「小学生もいます…」歌舞伎町“トー横”の危うい夏休み…“界隈”に魅了される若者たちの思惑

通称「トー横」と呼ばれるシネシティ広場(撮影:渋井哲也)

東京・新宿歌舞伎町の通称“トー横”と呼ばれる一帯。近年、ニュースやワイドショーに多く取り上げられたことから全国に知られるようになり、いまや家庭や学校で居場所のない若者たちが多く集まる「聖地」と化しているという。彼ら、彼女らはどのような目的や背景があって「トー横界隈」に集うのだろうか。

子どもや若者の生きづらさについて取材を続けるフリーライターの渋井哲也氏が、普段より若者が増えるという夏休み期間のトー横についてレポートする。

虐待やいじめ、体罰、不適切な指導、性的搾取を受けた子どもや若者たちが、新宿・歌舞伎町の「TOHOシネマズ」の横にある「シネシティ広場」に集まってくる。この周辺は、通称、「トー横」と呼ばれ、多くのニュースでも取り上げられ話題になっている。夏休みになると、さらに全国から子どもや若者たちが集まってきていた。

トー横に集まる子ども・若者たちを支援する団体の一つ、「公益社団法人 日本駆け込み寺」はトー横の目と鼻の先である大久保公園の北側に事務所を構える。代表の天野将典さんは2年前から、支援活動を行っている。去年8月から開催している「子ども食堂」には、延べ3000人が訪れているという。

「トー横が居場所なんだ」という “カン違い”

トー横に集まってくる子たちと向き合っている「公益社団法人 日本駆け込み寺」天野将典さん(撮影:渋井哲也)

「トー横に集まっている子たちの、確実な供給源は地方です。テレビなどで、全国で若者が集まる場所がトー横化している、みたいなことが言われています。福岡の警固界隈(警固公園に集まる子ども・若者たち)もそうです。トー横が一つのブランドになっていて、若い子たちは、歌舞伎町に来ています。

情報源として一番多いのはSNS、特に多いのはX(旧Twitter)ですね。#トー横 とか、#歌舞伎町 とか、#トー横界隈 とかハッシュハグ(#)が使われて広がっていきます。地方の子どもたちは、みんなで踊ったり、お酒を飲んだりして、楽しそうなところと思っているようです」

とはいえ、誰でもが歌舞伎町に魅せられる訳ではないだろう。どんな子どもや若者がトー横に集まってくるのか。

「家で虐待を受けていたり、学校で友達ができなかったり、死にたいとか逃げたいとか居場所がないとか思っている人たちですね。それで『トー横が居場所なんだ』と勘違いする人も来ています。これは勘違いなんです。だってさ、別にいいところじゃないから…」

普段と夏休み中では、集まる子ども・若者たちは変わるのだろうか。

「普段はいろんな年代の人たちがいます。夏休みは、いつもよりも中高生が多いです。小学生もいます。それこそ、全国から来ています。沖縄の子だけは会ったことないです。この前は、北海道から小学4・5年生が4人で来ていました。親には言ってないですが、観光みたいなものです。それで2、3日にいて、帰っていきます。スマホで親と連絡を取っていたりするので、プチ家出ですかね…。本気で家出をしてくる子は携帯を持っていないです。捜索願が出されていて、うちにも警察が迎えに来たりしています」

興味本位で滞在「変わったことはしていない」

東海地方からトー横にきていた専門学校に通う男性(19)。特に厳しい家庭環境ではなく、いじめを受けたこともない。

「トー横にきたのは興味本位です。夜でも人が集まっているので、あそこにいけば話せる人がいるかな、みたいな感じですね。8月は1週間ほど滞在していました。特に変わったことはしていません。トー横での過ごし方はご飯を食べたり、家に泊めてもらったりしていました」

トー横に来る前と来てからとでは印象は違って見えたのだろうか。

「印象に残ったのは、リスカ跡やOD(オーバードーズ)ですかね。性病も流行っているようでした。来ている子たちと話をしてみたら、中学や高校でいじめを受けた人や、ひとり親家庭の人とか、さまざまな理由で集まって来ていました。よくTwitter(現在のX)などで流れてくるトー横の印象とは違っていました。以前は、他人にすごい迷惑をかけるイメージでした。特に無関係な人に手を出したりするような。そういう人は一部なんだなとわかりました」

「今年で何人の知り合いが死んだんだろう」

最近は、トー横から距離を置いている女性(20)は、関西からの友人をトー横に案内した。

「久しぶりにトー横にきました」

実は、この女性は、ここ数か月で自殺未遂を2回していた。

「数か月前、トー横やSNSの人間関係が嫌になって、市販薬のODをしました。精神科に入院しました。あの時のことは今となってはあまり覚えていないんです。ただ、トー横から離れたいという気持ちは今でもあります。だから、今は何かあったら行く程度です。

最近は、マンションからも飛び降りました。この時は、バイト先が嫌すぎて。大家さんには『次、飛び降りたら、追い出す』と言われました。もう、家ではやらないようにしよう。でも、マジでどうでもよい。すべてが…」

この女性の知り合いが、歌舞伎町のホテルで飛び降りて死亡したとの話もある。

トー横にきていた若者が飛び降りたホテルの付近。数日後に訪れるとお菓子が置いてあった(撮影:渋井哲也)

「その子とは(シネシティ)広場であったら挨拶はしていた。Twitter(現在のX)のスペース(ボイスチャット機能)でも話したことがある。でも、そんなに思い入れはないんです。トー横の人たちとも、この話にはなっていないです。

この界隈って、けっこう、亡くなっているから、当たり前みたいになっている。自分もそういう感覚だから。なんとも言えないんですけどね。今年で何人の知り合いが死んだんだろう。4、5人かな…」

“マシ”な場所としてのトー横

前出の天野さんも、路上で亡くなっている人を見かけることがあるという。

「数か月前も、トー横で1人亡くなっています。市販薬のODで。広場でゴミ拾いもしていますが、亡くなった人が出ると、一時、市販薬の箱がゴミとしては少なくなります。でもまた、ここのところ増えてきて、運ばれた人もいました。亡くなった子は、いつもいる子だったんですよ。友達もいっぱいいて。あんなのみたら『やめる』ってなりますよ。でも、そう言いながらも飲んでいたりするんですよね」

歌舞伎町では市販薬ODの危険だけでなく、大麻や覚醒剤の売人や、詐欺事件に手をそめる人もいたりする。同年代の若者同士で盛り上がれる楽しい場所という面も確かにある一方で、犯罪や死にも近い場所でもある。

それでも、子ども・若者たちがトー横に集まるのは、現実の家庭生活や学校生活と比べて、より“マシ”な場であるからだろう。トー横という場所は目立つが、別の場所にいたり、トー横を卒業する前述の女性のような例もある。子ども・若者たちの生きづらさの“すべて”がこうした界隈に顔を出すわけではない。そして、見えないからといって解消しているわけではない…。

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