きょう敬老の日 洋裁一筋30年 田尻“先生”(87) 夢はファッションショー

約30年間、洋裁教室を続ける田尻さん。「教室が私の生きがい」と話す=佐世保市春日町

 9月18日は「敬老の日」-。洋裁の道一筋に生き、今なお現役でミシンを踏む佐世保市の女性(87)の姿を紹介する。

 見た目はごく普通の民家。中に入ると、ミシンで布を縫う音が聞こえてくる。昼間でも蛍光灯がらんらんと光り、明るく照らされた室内。ここは佐世保市内の洋裁教室。「裾はちゃんと縫った?」。生徒に声をかけたのは“先生”の田尻マサさん(87)。教室を始めて約30年。今も難なく針に糸を通す。「教室は私の生きがいです」-。
 平戸市出身。高校卒業後「花嫁修業をして、手に職を」と、両親の勧めで佐世保市内の民間洋裁教室に1年通った。下宿しながらボタンの付け方から型紙の製図の作り方まで学んだ。「卒業制作でスーツを1着仕立てたんですよ」と懐かしむ。
 25歳ごろ結婚し、息子2人に恵まれた。60歳ごろに夫が死去し、「(洋裁で)内職をしたらいいかも」と考え、教室を始めた。かねて洋裁の腕は周囲も認める程で「始めるのを待ってたよ」と、心待ちにしている人もいた。
 最初は、結婚したときに買った1台のミシンから。徐々に口コミで広まり、延べ50人以上の生徒に教えてきた。現在は週5日、15人ほどの生徒を抱えている。ミシンも約10台に増えた。
 生徒は作りたい服の型紙と生地などを持参する。「先生、ここはどうしたらいいですか」「縫って良いでしょうか」-。3人の生徒が異なる衣服の作り方を尋ねてくる。間髪入れず「こう縫ったらいいんじゃない?」「ボタンを付けるのはどう?」-。的確に助言する。生徒の手元が見えた一瞬で間違いに気づき「どらどら、ちょっと待って」と止める場面も。「少し見たら分かるの。難しい事じゃないわ」とほほ笑む。
 生徒の作品が完成したときは「とってもうれしい」と目を細める。「今が一番幸せなんです」。90歳を前にかなえたい「夢」がある。「生徒さんが、自分が作った服を着て、ファッションショーを開く。それを、みんなに見てもらいたい」。夢を語る瞳は、輝いていた。

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