教師不足を「ペーパーティーチャー」で穴埋め?働きたいけど踏み切れない“非正規雇用” の壁とは

教育現場では、教師の休職者の増加や団塊世代の大量退職・若者の教師志望者減少などで必要人員が確保できない事態に陥っています。

そこで国が目を付けたのが、「ペーパーティーチャー」と呼ばれる教員資格を持ちながら別の仕事をしていたり、家庭に入ったりした人達です。しかし、その目論見はうまく行っているとは言い難い現状がありました。教員への夢を持ちながらも叶わない、ペーパーティーチャーを取材しました。

教師不足に伴い「免許更新制を廃止」、“ペーパーティーチャー”への期待が高まる

2023年7月に愛知県名古屋市で行われた説明会兼相談会。集まっていたのは、大学で教員免許を取ったものの、他の仕事を選んだり、退職したりした「ペーパーティーチャー」です。

(愛知県教育委員会・石川真司さん)
「全国的な教師不足・講師不足が深刻。多くの教員が足りない」

ペーパーティーチャーに現場へ入ってもらおうという説明会の背景にあるのが、深刻な教師不足です。少子化で子どもの数自体は減っていますが、団塊世代の大量退職で一気に教師が減り、授業以外の時間外労働など教職のキツさがクローズアップされて、なり手も減っています。

ペーパーティーチャーの多くは教員免許が失効していますが、文部科学省は2022年、免許更新制度を撤廃。過去に失効した人も復活できるようにし、何とか教師を増やしたいと考えているのです。愛知県でもまさに今、小学校で57人、中学校で50人の教師が足りない状況。すぐにでも教師を確保する必要に迫られています。

一度は目指した教育現場へのチャンス!現役復帰を目指す女性たち

相談会で、ひときわ熱心に話を聞いていた女性がいました。加藤咲実さんです。

(ペーパーティーチャー・加藤咲実さん)
「ここで登録ができればと思って、古いやつなんですけど」

教員免許証も持参しており、すぐにでも現場に復帰したいといいます。加藤さんは大学卒業後、家庭科の教員として5年間勤務。20年前、出産を機に退職して専業主婦になりました。子育てもひと段落した今、もう一度教壇に立ちたいと考えたのです。

(ペーパーティーチャー・加藤咲実さん)
「(息子の)小学校や高校でPTAとかもやらせてもらって、学校の中のことも親の立場もわかっているのは(教師として)大きいかなと思いますし、実体験として(家庭科のことを)話していけたらいいと思う」

もう一人、教育現場を目指そうと考えるペーパーティーチャーがいました。稲沢市に住む牛島さんは、正社員として一般企業に勤め、年金暮らしの両親を支えています。今も大切にしているのは、18年前教育実習で生徒達からもらった寄せ書きです。

(ペーパーティーチャー・牛島さん)
「つらいときに見ると元気になる。宝物です。生徒みんなも泣いてくれて、(写真を)撮ろうよ撮ろうよって言ってくれて」

牛島さんは教員免許をとったものの、当時は団塊世代がまだ現役で採用枠が少なく、別の仕事に就きました。ペーパーティーチャーの募集は、一度は目指した教育現場へのチャンスだと考えたのです。

単なる「穴埋め」?“非正規雇用”が壁となり復帰を断念…

人手不足の教育現場に、やる気のある人を呼び込もうという国の政策は、一見“Win-Win”のようにも見えますが、教育の専門家は疑問を呈します。

(愛知教育大学学長・野田敦敬さん)
「数をどれくらい確保できるかが難しい問題。今の仕事を転職してまでって言うのは、それほど数は期待できない」

ペーパーティーチャーを対象にした説明会でも、すぐに働ける非常勤講師の登録は受け付けていましたが、あくまで目先の人手不足を補うため。腰を据えて教師として採用することは、想定されていません。教員免許も持参する意気込みを見せていた専業主婦の加藤さんは…。

(ペーパーティーチャー・加藤咲実さん)
「場所が遠かったりとか、日程的なことで希望するところは駄目だった」

空きが出たときにだけ呼ばれる仕組みだったり、通勤に1時間以上かかる場所だったりと教師が足りないと言っている割には、単なる穴埋め要員を求めていることがわかり、結局復帰に踏み切れません。長年教師になる夢を抱き続けてきた牛島さんも、非常勤では難しいといいます。

(ペーパーティーチャー・牛島さん)
「(現在の職場で)正規雇用で雇ってもらっている中で、非常勤では生活が成り立たない」

両親を支えながらの生活で、正社員の立場を捨ててまで教員の道を選ぶことは難しく、結局牛島さんは教員の道を諦めました。

日本の次世代を担う子どもたちの成長に欠かせない「教育」。その担い手を、一時しのぎで補充することが果たして妥当だと言えるのでしょうか。教師が3K職場とされる中、待遇や働く内容の見直しも含めた、抜本的な対策が求められます。

CBCテレビ「チャント!」9月6日放送より

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