期待のジュニア 小池愛菜を指導する父「勝敗に一喜一憂していても成長につながらない。何が自分たちの目標、成長につながるかが大事」

「世界一になりたい」という言葉を支える父・陽平さん

今、世界で戦う日本の女子ジュニアで世界ランクトップ10に4人がいる。最高2位を記録している齋藤咲良(MAT Tennis Academy/同5位)や石井さやか(HSS/同6位)、クロスリー真優(東京都TA/同8位)、小池愛菜(同9位)。中でも小池は、他の日本のジュニアとは異色だ。

齋藤が日本で、石井、クロスリーがアメリカの名門クラブで力をつける中、小池はなんと家族でアメリカに移住。拠点は数々の名選手を輩出してきたアメリカ・フロリダにあるIMGアカデミーだが、メインコーチは父の陽平さんが務めている。まさに女子テニスのレジェンド、ウイリアムズ姉妹を育てたリチャード氏さながらのファミリーテニスだ。

こう聞くと「選手がかわいそう」「毒親だ」と思われるかもしれない。なぜなら勝ち負けにこだわり、うまくいかないことがあると声を荒げる親も少なからずいるからだ。しかし、父・陽平さんは「たかがテニス。人生の一部」と捉え、娘の「世界一になりたい」という言葉を支える。これまでの経緯や練習法について聞いてみた。

――家族でアメリカに移住され、愛菜さんのテニスの練習の拠点をIMGアカデミーに置いた理由を教えてください。

私の仕事でアメリカに来ていたので、気候が暖かいことやコートもいっぱいあるというのが理由です。

――他のアカデミーも見て回ったのでしょうか。

元々、私たち夫婦はテニスコーチをしていて、家族でテニスコートを探してやっていたんです。その状態がずっと続いていて、そのコートがようやくIMGアカデミーに決まったという感じです。

――試合では小池選手にポイント毎に言葉をかけていらっしゃいました。

3歳や4歳ぐらいから見ていて、彼女に何が足りないのかもわかるので、それに対して相手の状況を見ながらベストな選択が何なのかを選んでアドバイスをするようにしています。

――準々決勝では結局今大会を制した選手に敗れました。どのような感想でしょうか。

相手(キャサリン・ホイ/アメリカ/WTA 995位)が、良い状態でしたね。アンフォースエラーが少なく、簡単にポイントが決められてしまったことが多くて、第2セットでようやくボールに変化を加えてゲームをとれるようになったのですが、それでも相手の方がよりミスが少なかった。今日は本当に相手が良かったと思います。

――これからステップアップしていくにあたって足りないもの、これから練習していくことは何でしょうか。

これまでテニスの基本をレベルアップすることを重要視していて、フィジカルやフットワークのトレーニングをあまりしてこなかったんです。この1~2年でWTAツアーの上へいくためはそこを鍛えていかなければいけないよねという計画です。

――あえてやらないでいたと。

先にフットワーク、フィジカルを鍛えてしまうと、それに頼ってしまい怪我などが増えると思っていました。あとは身長を伸ばすことが重要だったので、休みをたくさん取るようにしていました。なので、彼女の優れている部分であるボールを打つ感覚を先に鍛え、テニスのベースを作ろうと。フィジカルとかフットワークは後天的に作れるものなので、やろうと思えばすぐに身につけられるものなんですよね。例えば、年齢を重ねてからでも筋肉を鍛えてボディービルダーになられる方もいますし、フットワークを鍛えればすぐに速くできます。しかし、一番大事なところが身についてないとフットワークや力などが生きてこないと思います。

先に基本を重視したことで、フィジカル、フットワークが足りずに、彼女自身悔しい負けをしたことがこれまでも何回もありました。でも、そこでのミスは過程だと捉えていて、最後の目標に行くには何が必要かというのをしっかり見据えて計画を立てて一つ一つを積み重ねることを重要視しています。

――基本を積み重ねるというのはトップの人ほどよく話に出てきます。「基本」のことを教えていただけますでしょうか。

人によると思うのですが、テニスの本質的なところというのは、子供でも大人でも必要な部分ですね。例えばスプリットステップでの着地のタイミングやボールを捕らえる位置、スイングの角度というのは、小さい頃からできていれば良いと思います。

――結果が出ないことに関する不安は誰にでもあると思いますが、その対応はどうされていますか。

選手によっては勝てないことによる不安もあると思うのですが、私たちは今のやり方で「いける!」と信じているので、負けても「もうだめだ」ということにはなりません。試合で何が良くて何がダメだったのかを反省して、明日にはもう練習をしています。テニスのいいところは1試合で何もかもが終わるわけではないこと。今週が終わったら、また翌週に試合があり年間で大会がいくつもあります。例えば、それを詰め込みすぎるとバーンアウト(燃え尽き症候群)してしまう。

こう言っては何ですが、たかがテニスだと思うんです。人生の一部で、他にも重要なところはたくさんあります。家族も重要で、親、生活とか友達もそうです。テニスだけで燃え尽きないように、人として子供たちが成長できるように、信頼される人になるように私はサポートしていこうと考えています。だから私は子供たちに一度も練習しろと言ったことはないです。

娘・愛菜さんを指導する父・陽平さん

――現在はどのぐらい練習に時間をかけていますか。

平日はIMGアカデミーのプログラムの中に入れてもらってます。午前に1時間超、午後に2時間ぐらいはテニスしています。あとは体調をみて必要な時に、朝30分ぐらい一緒にやったりしています。IMGアカデミーを拠点にする以前は毎日2時間ぐらいの練習です。

――もっと時間を費やしていると想像していました。家族総出でのテニスの最高の形ですね、小池さんの経歴などどんな人生を歩んでこられたのでしょうか教えてください。

元々テニスが好きでコーチをしていて、妻とはテニスクラブで知り合い結婚しました。就職してからはテニスから離れていたのですが、子供が生まれ、家族でテニスをしている中で子供「世界一になりたい」と言ったので、そこからは子供のテニスが中心です。

――それは何歳ぐらいのことですか?

確か3〜5歳ぐらいだったと思います。なので小さい頃から全豪オープンに連れて行ったりしていました。彼女が世界一を目指したいというのなら、妻と相談して家族でやろう!と決め、テニスの映像も数えきれないぐらい見て、調べたり学んだりしてきました。

仕事の関係で3年間香港に住むことになり、そこで試合に初めて出場したのが9歳か10歳ぐらい。その後は1年日本に住んで、アメリカに来ています。

――親がジュニアに帯同する場合には必死になり過ぎて、アップダウンのある雰囲気に子供もなっていきそうです。

私の好きな言葉で「勝って兜の緒を締めろ」という言葉があります。勝ち負けはテニスなので絶対にあります。時の運だけでなく、相手がものすごく調子が良くて負けることもあります。勝敗に一喜一憂していても次の成長につながらないので、何が自分たちの目標、成長につながるかというところを考えて、そこにフォーカスするようにしています。

――来年の目標というのも家族の皆さんで話し合って進めているという感じでしょうか。

目指しているレベルを考えながら、そこに足りないものを補っていく目標を立てたりします。トレーナーは必要だと考えていますが、誰かにお願いするとしても私も納得できるように勉強をしています。

――大変かもしれませんが、家族としては理想の形ですね。

周りから見ると大変そうにも思えますが、それをやれていることが幸せだなと思っています。(このままプロツアーでも)やっていけると思っていますが一喜一憂するのではなく、そこに向かっていくプロセスをちゃんと楽しみながら全力を尽くしているというところに幸せを感じるようにしています。「結果よりプロセスが一番重要」だと思います。

――みんな目指しているゴールになかなか行き着かなくて、結果に一喜一憂してしまいます。なぜそんなに達観していらっしゃるのでしょうか。

達観しているかはわかりませんが、そういう考えになったのは、ビジネスや歴史、他のスポーツなどから学んだためだと思います。私自身がビジネスの方に興味があり、MBA(経営学修士)を取得しました。働きながらの留学だったので、その期間は父親であり、ビジネスマンであり、学生であるというとてもハードな(睡眠時間が3~4時間)生活でした。あと様々な本を読むのも好きなんです。歴史、ビジネス、他のスポーツ選手について書いてある本などたくさん読んで、良いところだけを抽出して私がフィルターをかけて子供たちに伝えています。

――今までの日本人でこのような形でグランドスラムを目指す人というのは少ないのではないかと思います。

私の転勤もありましたが、娘を見ていて何が必要かを一番考えられるのは私なので。悪いものを与えたら絶対にいけないという責任感はあると思います。人に何もかも任せるのではなく、自分自身で何が良いかを勉強して、良いものだけを子供達にしっかり伝えるようにしています。選別したら勉強したものの中から10のうち1か2が子供たちのなかで積み重なっていけばと思います。

あとはこだわりとかはなく、自分のやっていることを子供に説明できるよう、誠実に行動できるようにしていますね。

――姉弟で雰囲気も似ていらっしゃいますね。

これがまた姉弟でテニスをすると喧嘩になりますね(笑) 2人とも競争心は強く、2歳年下の弟はこれから同じようにグランドスラムを目指しています。弟はIMGにいい練習相手がいるので恵まれています。セバスチャン・コルダ(父はペトル・コルダ)がいて、同じように育ててもらっています。

――競争をしていても誰かの足を引っ張りたいとか、そんな世界とは無縁な感じがしました。

もちろん試合の中では競争していると思います。でも、同世代の日本のジュニアたちは強いですが、お互いにマイナスな競争はしていないように感じます。例えば愛菜と(齋藤)咲良ちゃんは仲が良いし、(石井)さやかちゃんともIMGアカデミーで一緒です。友達が頑張っているから私も頑張ろうというような感覚を持っていると思います。

この中から誰かが上にいくと日本のテニスが盛り上がると思います。私の子供たちには日本や世界の人たちに希望が与えられる「この人を見たいな」「この人の人生ってすごいな」「この人が頑張っているから僕も頑張ろう!」と思ってもらえるような人に成長してもらえると良いなと思いながら教育をしています。

――お忙しいところ、お時間をいただきありがとうございました。今後の小池ファミリーテニスの動向は気になるところです。

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