粉の小麦からパンができるのはどうして!?イーストは生きた微生物【図解 化学の話】

パンつくりに欠かせないイーストは生きている微生物

自宅でパンをつくったことがありますか?経験された方ならわかるかもしれませんが、パンをつくるときは、パン酵母の気持ちになることが大切ですね。パン酵母が元気に活動しやすい環境を整えること。それに尽きます。まず水。日本の水道水は95%が軟水です。軟水はパンづくりには適さないので、カルシウム(Ca)とマグネシウム(Mg)の含有量を増やして水の硬度を上げる必要があります。また、塩と砂糖が欠かせないし、ph(ペーハー)にも注意しないといけない。舐めて酸味が強いと酸性でph7以下、苦味を感じればアルカリ性でph7以上、phはその尺度になる。酵母が元気になるのはph6~7なので、その値になるよう注意が必要です。イーストとは酵母のことで、もちろん生きている微生物。パンづくりに適した酵母菌を純粋培養したものがイーストです。アルコール発酵に欠かせない酵母ですが、一般にはパン酵母が酵母の代表のように馴染みが深い。パンを自家焼きする人が多いからかもしれません。

さて、いよいよパンづくりです(図1)。小麦粉に水と酵母を入れて捏ねたパン生地を温かいところに置いておくと、小麦粉の中のアミラーゼ(酵素)がデンプンを麦芽糖や砂糖(ショ糖)に分解します。これを酵母が餌にすると、二酸化炭素とアルコールがつくられます。発酵と呼ばれる現象で、パン生地の中に気泡として溜まり膨らみます。この膨らんだ生地を焼くと、二酸化炭素やアルコールの泡が抜け硬くなって焼き上がる。小麦のタンパク質であるグルテンにはよく伸びる性質があり、食欲を誘うように膨らむ、というわけです。ところで、小麦粉とは「薄力粉・中力粉・準強力粉・強力粉」の総称。グルテン含有量は、薄力粉6.5~8.5%、中力粉8.0~12.0%、準強力粉10.0~12.0%、強力粉11.5~13.5%の比率です。フランスパンには中力粉を使う場合もありますが、おおむね準強力粉でつくります。それ以外のパンづくりにいちばん適している小麦粉が、グルテン含有量が多く、粒も粗くて粘性の強い強力粉というわけです。ただ、残念ながら小麦生産は乾燥地帯に適していて、高温多湿の日本では作物適正がありません。いまではほとんど外国産に市場を譲っているようです。ですが、「ムギがダメなら、コメがあるさ!」とばかりに米粉パンが出回りはじめました。これが流行ればコメ余りの解消につながるかもしれませんね。

パンのつくり方

①捏ねられてできたグルテン(タンパク質)は網目構造。網目の中のパン酵母によって生じる発酵ガスを包み込むと生地が膨らむ。この生地を焼くとパンができる。
小麦粉の中のアミラーゼがデンプンを麦芽糖や砂糖に分解し、パン酵母の餌になる。膨らんだ生地を焼いてパンのできあがり。

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 化学の話』野村 義宏・澄田 夢久

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 化学の話』
野村 義宏 監修・著/澄田 夢久 著

宇宙や地球に存在するあらゆる物質について知る学問が「化学」。人はその歴史の始めから、化学と出合うことで多くのことを学び、生活や技術を進歩・進化させてきました。ゆえに、身近な日常生活はもとより最新技術にかかわる不思議なことや疑問はすべて化学で解明できるのです。化学的な発見・発明の歴史から、生活日用品、衣食住、医学の進化までやさしく解明する1冊!

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