水族館館長の“カワウソ吸い”写真に批判続出→謝罪…抗議した保全協会が指摘する危険性「ペット飼育を助長する」

桂浜水族館の公式サイトより

8月28日、公式サイトでコツメカワウソの赤ちゃんが誕生したと発表した桂浜水族館(高知県高知市)。同月11日と12日に、雄2頭と雌3頭の五つ子が生まれたという。

その際、《1年前の8月28日は、ニホンカワウソが絶滅指定になった日です。ニホンカワウソは、1979年に須崎市の新庄川で目撃されたのが最後だといわれています。絶滅の危機に瀕しているカワウソが抱えている問題について、今一度考えてみませんか》と呼びかけていた。

ところが、館長による“あるスキンシップ”が波紋を呼ぶことに――。

桂浜水族館は9月2日、Xの公式アカウントで《カワウソを吸う館長》と投稿。そこには館長が1頭の赤ちゃんコツメカワウソを両手で包み込み、口元に近づけるといった写真2枚が添えられていた。

この投稿に、《ペットではありませんよ!》《これが水族館のやることか… あきれてしまった》《これは水族館の公式? カワウソは野生動物で、吸うものではありません》と非難の声が続々。

また、アジアに生息するカワウソの保全活動を行う非営利組織「日本アジアカワウソ保全協会」も、Xの公式アカウントで《カワウソは国際的な保全対象である野生動物です。過度なふれあいや、「ペットとしての飼育を助長するような情報発信」に当協会は抗議します》と批判していた。

さらに館長の両手にはネイルが施されており、少なくとも3つの指輪を着けていた。そのため、《化粧した顔 マニキュアの指 それって動物に良くないと思いますが?》《アクセサリーつけたまんまなの驚いた》といった厳しい指摘も。

多数の批判の声を受けて、桂浜水族館は10日にXを更新。「コツメカワウソに関する投稿について」と題する文書を発表し、《2023年9月2日に当アカウントが投稿しましたコツメカワウソに関する発信の内容において、不適切であるとご指摘をいただきました》とコメント。そして、次のように謝罪した。

《カワウソをはじめ生きものを愛する皆さまにご迷惑をおかけしてしまいましたこと、また、桂浜水族館を応援してくださっている方々に大きな不安やご心配をおかけしてしまいましたことを心よりお詫び申し上げます》

いっぽうコツメカワウソの赤ちゃんは、《日々体重を増やし、5頭とも元気に成長しております》とのことだった。

■“カワウソ吸い”はなぜダメ? 背景にあるSNSの「映え」

果たして、生まれて間もないコツメカワウソを“吸う”といったスキンシップには、どのような悪影響があるだろうか? そこで本誌は、「日本アジアカワウソ保全協会」に話を聞いた。

コツメカワウソは体が小さく、愛くるしい見た目が人気の動物だ。しかし「国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは絶滅危惧種に指定され、野生動植物の取引を規制するワシントン条約においては原則商業取引が禁止されており、生息する国の多くが保護獣に指定しています」と、厳しい状況に置かれているという。

桂浜水族館の館長によるスキンシップについて見解を問うと、「動物園・水族館の役割は、種の保全とその普及啓発、調査研究、レクリエーションです。展示においても、野生の姿やその種を取り巻く現状をどう伝えるかが大事と考えられます」とコメント。そう前置きした上で、同協会は次のように警鐘を鳴らす。

「絶滅危惧種を『飼いたい』と思えるような場面を切り取って発信することは、ペット飼育を助長すると考えております。今回、桂浜水族館の『カワウソを吸う館長。』として仔獣に顔を近づける画像投稿に対し、本協会はペット飼育を助長するものとして抗議をしました。それに対するご意見の中で“愛情を持って懸命に世話をしているのだからいいのでは? ”というものがありましたが、問題はこの個体に対するスキンシップだけではありません」

“ペット飼育を助長する”という背景には、昨今のSNSでの「映え」が影響しているようだ。

「日本では過去にカワウソをペットとして世話をするテレビ放送をきっかけに、SNSでカワウソのペット映像や写真が人気となりました。ペット需要の高まりと共に密輸が増加し、他国のカワウソを絶滅の危機に晒した経緯があります。結果として、コツメカワウソはワシントン条約の附属書Iに掲載され、国際商業取引が禁止される事態となりました。

カワウソに限らず、珍しい動物をペットにしている写真や動画は『いいね』や『高評価』、『視聴者数』を稼ぎやすく、それが収入につながるので、多くの投稿が見受けられます。そのような動物たちの映える投稿が拡散されると、簡単にペット需要を後押ししてしまうことになるのです。

つまり、SNSでこの個体の写真が拡散されることにより、他の野生個体にまで被害が及ぶ危険性があるのです。教育の役目も担う水族館であれば、カワウソと人が過度に触れ合っているように感じられる投稿は、共感が集まりやすいからこそ控えなければなりません」

■桂浜水族館の謝罪は評価「野生動物の未来について考えるきっかけとなれば」

人間による過度なスキンシップがカワウソに影響を及ぼす可能性については、次のような解説があった。

「繁殖しているカワウソの取り扱いは慎重さが求められます。母親が育てられるのであれば、できるだけ人間が子どもの成長に関わらないように飼育するのが望ましいと考えられます。また、人間と動物との共通感染症のおそれもあるため、適切な距離を保つことが望ましいと考えられます」

ただ、桂浜水族館が謝罪したことは、「今回の投稿に対し、コメントを出してくださった事はありがたく思います。また、皆さまにおかれましても、今回のやりとりが、カワウソ及び野生動物の未来について考えるきっかけとなれば幸いです」と評価。

桂浜水族館も、先の謝罪文で《今日、カワウソが置かれている状況やさまざまな問題を取り扱い、警鐘を鳴らす取り組みを行っております》と記していた。希少動物であるカワウソたちが健やかに育つことを、ただ願うばかりだ。

© 株式会社光文社