簡単に手には入るまい、岸田首相の「アレ」で欠けているもの

国会議事堂(資料)

 関西は今、「アレ」の話題で持ち切りだろう。プロ野球阪神がセ・リーグ制覇を果たした。実に18年ぶりというから、熱狂的な虎ファンの喜びはいかほどか。

 「優勝」という言葉を意識的に使わず、「アレ」という曖昧な表現に置き換えたのが岡田彰布監督。使い始めたのがオリックスの指揮官に就いた2010年の交流戦だった。前回、阪神を率いた08年、コーチが優勝という言葉で選手を鼓舞した後にチームが失速したのを振り返り、「優勝」を封印。交流戦を初制覇した。「アレ」はそれからの験担ぎ。新聞の見出しにも躍る。

 阪神のチームスローガンは「ARE」。明確な目標(Aim)、敬意(Respect)、パワーアップ(Empower)という三つの英単語の頭文字を組み合わせた。読み方は「エーアールイー」だが、ローマ字読みは「アレ」になる。

 さて、内閣改造・自民党役員人事を終えた岸田文雄首相の「アレ」とは何だろう。すぐに思い浮かぶのが、1年後に迫った党総裁選での再選。その前に、いかに有利なタイミングで衆院解散を打てるかが鍵を握る。ペナントレースに劣らぬ過酷な道のりになりそうだ。

 阪神のスローガンになぞらえるなら、目標を定め、力もそれなりに蓄えてきたのだろう。だが、有権者への「敬意」がおろそかになってはいないか。独断専行で支持率が回復しないままでは、「アレ」は簡単に手には入るまい。

© 山陰中央新報社