校庭にシートを広げ家族で食べる弁当、運動会の名物が今は昔? 

山陰中央新報デジタル

 児童文学作家の村中李衣さんに『走れ』という作品。小学生の娘の教科書に載っていた。

 4年生の姉のぶよと2年生の弟けんじの運動会の日。弁当屋を切り盛りしながら、2人の子を育てるお母ちゃんは大量の注文が入り、大急ぎで駆け付けた時にはけんじが1等を取った徒競走は終わっていた。昼休み、約束した特製弁当で機嫌を直してもらうはずが、「お店で売ってるのと同じじゃないか」。けんじは一口も食べずに駆け出して…。

 校庭にシートを広げ家族で食べる弁当は特別で運動会の楽しみの一つ。と言っても、ぴんとこない子どもたちがこの先増えるかもしれない。コロナ禍での臨時的措置だった運動会の半日開催を、今年も続ける小学校が多いという。

 緩みない感染対策というわけでもないようだ。種目を絞れば練習の時間を減らせるし、熱中症対策にもなる。弁当作りの負担がなくなった保護者の受けも悪くないとか。午前中で終えるのが実はちょうど良いのでは、と出した答えなのだろう。とにもかくにも、コロナは漫然と続けてきた物事の価値を立ち止まって考え、在り方を見直すきっかけを与えた。

 物語は、走るのが苦手な姉のぶよが母と弟の声援に背中を押され最後まで走り切り、3人に笑顔が戻った。今週末が運動会の学校も多かろう。半日でも精いっぱい走り、応援する。その後は「おなかすいた!」の笑顔が待っている。

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