二枚目不在

 江戸の昔、芝居小屋に掲げた看板のうち、2番目に名を記されたのが二枚目役者だった。華のある役柄が多く、今でもたまに「二枚目」の呼び名は使われる▲小泉純一郎元首相は二枚目役者の選び方が巧みだった。自民党の要職も、閣僚も経験のない安倍晋三氏を党幹事長に抜てきし、国民から拍手を浴びたのはその例だろう。それからちょうど20年、月並みな言い方だが隔世の感がある▲きのう決まった新しい党三役、改造内閣に二枚目役者は見当たらない。看板役者として小渕優子氏を党幹部に就けたが、政治とカネを巡る問題という自身の古傷がさらに広がらないか▲女性閣僚は5人、初入閣は11人。「刷新」と呼んでいいのにそれがためらわれるのは、党も内閣も要職はおなじみの顔触れだからだろう▲来年秋の党総裁選を有利に進めようと、派閥のあちらこちらに目配せし、バランスを取った結果らしい。「二枚目は無用」と、首相の一枚看板で渾身(こんしん)の舞台が務まればいいが、今の低支持率ではそうもいかない▲歌舞伎の荒事(あらごと)(豪快な演技)では、主役をたたえて端役が「でっけえ」とかけ声をする場面がある。首相は国民の喝采を欲するに違いないが、自民党内での“顔色うかがい”の産物を、どうたたえよう。かける声があるとすれば「ちいせえ」だろうか。(徹)

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