漫画の世界観 点字や音声で視覚障害者にも 長崎で研修会、ボランティアら表現模索

漫画点訳の苦労や工夫について語った奥野さん(左)ら=長崎市茂里町、長崎ブリックホール

 視覚障害がある人たちのニーズに応え、漫画を点字や音声に訳す試みが広がりつつある。主に文字だけの小説やエッセーと異なり、漫画ではイラスト以外にも吹き出しや、こま割り、独特の符号などを駆使して世界観を表現するため言語化が難しく、点訳者や音訳者たちは模索を続けている。長崎市内で14日開かれた研修会をのぞいた。
 研修会は九州の点字図書館職員やボランティアら約300人が集う「九州視覚障害者情報提供施設大会」の一環。長崎県視覚障害者情報センターの音訳指導員、上西祐子さんらが進行役を務めた。近年は漫画作品のドラマ化やアニメ化が増えており、上西さんは「漫画が家族や友人で共有する(話題にする)文化になっている。誰もが自由に読めるように点訳や音訳が必要」と意義を語った。
 そもそも漫画は視覚的な表現が多い。主に絵とセリフで成り立ち、物語の展開や心情が登場人物の動きや表情だけで表されたり、吹き出しの形を変えることでセリフと心の声を書き分けたりする。加えて、緊張や寒さを表す「体周辺の波線」や寝ている時の「鼻ちょうちん」など「漫符(まんぷ)」と呼ばれる符号や、「ザワザワ」「ドドド」といったオノマトペも多用。点訳や音訳ではこれらも解説していく必要がある。
 研修会では実際に漫画を訳した支援団体スタッフやボランティアが登壇し、苦労や工夫を紹介した。このうち人気作「鬼滅の刃(やいば)」を点訳した日本ライトハウス情報文化センター(大阪市)の奥野真里さんは「人物のちょっとした表情が物語の鍵になる場合もある」として丁寧な解説へのこだわりを語る一方、「漫画は芸術作品なので表情や動きの受け止め方は人それぞれ」とも。点訳者らの思い込みで偏った表現にならないように心がけていると明かした。
 奥野さんによると「漫画点訳が表面化してきたのはここ数年」で、まだマニュアルもない。奥野さん自身も視覚障害があり「世間の話題に付いていくためにも読みたい」との思いが、漫画点訳を始めたきっかけという。今後も「漫画で分かる○○」などの解説本や、来年のパリ五輪・パラリンピックを見据えたスポーツ漫画などの点訳に挑戦する考えで、奥野さんは「今や漫画は日本文化の象徴。徐々に漫画点訳が広がれば」と期待を語った。

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