3年半振り、介護施設旅行の復活と今後の可能性

猛暑の夏が終わり、残暑が続く季節になりましたが、2023年秋の行楽シーズンにおいて、約3年半ぶりに介護施設の高齢者の皆様が旅行予約を再開しました。

高齢者、特に病気療養中や要介護者にとって、新型コロナウイルスの影響は命にかかわる大きな脅威であり、外出はもちろん、家族との面会も制限されていました。介護施設内でクラスターが発生し、複数の方が亡くなるという悲しい事例が、全国の介護施設において、この3年半で何度も発生しています。

現在(2023年9月)も第9波が来ており、介護施設内でのコロナウイルス感染拡大が広がっている現実がありますが、感染症対策をしっかりと施し、徐々に外出の機会を提供しようとする介護施設が増えていることが報告されています。弊社が提供する介護施設向け旅行サービス「旅介」を通じて、この市場の規模と将来の可能性についてご紹介いたします。

アクティブシニア以外の高齢者のマーケット規模

内閣府の「令和5年度版高齢白書」によれば、65歳以上の高齢者の数は3624万人で、日本の総人口の29%を占めています。高齢者の数は人口減少社会の中でも増加し続け、2040年頃に高齢者人口のピークが訪れ、3900万人以上に達し、2070年にも3000万人以上となり、総人口の38.7%が高齢者になると予測されています。

出典:内閣府 令和5年度版高齢社会白書

特に要支援や要介護認定を受けた高齢者は、2020年時点で682万人おり(厚生労働省「令和2年度介護保険事業状況報告」より)、現在でも日本の総人口の5.6%にあたる約700万人以上が自分での外出や旅行が難しい状態にあります。

日本国内の15歳未満の子供の数が約1500万人で、人口比で12%と言われている中で、その半分以上にあたる700万人以上の要支援・要介護者が3年以上外出しないという事実は、感染症の危険性を考慮しても、多くの損失をもたらす状況です。要支援にもなっていない自立型高齢者住宅の入居者を加えると、非常に大きな市場と見なすことができます。

高齢者(シニア層)の旅行参加対象セグメンテーション:

高齢者の中でも旅行参加者をセグメント化すると、大きく4つのカテゴリーに分けることができます。

1. アクティブシニア層:時間と元気があり、旅行会社にとって有力なターゲット 2. フレイル層:体力が低下し、一般的なツアーへの参加に自信がなく、外出機会が減少している層 3. 要支援・要介護層:認知機能や身体機能がサポートなしでは旅行が難しい層 4. 終末期層:医師や看護師の同行が必要で、人生最後の旅行として需要がある層

1のアクティブシニア向けの旅行サービスは数多く存在し、時間と資金を持つ元気な高齢者が今後も増加すると予想されています。弊社のサービス「旅介」は、2のフレイル層と3の要支援・要介護層を対象にし、BtoBtoCモデルで旅行サービスを提供しています。介護施設、高齢者住宅、自治体の高齢者センターなどを窓口として人数を集め、定期的に比較的リーズナブルなグループツアーを実施することが可能です。

高齢者(シニア層)がツアーに参加しなくなる理由

高齢者、特にアクティブシニア以降のシニア層が一般のツアーに参加しなくなる理由として、健康上の理由がありますが、具体的には以下の要因が挙げられます。

主要駅などの集合場所への自力での移動が難しいこと

排泄に不安があること

団体行動に不安を感じること

あくまで一部の主な理由ですがこれらの理由から、高齢者は他人に迷惑をかけたくないとの遠慮にもつながり、家族と一緒に行くことが唯一の機会となっている現状です。アクティブシニアの中には旅行を趣味とする人が多くいますが、身体機能の低下に伴い、旅行意欲が低下し、機会が減少しています。

高齢者マーケットに対する今後の解決策

それでは、身体機能の低下してきた高齢者が多くの旅行機会を得るためにはどんな事が必要なのでしょうか。(家族と一緒に行ける環境づくりというのは直接的なのですが今回は一旦置いておきます)自宅又は近い場所から出発し、ゆったりしたスケジュールで、少しの手助けを受けられるなら、旅行に行こうと思える高齢者が増える可能性があると考えます。

現在、一般バスツアーのエリア単位より細分化させ、主要駅ではなく地域の公民館出発、通いやすいクリニックや薬局を数か所合わせて20~30名参加する。その位の小さな単位でのツアーが各地で増えていくのがこの分野では理想的であると言えます。(介護施設ならその介護施設出発で利用している仲間と一緒に)また、そういった顧客が増えていく前提で、観光地、宿泊施設のサービス面での受入れ態勢、知識の強化、ハード面での物理的なバリアフリー化を同時に進めていかねばなりません。

弊社では、コミュニティ(介護施設や地域のシニアセンターを含む)と一緒に企画する小団体のシニア向け旅行を提供しております。特殊な知識と手配の手間を考えると、費用対効果が良いとは言えませんが、今後の日本、そして世界全体で超高齢化が進んでいく中で、アクティブでない高齢者の旅行サービスへの需要が増加することは予測する事ができます。

まだまだ正解がわからず、明確なマーケットリーダーもいない分野、今後参画企業が増加し、様々なアプローチで、高齢者の旅行サービスが盛り上がっていき、世界に誇る日本のサービス分野になっていくと信じています。

寄稿者 栗原茂行(くりはら・しげゆき)東京トラベルパートナーズ㈱代表取締役社長

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