ジャニーズや号泣議員も…「記者会見」とは何か?番組担当者に聞く、原点は大物芸人による昭和の事件会見

9月に入って、ジャニー喜多川氏の性加害問題にともなうジャニーズ事務所の記者会見が世間の注目を集めたが、この例に限らず、社会において「会見」という取材方式からさまざまなドラマが生まれてきた。その背景に焦点を当てた番組「ドキュメント記者会見」(NHK総合、18日午後6時5分-同34分)が放送される。記者は取材対象の1人となったが、その機会に制作会社の企画発案者と取材者を〝逆取材〟し、意図するところを聞いた。

そもそも、「記者会見」とは何なのか。大きな事件や出来事に対して殺到する報道陣を1か所に集めて〝交通整理〟し、一つの区切りを付けるという意味があり、結果として、それもまた一つのイベントと化しているという側面がある。ここ最近でもジャニーズをはじめ、日大、キャンドルジュン、ビッグモーター…といった視聴者に消費されてきた数々のキーワードが脳裏をよぎる。近年でいうと、映像的なインパクトから、兵庫県議(当時)による〝号泣会見〟(2014年)が鮮烈に思い浮かぶ。

そんな数ある「会見」の中、今回が初放送となる同番組が取り上げたのは、シリアで3年4か月にわたり拘束され、解放されたジャーナリスト安田純平氏の帰国会見。18年11月2日、都内の日本記者クラブで行われた。

内容の詳細は番組に譲るとして、そもそも、「記者会見の番組」を制作しようとした意図はどのあたりにあったのか。発案者である東京ビデオセンターの合津貴雄ディレクターは、その源流が「昭和の芸能マスコミ」にあったことを明かした。

「きっかけは、今はもう⻤籍に⼊られた、ある芸能リポーターさんとの出会いでした。 ご⾃⾝の仕事を『世の中になくてもいいものだし、世間から嫌われる職業だ』と仰る⼀⽅、『みんな本当のこと知りたいんでしょう?⼈間は都合の悪いことは隠す。厳しく突っ込んだり、疑問をぶつけたりする⼈が必要なんだ』と、つぶやきもするのです。その『取材とは何か』という話がメディアの端くれに⾝を置くものとしては、とにかく刺さりまして」

その合津氏がインスパイアされた会見は、1986年(昭和61年)、ビートたけしのフライデー襲撃事件の会見だったという。

「事件の是⾮はさておき、たけしさんの迫⼒もさることながら、当時の記者さんたちとの丁々発⽌のやり取りが⽣む緊張感にやたら⽬を奪われるということで。リポーターたちの『善悪では計り切れない現場の葛藤』に僕はすごくひかれました。会⾒という『⼀発勝負』は時に登壇者の⼈⽣を⼤きく変える舞台です。記者会⾒は⼀般的に『公式発表』のようなイメージでつまらなく思われるかもしれませんが、登壇者と記者たちのせめぎ合いや⼼理戦のドラマの中でニュースが⽣まれているのではないか、その仮説に⽴って ⽣まれたのが今回の企画です。その場にいた記者たちにしか分からない視点のドラマは、⼀般の視聴者の⽅にもこれまでとは違うニュースの⾒⽅をご提案できるのではないか、そう思って番組を制作していきました」

また、ネット社会になって以降、〝黒子〟的な存在だった記者やリポーターの存在が時にクローズアップされることも起きている。その点も踏まえて、取材に立ち会った同社の渋谷晋一ディレクターは番組のポイントを一つ挙げた。

「SNSが浸透したこの時代、記者会見の当事者(登壇者)だけでなく、記者たちもまた、もう一人の当事者として、その質問そのものが炎上したり、さらされたりと、無傷ではいられない時代だと思います。そんな記者にとって逆風の時代に、多くのリスクを抱えながらも、当時の思いを率直に語る勇気とぶれない意志、そこに宿る言葉に注目して欲しいです。その記者たちの生々しい存在感を視聴者にも感じてもらうために、極力ナレーションをなくし、言葉と言葉がぶつかりあう、時に化学反応が起きているような編集になっていると思います」

第2弾以降も検討しているのだろうか。

合津氏は「もちろん、考えています。今後より掘り下げてみたいと思っているのは、ネット上で話題となっている記者たちの『トンデモ質問』と記者の『煩悶』ですね。会見の裏側で記者たちにどんな狙いがあったのか知りたく思っています。また、これまでメディアが何かに忖度して報じられなかったものが、世間の声に押されて会⾒が開かれている事例もあると思います。その会⾒で記者たちはどんな思いで、質問を投げかけているのか、そこには計り知れない葛藤があるのだと想像しています」などと見解を示した。

めまぐるしく消費されていく情報の中で、会見を一時的なトレンドで終わらせるのではなく、昭和の時代から脈々と受け継がれている泥臭い人間の思考や息吹をいかにすくい取るか。番組スタッフへの取材からそんな思いも見えてきた。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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