挑戦の生涯伝えたい 2年前死去、筋ジス患者の蔭山さん著書が映画に 病室で育んだ夢や恋の記憶…

蔭山武史さんが学生時代に恋をしたクラスメートと話すシーン(映画より)

 厚生労働省指定難病「筋ジストロフィー」の患者で、2年前にこの世を去った蔭山武史さん=当時(45)=の著書「難病飛行」が映画になった。少しずつ動かなくなる体で夢を追い、恋をした。著書や家族、友人の言葉を通して、真っすぐに「今」を生きた記録を伝えている。(喜田美咲)

 私は不自由ですが、不幸ではありません。むしろ幸せです。優しく大切に育ててもらいました。(蔭山さんの言葉より)

 5歳で筋ジストロフィーと診断された。筋力が低下していく中、神戸市北区の自宅で執筆活動に取り組み、2010年に難病飛行を書き上げた。寝たきりになると、わずかに動くあごのセンサーでパソコンを操作。就労支援作業所と音楽イベントを企画したり、地元の歌手に歌詞を提供したりと、周囲の支援を受けながら挑戦を続けた。

 映画観賞が何よりの楽しみだった蔭山さん。自身の作品を映像化したいと思うようになり、親交のある映像作家、八十川勝さん(52)に依頼した。21年5月、クラウドファンディングで制作資金を募り、195人から400万円以上が集まった。いよいよオーディションで出演者を決めるという時、容体が悪化。同年8月、心不全で亡くなった。

 八十川さんは途方に暮れた。それでも蔭山さんの父照夫さん(83)、姉由紀さん(53)が協力を申し出、続行を決意した。取材を重ねる中、蔭山さんと上野ケ原養護学校(現・上野ケ原特別支援学校)で同級生だった金村和美さん(47)に出会い、「すぐ隣にあるのに、知ろうとしなければ見えてこなかった生活」を教わった。当初のシナリオからは変更になったが「障害のある人の生き方に目を向け、ともに生きていることを考えてもらいたい」と進めた。

 撮影は同校や神戸市長田区の地域交流拠点「ふたば学舎」で実施。コロナ禍もあり、1年遅れの22年末に撮影が完了した。

 映画では、通常学級で学んだ小学生時代と養護学校での蔭山さんを描いた。よく転んだ小学生時代、大縄跳びができなかったもどかしさ。病を知った時の不安。養護学校で同じ境遇の生徒と出会い、病室で過ごしながら勉強や遊びで競い合った日々。大切に育てた恋の記憶。「恋しくて君のことばかり想い出す」。詠んできた詩を交えて表現した。

 今年6月に兵庫県三田市であった試写会には金村さんも参加した。「(蔭山さんの)知らなかった一面も見られた。言葉は少ないタイプだったけれど、頭の中で思い描いていたことがたくさんあったんだろうな」と懐かしんだ。八十川さんは「パワフルな蔭山さんのことをもっと知りたかった。かつての自分のように、映画を通して知らなかった世界を知ってもらいたい」。

 映画は23日~10月6日に大阪のシネ・ヌーヴォ、9月29日~10月12日に宝塚のシネ・ピピアで上映予定。

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