忌野清志郎が愛したメンフィス・ソウル!憧れのバンド Booker T. & The MG's と共演  スティーブ・クロッパー監修!清志郎の名盤2タイトルがアナログでリイシュー!

清志郎がリスペクトしたサザンソウルの伝説的黒人シンガー、オーティス・レディング

「あー、だから清志郎は “ガタガタ” 言ってるんだ!」

あれは高1のとき、オーティス・レディングのベスト盤を借りてきて「リスペクト」「トライ・ア・リトル・テンダネス」を初めて聴いたとき、私はついそう叫んでしまった。

オーティスは曲が最高潮になると「Gotta! Gotta!」を連発。「まんま清志郎じゃん、わかりやすー!」とも。…… いやいや、清志郎がまんまオーティスなんだっちゅうの。

忌野清志郎は、サザンソウルの伝説的黒人シンガー、オーティスを「リスペクト」していた。彼に憧れてミュージシャンになろうと決意した、とも語っているほどだ。

そのオーティスは、リトル・リチャードとサム・クックに憧れて音楽の道へ。つまりオーティスを通じて、R&B、ソウルのスピリッツが清志郎の血液となり、あの唯一無二のボーカルが形成されていったわけだ。

私がオーティスを聴こうと思ったのは、清志郎が影響を受けていると知ったのがきっかけで、清志郎同様、私もオーティスにハマってしまった。いろいろ聴いていく中で「へぇ」と思ったのは、ビートルズの「デイ・トリッパー」をオーティスがカバーしていたことだ。そう、白人の歌である。

オーティスはジョージア州の出身で、レイ・チャールズ、リトル・リチャードと同郷、アメリカ南部の出身だ。オーティスが活躍した60年代、南部は人種差別がことのほか激しい地域だった。居住区域や生活圏も明確に区別され、もし黒人が白人の出入りしているところに立ち入ったら、それこそ殺されかねない雰囲気だった。おそらくオーティスもけっこうな差別を受けて育ったはずだ。

だがオーティスは、たとえ白人の曲だろうが「自分が聴いて、いいものはいい」とどんどんステージで歌い、レコーディングしていった。ストーンズの「サティスファクション」もそうだ。そもそもビートルズもストーンズもR&Bリスペクトで結成されたバンドなので「根っこは同じじゃないか」ということなのだろう。だが、差別を受けていた側がそういう考えを持つことは、当時の時代背景を考えると革新的なことだった。

そんなオーティスの分け隔てない考え方は、バックバンドにも表れている。彼のバックを務めたのはブッカー・T&ザ・MG’s。黒人のブッカー・Tがリーダーのこのバンドは、ギターのスティーブ・クロッパーやベースのドナルド・“ダック”・ダンは白人という混成バンドで、これもまた異例だった。

「肌の色が違うぐらいでガタガタ言ってんじゃないよ。好きな音楽が同じなら一緒にやろうぜ!」…… オーティスとこのバンドがタッグを組んだのは、すごく理解できる。

私の愛聴盤『ライブ・イン・ヨーロッパ』(邦題『ヨーロッパのオーティス』)で、オーティスは「Gotta! Gotta!」と叫び、欧州の白人オーディエンスたちを熱狂させている。いろんな意味で音楽の素晴らしさが味わえる1枚なので、未聴の方はぜひ聴いてほしい。

憧れのブッカー・T & ザ・MG’sと “夢の共演”

清志郎は、オーティスのそんな “垣根のなさ” も含めて影響を受けたんだと思う。坂本龍一を皮切りに、異分野や年下のアーティスト、演歌歌手やアイドル歌手まで、世代やジャンルに関係なく積極的にコラボしまくったのがその証しだ。

そんな清志郎が、憧れのブッカー・T&ザ・MG’sと “夢の共演” を果たしたのが、1992年3月に発売されたアルバム『Memphis』である。テネシー州メンフィスは第一次世界大戦後、南部からこの街に黒人がどんどん移住したことがきっかけで、やがて「ブルースの都」と呼ばれるようになった。

1957年、この地に創立された「スタックスレコード」は、黒人も白人も差別せず扱うスタンスで、ゆえにサザンソウルの拠点となっていく。オーティスもブッカー・T&ザ・MG’sもこのレーベルの所属だった。

1991年、ブルース・ブラザーズ・バンドが来日公演を行った際に、スティーブ・クロッパー、ドナルド “ダック” ダンもメンバーとして来日。清志郎はアンコールに参加した。

スティーブとドナルドは、清志郎が登場したときの観客のリアクションに驚いたそうだ。彼らは意気投合し「一緒になんかやろう」となった。話はどんどん発展して、ツアーと同時に、なんと清志郎のアルバムをスティーヴがプロデュースすることに。

清志郎もオーティスも大好きな私はこのニュースを聞いて「マジ!? やったー!」と自分のことのように嬉しかった。私のように、清志郎経由でオーティスに出逢った人はみんな快哉を叫んだんじゃないの? 天国のオーティスもきっと喜んでいたと思う。「極東の島国でオレの歌を聴いていた高校生が、オレのダチと一緒にやるのかい? ゴキゲンだぜ! Gatta! Gatta!」と。

オーティスと一緒にやっていたバンドと組むなら、もうメンフィスに行くしかないだろう

ソロアルバム制作は、1987年のソロ第1作『RAZOR SHARP』以来だった清志郎。前作では単身イギリスに渡り、ブロックヘッズら現地の尖ったミュージシャンたちとレコーディングを行った。

オーティスと一緒にやっていたバンドと組むなら、もうメンフィスに行くしかないだろうということで清志郎は渡米。これは原点回帰の旅でもあった。MG’sも当時のメンバーがスタジオに集結。これも異例のことだが、彼らがわざわざ集まったのは、清志郎のオーティス愛、R&B愛がホンモノだとわかったからである。

全11曲が収められたこの『Memphis』、私は言うまでもなく、リリースと同時に(いや、待ちきれず前日にフラゲで)即買った。オープニングの疾走感あふれる「Boys」は清志郎と盟友・三宅伸治の共作。清志郎が嬉しくてたまらないのがよくわかるし、聴いているこっちまで「ついに共演したか!」と嬉しくなってくる。

3曲目「カモナ・ベイビー」は「鴨鍋」と引っ掛けた清志郎流のシャレの利いたブギー。ジョン・リー・フッカー風なのは、彼がスタジオに来ると聞いたからだ。

5曲目「高齢化社会」では老いゆく自分を諧謔(かいぎゃく)も交えて描き、6曲目「ママ プリーズ カムバック」では亡き母を歌い、7曲目「石井さん」では愛妻(旧姓・石井)を歌い、9曲目「ラッキー・ボーイ」では幼いわが子を歌った清志郎。なんだこの妙な生活感は? 晩年のジョン・レノンにも似てるなあと、ふと思ったり。

MG’sとの日本武道館公演を収録したの「HAVE MERCY!」

当時「なんだよ、ロッカーの清志郎はドコへ行ったんだよ?」と批判している人もいたが、私は「清志郎って今の自分の気持ちに正直な人なんだな」と納得した。憧れの人たちと一緒にやっても、オレの流儀は変えないよと。でなきゃ8曲目「ぼくの目は猫の目」なんて自分の趣味に走ったニャンコソングを入れるわけがない。そこが清志郎のカッコいいところで、しっかりプロの仕事をするMG’sもまた素晴らしい。

てなわけで、アルバムの出来自体には満足したけれど、ただ、なんだろう、どこか物足りなさも感じたのもまた事実だ。理由は一つ、「ライヴじゃないから」だ。先にも書いたとおり、このアルバム制作はツアーとセットになっていて、清志郎は1992年、『Memphis』を引っさげてMG’sと全国ツアーを開催。4月18日、日本武道館公演を収録したのが『HAVE MERCY!』である。このライヴ、不覚にも仕事で行けなかったんだよなあ……。

だからこの『HAVE MERCY!』もまた、私にとっては待ちに待った1枚だった。このアルバムについてはもう、ガタガタ言わずに聴いてほしい。

高校時代、授業をサボって校舎の屋上に行き、トランジスタラジオで聴いていたオーティスの曲。そのとき演奏していたメンバーをバックに、オレはいま歌ってるんだという喜び、でも負けちゃいねえぜ、という心意気。『Memphis』でチラッと感じた物足りなさは、このライブ盤でしっかり補完できた。清志郎も凄いが、MG’sもやっぱ凄いぜ! Gotta!

これは有名な話だけれど、清志郎の「愛しあってるか~い?」は、伝説の「モンタレー・ポップ・フェスティバル」で、オーティスが観客に呼び掛けた言葉「We all love each other, right?」から来ているのだ。若き日の清志郎は、この記録映画を観た際、このセリフの日本語字幕「愛しあってるかい?」に深く感銘を受け、のちに自分のライヴでも使うようになった。そう、お互い愛しあっていれば、人種や世代の垣根なんてカンケイないのだ。

なお、清志郎はこのときの共演をきっかけに、2006年、スティーブ・クロッパーのプロデュースでアルバム『夢助』をリリース。スティーヴ作曲の「オーティスが教えてくれた」も収録されている。このアルバムは、清志郎最後のスタジオ制作アルバムとなった。

今回、スティーブの監修のもと『Memphis』と『HAVE MERCY!』がアナログLP化されるのは嬉しいニュースだ。この2作は、ぜひセットで、できたらアナログの音で聴いてほしいと思う。大好きな人たちと大好きな音楽をプレイする、まさに “生きている清志郎” がそこにいるから。

カタリベ: チャッピー加藤

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