日本のスタントチームが 『ジョン・ウィック:コンセクエンス』のアクションを作った! 川本耕史&伊澤彩織が語るキアヌ、ドニー、真田との激レア撮影秘話【前編】

川本耕史 伊澤彩織

2014年に始まった『ジョン・ウィック』シリーズの4作目にして最新作『ジョン・ウィック:コンセクエンス』が、ついに2023年9月22日(金)より公開。伝説の殺し屋ジョン・ウィックの戦いは、ロシアンマフィア、イタリアンマフィア、そして裏社会からの粛清とシリーズを重ねるたびに激しさを増してきたが、ついに裏社会を支配する組織との直接対決に挑むことになる。

『~コンセクエンス』には盲目の達人ケイン役にドニー・イェン、ジョンの旧友シマヅ役に真田広之とリアルアクションのレジェンドが集結。大阪も舞台となる独創的かつ激しいファイトシーンの数々は、日本から参加した歴戦のスタントチームなくしては成立しなかった。

ということで、本作にファイトコレオグラファー/スタントパフォーマーとして参加した川本耕史さんと伊澤彩織さんにインタビューを敢行。チャド監督やドニー、真田広之、マルコ・サロールとの激レア撮影秘話、そして映画ファンの間で囁かれている「キアヌ超イイ人伝説」の真相まで、たっぷり語っていただいた。

「“『るろ剣』やってたんだ? すごい!”って」

―川本耕史さんはファイトコレオグラファー、伊澤彩織さんはスタントパフォーマーとして参加された『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の大阪コンチネンタルホテルでの戦闘シーンは素晴らしすぎました! あまりのアクションの熱量のすごさに「これがクライマックスなのか」と思うぐらいの衝撃を受けました。

川本・伊澤:ありがとうございます(笑)。

―お二人が本作に参加することになった経緯を教えてもらえますか?

川本:『るろうに剣心』シリーズ(2012年ほか)でアクション監督をしていた谷垣健治さんとチャド・スタエルスキ監督が知り合いで。チャドさんが谷垣さんに「次の『ジョン・ウィック』は日本をテーマにしたいから、刀や空手などのファイトを作れる人を知っていたら紹介してほしい」と相談して僕が紹介された、という感じです。

―谷垣健治さんの紹介だったんですね。

川本:それで日本人の男性スタントマンたちと2021年3月に、大阪コンチネンタルホテルのシーンを撮影するためドイツに行きました。そして「女性スタントが必要だから日本のチームに連れてきてほしい」と言われたので、女性スタントで一番信頼できる伊澤さんと和田崎愛さんに6月に合流してもらいました。

伊澤:私が参加した時は、5人の日本人の先輩方とアメリカのチームがいて、私と10人ぐらいの日本人が追加で合流しました。それからドイツ、フランス、ブルガリアからも徐々にスタントパフォーマーが集結して、撮影が始まる頃には50人くらいいましたね。

―ご自身が参加される以前の『ジョン・ウィック』シリーズには、どんな感想を抱いていたのですか?

川本:1作目『ジョン・ウィック』(2014年)を観た時に、素晴らしいなと思いました。撃ち合いの距離感の斬新さで、銃撃戦の新しい歴史を作った作品だと思います。だから、今回呼んでいただいた時は「『ジョン・ウィック』か!」って興奮しました(笑)。

伊澤:私もシリーズのファンだったので「『ジョン・ウィック』だ!」って思いましたよ(笑)。1作目を初めて観た時は、衝撃でした。スゴ腕の殺し屋だけどテキパキ殺すのではなく、苦戦しながら倒していく、その姿を長尺で、俳優の全身が映るようなサイズで撮影して、銃のリロードなどの所作もちゃんと見せてくれるところに感動しました。すごく好きな作品です!

―チャド監督や本作の出演者、スタッフたちはお二人の過去作を観ていましたか?

川本:みんな『るろうに剣心』シリーズは観てましたね。「あんなアクション、どうやって撮ったんだ!?」と聞かれました。皆さん、いい意味で「Fuck’n Cool!」と言ってくれて。

伊澤:私もスタントマンの人たちに「『るろ剣』参加したんだ!? すごい!」って言われました。

―伊澤さんが主演されている『ベイビーわるきゅーれ』シリーズは、海外のアクション映画情報サイトでも高い評価を得ています。今回の作品でご一緒された方たちで観ている方はいましたか?

伊澤:ちょうど1作目の『ベイビーわるきゅーれ』(2021年)の公開がはじまる時に、『ジョン・ウィック~』のドイツの撮影に行かせてもらっていたので、日本での舞台挨拶をすっぽかしてしまって……(笑)。

川本:舞台挨拶に行けなかったのは僕のせいです(笑)。

―2021年は伊澤さんにとって、初主演作『ベイビーわるきゅーれ』公開、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』参加とビッグイベントだらけの年だったんですね。

伊澤:そうですね。『ジョン・ウィック~』の撮影中、チャドさんに「今、日本で上映しているんですよ」と、『ベイビー~』のラストファイト・シーンの動画を観てもらったんです。そしたら、「おお! フィメール・ジョン・ウィック!」と言ってくださって。

―本家から最高の褒め言葉をいただいたんですね(笑)。

伊澤:『ジョン・ウィック』シリーズの銃撃戦の所作に影響を受けていたので、すごく嬉しかったです。最高の褒め言葉でした(笑)。

「リアルな暴力として人を制圧するヌンチャクの使い方を見せたかった」

―お二人が参加した、大阪・コンチネンタルホテルでの戦闘シーンはキアヌ・リーブスさん、ドニー・イェンさん、真田広之さん、マルコ・サロールさんというアクション映画ファンには奇跡のような面子が集まっただけでなく、大阪コンチネンタルホテルと主席連合の兵隊たちが入り乱れて戦うゴージャスな戦闘シーンになっています。このシーンのファイトコレオグラファーを全部、川本さんが担当されたんですか?

川本:基本的にはそうですね。

―撮影現場には、ファイトコレオグラファーの川本さん以外にもアクション出身のチャド・スタエルスキ監督、ファイトコーディネーターとして<87イレブン・アクション・デザイン>のジェレミー・マリナスさんもいますよね。ファイトシーンの振り付けは、どのような経緯で決まっていったのですか?

川本:現場の流れで変わりましたね。大阪・コンチネンタルホテルの屋上で、シマヅ・コウジ(真田広之)の娘アキラ(リナ・サワヤマ)とキアヌ・リーブスさんが同時に戦っているシーンでは、僕はリナさんを、ジェレミーさんがキアヌさんのアクションを担当しています。ホテルの中にある美術館に入ってからの銃撃のアクションは、僕がキアヌさんのアクションを担当しました。

―大阪・コンチネンタルホテル内の美術館での戦いといえば、キアヌさんがヌンチャクを使って戦うシーンが印象深かったです。

川本:ヌンチャクを使うファイトはチャドさんが「やりたい」と言ったんです。それで僕がヌンチャクの戦い方のベースをリハーサルで作って、それをジェレミーさんが改良していった感じです。キアヌさんがヌンチャクを自分の首にかけたり、ヌンチャクの鎖の部分を手に巻きつけて一本の棒みたいに持って使うアイデアは、伊澤さんです(笑)。

―あれ、カッコ良かったです!

伊澤:ありがとうございます(笑)。

―これまでのアクション映画でヌンチャクを使うと、ブルース・リーのような使い方になるんですけど、今回の使い方は斬新かつアグレッシブで「実際は、この映画のような使い方をして人を倒すのかな」という説得力に満ちあふれていました。

川本:乱暴な戦いにしたかったんです。リアルな暴力として人を制圧するヌンチャクの使い方を見せたい、と思ってベースを作りました。

「キアヌさんが『ドニーは動きがスゴ過ぎるから本当に怖い。でも、俺は負けない!』と(笑)」

―『ジョン・ウィック:コンセクエンス』では、真田広之さんが大阪・コンチネンタルホテルの支配人シマヅ・コウジを演じています。役名のコウジは川本さんの耕史という名前からいただいたそうですね。

川本:そうなんです。チャドさんと真田さんで、シマヅのキャラクターについて話し合った時に決まったようで。その時点で苗字はシマヅに決まっていたのですが、名前はまだ決まっていなくて、チャドさんが「日本人が聞いて不自然じゃない名前を役名にしたい」と真田さんに相談して。そこで真田さんが「川本耕史くんのコウジはどう?」と言ってくれて、シマヅ・コウジに決まったんです。その翌日の朝だったと思うんですが、真田さんが毎朝やっているアクション練習に来られた時、「シマヅ・コウジという役名になったんだけど、耕史くんからコウジをもらっていい?」と言ってくださって、嬉しかったですね(笑)。

―読者の中には真田さんのファンも多いので気になると思うのですが、アクションの現場で一緒にお仕事をされた真田さんの印象は、いかがでしたか?

川本:本当に真摯で真っ直ぐで……男として本当にかっこいい方です! 物事を見る物腰が柔らかいし、常に冷静に見られている。アクションは本当に素晴らしい方なので最高の経験でしたね。

伊澤:(真田さんのアクションの撮影を)目の前で拝見させてもらって、すごい集中力の持ち主だな、と思いました。ドニー・イェンさんと真田さんが1対1で戦う撮影では、立ち回りが現場で練習していた内容から大幅に変わっていったんです。

―撮影現場で新たな立ち回りを覚えないといけなかったんですか?

伊澤:はい、一言も文句を言わずに黙々と対応されている真田さんの姿を見て、すごい方だなと思いました。

―なぜ、立ち回りの内容が現場で変わったんですか?

川本:ドニーさんが撮影現場で「こうやった方が面白いんじゃないか?」とアイデアを出すので、どんどん変わっていくんですよ。それで、僕とスタントマンだけでなく真田さんとチャドさんも加わって、「じゃあ、こう動いてみようか」とディスカッションをするんです。僕がスタントマンと実際に動いてみて、それを見たドニーさんが「それはあまり好きじゃないな」とか「それは好きだから、さっきの動きとミックスしてみて」という感じに現場で作っていった感じです。

―大変な撮影だったんですね。「真田広之VSドニー・イェン」を観るだけでも、この映画は入場料を払う価値があると思います! お二人はそれを肉眼で見ていたわけですね。歴史の証人ですよ!

川本・伊澤:そうですね(笑)。

―チャド監督は、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』を撮る前に勝新太郎さんの『座頭市』シリーズにハマり、「自分の映画にも盲目の剣士を出したい!」と思ってドニーさんに盲目の殺し屋ケインを演じてもらったそうですね。

川本:ケインのキャラクターに関して、チャドさんは「座頭市だ」とおっしゃっていました。実際にドニーさんが使う武器を(仕込み付きの)日本刀にしたかったようです。ただ、ドニーさんの「刃が薄くて両刃の中国のソードみたいな感じにした方が良い」というアイデアで映画のように変わったんです。

―大阪・コンチネンタルホテルでの戦闘シーンでは、ドニー・イェンVSキアヌ・リーブス戦もありますが、ここでもドニーさんはいろんなアイデアを提案されたんですか?

川本:そうです(笑)。ドニーさん対キアヌさんの戦いも、真田さんとの戦いの時と同じで、もともとプリビズ(Pre Visualization:事前の仮映像)があって、キアヌさんはプリビズ通りの動きを練習していたんですが、撮影でドニーさんがアイデアをいっぱい出してくださいました。だからキアヌさんは大変だったと思います。ドニーさんと対峙する時に「あなたと対峙するのは怖いよ! 動きがもうスゴ過ぎるから本当に怖い。でも、俺は負けない!」と言ってましたから(笑)。

―イイ話ですね。ドニーさんがキアヌ・リーブス戦でアイデアを出したのは、どのあたりのアクションですか?

川本:もう最初から。向かい合っていきなりバババン! と撃ち合うのは、もともと僕が作ったアイデアで、その後ケインが飛び前蹴りをするあたりはドニーさんが足した要素です。その要素を足すことで流れが変わったので、皆で話し合いながら現場で作っていきました。実はドニーさんとキアヌさんのファイトは、もっと長かったんです。

伊澤:だいぶ削られてますよね。

―撮影はしたけれど、編集で短くなったんですか?

川本:時間がなくて撮影ができなかったんです。やっぱりチャドさんも僕もキアヌさんも……まあ、みんなアクションが好きなので「アクションいっぱい撮りたい」って、 プリビズの段階でいっぱいアイデアを詰め込むんですよ(笑)。大阪・コンチネンタルホテルのプリビズは最初40分あって、ドニーさんのアクションももっとあったんですよ。

―うわ……ソフト化した際には特典映像にプリビズ集をつけて欲しいです!

川本:出せたら良いですね。

―ドニーさん以外にも現場でアイデアが湧き出て、プリビズとは違うアクションになる出演者はいましたか?

川本:いませんでした(笑)。

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取材・文:ギンティ小林

撮影:町田千秋

ヘアメイク:赤井瑞希 スタイリスト:入山浩章(※伊澤)YONLOKSANのカットソー、YOAKのシューズ、Folk/Nのリング、Folk/Nのピアス、20/80のチェーンネックレス(すべてUTS PR/03 6427 1030)、ビンテージのシャツ(Sick Tokyo/@sick_shibuyatokyo)、ユーズドのパンツ、ソックス(Front11201/@front_11201)

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』は2023年9月22日(金)より全国公開

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