医学博士が解説「こぶしでひざをたたくだけで、骨密度の上昇と若返りホルモンの分泌が期待」

ひざたたきで、いつまでも歩ける体を目指そう(写真:buritora/PIXTA)

「骨折は命にはかかわらないと思っていませんか? 加齢により、骨が弱くなり転倒して折れてしまうと、寝たきりや要介護、そして認知症のリスクが高まります。高齢者で、足の付け根を骨折した2人に1人は、5年以内に死に至っています。骨を軽視すると怖いんです」

そう語るのは『ひざたたき 世界一かんたんな健康法』(アスコム)の著者で、光伸メディカルクリニック院長の中村光伸医学博士。特に、閉経を迎えた女性は、女性ホルモンが減少することで骨量が急激に減少する。60代になると、多くの女性が骨粗しょう症予備群になっているという。

「閉経後の10年間で、女性の骨量は15〜20%減少してしまうのです。じつは骨には柱として体を支えるだけではなく、血液を作り、全身の新陳代謝をコントロールするという役割もあります。骨もまた、大切な“臓器”のひとつなのです」

しかし、現代の生活は、この“臓器”を弱めるものだという。

「100年ほど前までは、人間の基本の動きは『歩き』でした。しかし、自転車、電車、車が普及し、私たちの運動量は激減しています。骨は、負荷を与えて刺激すればするほど元気に強くなりますが、運動量が減れば刺激も減少し、骨も弱まってしまいます」

特に、近年は骨を弱める出来事があった。新型コロナウイルスの流行に伴う自粛生活だ。

「全身の骨は、約5年間で生まれ変わりますが、この5年のうち3年間はコロナ禍でした。在宅も増えましたが、1日に何歩歩いていましたか? 私たちの骨は、今、確実に弱まっています。その解消のために、ぜひやってほしいのが、『ひざたたき』です」

ひざを叩くときは以下のポイントに注意しよう。

【1】手を軽く握ってタテにする。
【2】ひざの皿とももの間あたりを上からまっすぐたたく。
【3】ひざから下はなるべく床と垂直にする。
【4】かかとも床に直角にし、足の裏をしっかりと床につける。

「背筋は伸ばして行ってください。腕には力を入れず、胸の高さまで上げたこぶしを、自然と落とすようにすると、ちょうどいい刺激になりますよ」

だが、なぜひざをたたくと骨が丈夫になるのだろうか?

「人の体では、古い骨が溶かされて削られる『骨吸収』と、新しい骨が作られる『骨形成』が繰り返されていきます。運動不足や女性ホルモンの減少によって、両者のバランスが崩れると、骨吸収が優位になってしまいます。しかし、ひざをたたいて骨への刺激を与え続けることで、そのバランスがよくなって、骨を丈夫にすることができるのです」

効果はそれだけではない。若返りホルモンも分泌されるのだ。

「骨の中にある骨芽細胞は、骨に刺激があると反応して働きがよくなり、若返りホルモンの『オステオカルシン』を分泌します。これは骨ホルモンとも呼ばれていて、血管を通り、全身に運ばれて心臓、肝臓、腎臓、すい臓、腸など多くの臓器の機能を活性化させます。血液の代謝をよくして免疫力を上げ、筋肉量のアップも期待できるのです。さらに、血糖値の上昇を抑えたり、アルツハイマー型認知症を予防したりする効果があるとみられています」

もう一つ「オステオポンチン」という免疫力を高めるホルモンも分泌されるという。

「これまで、この2つの若返りホルモンは、骨が大量に作られないと分泌されないと考えられていたのですが、最新の研究によって、骨に刺激があるだけでも出ることがわかったんです」

踏み台を使った昇降運動で骨を刺激すると、若返りホルモンが分泌することが、最初に確認された。

「ならば、座った状態でひざをたたくことで同様の刺激を与えれば、同じような効果が期待できると考え、実験を行いました。その結果、ひざをたたくだけでも、若返りホルモンが出ることを確認したのです」

中村先生が重視したのは、「かんたんに継続でき、安全な動きであること」。ひざたたきは、まさにその条件にぴったりだ。

「骨を強くするには、継続が何より大事。テレビを見ながら、トイレで、電車でなど、座る機会があれば、積極的にやってください」

10回1セットで、1日合計100回を目指そう。さらに、余裕がある人は、左の「足踏みトントン」もやってほしい。

「人生100年時代。50代なら、まだ40年以上も人生は続きます。ひざをたたいて、体の土台である骨を強くして、いつまでも元気でいてください」

ひざたたきで、100歳まで歩ける体を手に入れよう。

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