たちは広報として、新しいメディアやマーケティング手法に向けてチャレンジすることができるようになります」

成功のカギは学生が踊る舞台:戸板女子短期大学が示す女子大、短大の未来

戸板女子短期大学では、多様な「場=舞台」を用意することで、社会人として必要なコミュニケーション力や、マナー、取り組む力、推進力など学生たちの様々な力を磨くと同時に彼女たちの新たな可能性を引き出し、求められる人材として短大として2年間で社会へと送り出している。もちろん、学生がその舞台で「挑戦する=踊る」風土を作り上げるのには、長い時間と労力、そして教職員の一体感や学内での同一指針が必要だと言う。

戸板女子短期大学には、もちろんまだまだ改善すべき余地もあり、学校規模によって向き不向きもあるだろう。しかし学校経営という観点からみて、戸板女子短期大学の成功は、冒頭に述べた「女子大」「短大」苦境の中で、非常に示唆の多い参考にすべきブランディング事例であることは間違いない。

是非、一度オープンキャンパスや学祭など、学生と直接対面するイベントで戸板女子短期大学に訪れ「こんなに元気で活動的な短大があるのか」「この短大ならは自分の娘に入学してほしい」と女子大生たちがイキイキと動く姿をその目で確かめてみることを薦めたい。

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