<社説>5氏に琉球新報賞 未来を開く道標としたい

 琉球新報はきょう、創刊130年を迎えた。その歩みは悲惨な沖縄戦を挟み、近現代沖縄の激動と共にあった。今回、琉球新報賞を受賞する5氏はその激動のただ中にあって、それぞれの分野で沖縄の幸福を願い、尽力してこられた。沖縄の歩みを振り返りながら、5氏の功績を心からたたえたい。 沖縄振興功労の仲里全輝氏は「県民のため、地域のため」を信条に、沖縄県庁の行政マンとして、県勢発展に尽くした。在職中、交渉・調整力でさまざまな課題に対処した。仲井真弘多県政時には、副知事として経済振興と基地負担軽減の均衡を取る県政運営を支えた。その後も那覇空港ビルディング専務として、離島県沖縄の重要な玄関口である那覇空港の整備・増設に力量を発揮した。

 経済・産業功労の末吉康敏氏はイオン琉球会長、県産業振興公社理事長を兼務し、県産品の販路拡大、中小企業・小規模企業の支援、人材育成を通じて県経済の発展に尽くしてきた。ベンチャー企業の支援、2次産業の育成に力を注ぐ。コロナ禍で痛手を負った県経済の立て直しに向き合う。「県経済構造の脆弱(ぜいじゃく)性が浮き彫りとなった。県や国、経済団体が連携した取り組みが必要だ」と訴える。

 社会・教育功労の石原昌家氏は1970年代以降、大学の教壇に立ちながら、沖縄戦体験者の証言聞き取りを重ね、沖縄戦の実相を明らかにしてきた。多数の著書を刊行し、県史や県内市町村史・字誌の編さん執筆に携わってきた。「平和の礎」刻銘検討委員会の座長を務めるなど平和行政の発展にも尽くしてきた。「沖縄戦を体験した県民の心にあるのは命どぅ宝、非武装の思い」と語る。

 文化・芸術功労の石川文洋氏は常に民衆の視点で戦場と向き合ってきた。世界無銭旅行で赴いたベトナムを皮切りに、カンボジア、ソマリア、ボスニアなど各地の戦場に立ち、傷つく民衆の姿をカメラに収めた。活動の原点は幼少時に暮らした故郷・沖縄である。戦場取材で得た体験を「若い世代に伝えていくのが義務だと思う」と語る。今も現役カメラマン。ウクライナ取材に意欲をみせる。

 同じく文化・芸術功労の祝嶺恭子氏は柳悦孝氏に師事し、首里の織物の制作方法を高度に体得した染織作家として活躍してきた。同時に沖縄の染織品の調査に取り組み、沖縄戦で失われた琉球染織品を再現した。「技法はすべて沖縄の伝統。物から血のつながりを感じる。現代の作品にも伝わっているんですよ」と語る。今年、国指定重要無形文化財「首里の織物」保持者(人間国宝)に認定される。

 5氏は米国統治から日本復帰を経て今日に至る激動の時代と向き合い、それぞれの分野に情熱を傾けてきた。その功績は県民の財産であり誇りとするとともに、沖縄の未来を切り開く道標としたい。

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