
2023年春頃から、韓国の5人組ガールズグループ・NewJeansに熱中し、時にはその音楽性などを解説したりする中高年の様を指した「NewJeansおじさん」というワードをたびたび見かけるようになった。デビューから1年2カ月が経った9月には同ワードに関する話題がネットニュースなどで再燃。なぜNewJeansは中高年の心をくすぐるのか、そしてこれまでのK-POPとはどういうところが異なるのかなどがより詳しく語られた。また、同事象は日本だけではなく韓国でも起きているようで、本国ファンイベントの参加者の多くが30代後半以上の男性だったという話題も報じられている(※1)。
確かにNewJeansについての多くのテキストでは、韓国映画『子猫にお願い』(2001年)などの映画タイトルや、TLC、スパイス・ガールズ、SPEED、宇多田ヒカルらアーティスト名をたとえに出したり、「○○的」という風にそこに当てはめたりして、同グループに内在しているものを説明する風潮が盛んにある。それが良いかどうかは別として、1990年代に青春時代をおくった筆者などは、当時よく読んでいた音楽雑誌や洋楽CDのライナーノーツの文章の雰囲気を彷彿とさせ、いろんな意味で「クラッ」とさせられる。ただ、この点においても改めてNewJeansは“その層”を刺激しているアーティストなのだと思う。
実際にNewJeansは、2000年前後をあらわす「Y2K」の音楽、ファッションなど当時のカルチャーを明らかに付随させており、1998年にアメリカで放送が始まったアニメシリーズ『パワーパフガールズ』とコラボした「New Jeans」のMVも発表するなど、いろいろ確信犯的だ。またもや「良いかどうかは別として」という断りを付けさせてもらうが、現在のハリウッド映画が1980年代、1990年代のヒット作の続編やリブートであふれ、こと日本でも「昭和世代 VS. Z世代」のような企画が目立つところを見ると、NewJeansの売り出し方やアーティストイメージは現在の流行に合っていると言える。
ただ当然ながら、その音楽性、アイコン性などあらゆる面で単なる焼き回しにはなっていない。ちゃんと新鮮さや発見があり、クオリティも抜群だ。中でも、「Attention」(2022年)の作詞にDANIELLE、「Hype Boy」(2022年)と「OMG」(2023年に)の作詞にHANNI、「Ditto」(2023年)の作詞にMINJIが参加するなどクリエイティブ面でもメンバーの活躍が目立っている点は、グループの大きな特徴である。
特定の世代のノスタルジーを喚起させたり、ファンダム化させたりする理由も分かるが、もちろんそれだけで片付けられない魅力をNewJeansは持つ。
■ミン・ヒジン「NewJeansはファンの皆さんと一緒に成長し、夢を見る」
NewJeansの興味深いところは、ディレクターのミン・ヒジンが「NewJeansは完璧な状態で始まるグループじゃない。NewJeansはファンの皆さんと一緒に成長し、一緒に夢を見るグループになるの」(※2)と未完成であることを強調しているところだ。
さらにメンバーのMINJIはメディアのインタビューで「共感の力は本当に大きいと思います。お互いが同じ方向に向かっていると感じたら、シナジー(相乗効果)が倍増しますが、さらに率直な魅力まで加わると、良い結果をもたらすときが多いと感じました。NewJeansのメンバー、そしてNewJeansとBunnies(ファンの呼称)がそうでした」(※3)と話している。
ファンは、完璧なアーティストには憧れを抱く。そして未完成なアーティストには共感を持つ。あえて日本のシーンに近づけて語るなら、成長過程にある未完成なアーティストがもたらす共感性については、NewJeansと日本の女性アイドルはリンクする部分があるのではないか。
モーニング娘。、AKB48、ももいろクローバー(現・ももいろクローバーZ)、BiSやBiSHなどのWACK所属のグループなどはまさにそうで、ファンと共にさまざまな目標に向かって行き、一緒にストーリーを作り上げていく方法は、日本の女性アイドルの成功モデルとなった。なによりファンとしても、未完成であるがゆえ「自分たちがなんとかしなければ」と気持ちが盛り上がり、大袈裟に言えばそれが生きる楽しみにつながったりする。NewJeansにもそういった方向性があるのかもしれない。
■NewJeansのヒリつくような表現力への期待感
世界的なグループでありながら、一方でミン・ヒジンは「未完成なティーン」を意識し、グループとしてもまだまだ成長の余地を残している。そのためファンも「まだ埋まっていないピースは自分たちが……」と思えるだろうし、未完成であるからこそ成長が目に見えて、“親心”も生まれやすい。先述した中高年人気もそういった要素からきていると推察できる。
また、これは決して比較ではないが、たとえば欅坂46(現:櫻坂46)はメンバーやグループの成長とともに目指すコンセプトがどんどん膨らみ、「サイレントマジョリティー」(2016年)、「不協和音」(2017年)ではそのフレームに収まりきれないほどになり、異様な緊迫感が放たれた。「未完成」ゆえの危うさ、「完成」に近づいたときの表現力の凄まじさは、今もなお鮮烈である。NewJeansも、ミン・ヒジンが話すように「未完成」であるならば、ヒリつくような表現をこれから見ることができるのではないか。
NewJeansには可能性が詰まりまくっている。多種多様な論考があって然るべきだが、筆者はシンプルにNewJeansの音楽と個々の成長を楽しみながら目撃していきたい。
※1:https://www.newsweekjapan.jp/stories/culture/2023/09/-k-pop-1.php
※2:https://turntokyo.com/features/newjeans/
※3:https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=2222102
(文=田辺ユウキ)