派閥のバランスばかり・・・ 首相の「適材適所」に抱く疑念

小渕優子氏(資料)

 適性や能力に合った仕事に就かせる「適材適所」という言葉は、建築現場での木材の使い分けが由来らしい。木材には針葉樹や広葉樹があり木の種類も多様。家屋を建てる木材をどう配置すると最適かを考え、性質に合わせて作り上げることを表現したのが、人事にも使われるようになった。

 1週間前まで内閣改造・自民党役員人事の行方を探る報道陣に「適材適所に尽きる。タイミングは決まっていない」と繰り返してきた岸田文雄首相(自民党総裁)が、ようやく実行した。

 党役員では知名度の高い小渕優子氏を選対委員長に起用。2人だった女性閣僚を過去最多に並ぶ5人にした。人心一新をアピールし、マイナンバーカード問題などで低迷する支持率回復を図りたいのだろう。とはいえ主要閣僚は留任が目立ち、代わり映えがしないという印象だ。

 首相が繰り返した「適材適所」で人事を行うのは当たり前のこと。気になるのは適材適所の前提である。政権の安定を念頭に派閥のバランスばかりに気を取られ、肝心な職務の適性がおざなりになっていないか。原発処理水を「汚染水」と言い間違った緊張感ゼロの農相を見ていると、残念ながら疑念を抱いてしまう。

 適材適所の対義語に「大材小用」がある。才能がある人をくだらない仕事に就けることを指す。せっかくの良木も人気回復ばかりを優先して使い方を間違えば、やがて朽木と化してしまう。

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