【MLB】「絶滅危惧種」ナックルボーラーを継ぐ者 ウォルドロンがMLB初勝利

写真:パドレスのウォルドロンはナックルボーラーの系譜を繋ぐことができるか

様々な変化球について研究が進む現代にあって、ほとんど絶滅寸前の変化球がいくつかある。ナックルボールはその一つだ。

今季が始まるまで、MLBの投手による投球でナックルボールが記録されたのは2021年のミッキー・ジャニス(オリオールズ)が最後。近年は野手が大きく点差が開いた終盤でまれに投球する場面を除き、ほとんど見られないようになっていた。

そんなナックルボーラーの灯火をわずかながら復活させた男がいる。パドレスのマット・ウォルドロンだ。ウォルドロンは2019年のドラフトでクリーブランド・インディアンズ(現ガーディアンズ)から18巡目指名を受けて入団した26歳。マイク・クレビンジャーとのトレードでパドレスへ移籍していた。

ウォルドロンは今年6月にMLB昇格を果たすと、その後はマイナー降格と昇格を繰り返しながら合計6試合(うち4先発)に登板。そして現地時間16日のアスレチックス戦で、ついにMLB初勝利を記録した。

前述のジャニスは1試合の登板で勝ち負けなしに終わっており、ナックルボーラーの勝ち投手となると2018年9月のスティーブン・ライト(レッドソックス)に遡る。現在パドレスの正捕手を勤めるゲイリー・サンチェスがウォルドロン以前にナックルボールを捕球したことがなかったというエピソードからも、この奇妙な変化球が絶滅寸前であることがわかる。

さて、こうして辛うじて現代野球に生き残ったナックルボールだが、ウォルドロンはこれまで歴史上に名を残してきた多くのナックルボーラーとは大きく違うスタイルを取る。

それは、ウォルドロンは全投球のうちわずか30%弱しかナックルを投じないということだ。

たとえば、野球データサイトのファングラフス(Fangraphs)によれば、2010年代を代表するナックルボーラーのR.A.ディッキー(ブルージェイズほか)は全投球の80%以上をナックルが占めていた。前述のライトに至っては、800球以上を投げて投球の92%がナックルだったことすらある。不規則な変化を示す一方で習得が困難なナックルボールは、その希少性と変化ゆえに1球種だけである程度抑えられてしまう。何よりほかの球種である程度相手打者を抑えられる投手は、リスクを背負ってまでナックルボールを習得しようとは思わないのだ。

ウォルドロンは、以前MLB公式のAJ カサヴェル記者に対してナックルボールを「左打者に対して有効」「ストレートと同じ位置から投げることでストレートの威力を増すことができる」球種だと語っていたようだ。

つまり、ナックルだけで相手打者を翻弄するのではなく、ナックルを持ち球の一つとして考えているという点で、ウォルドロンはこれまでの投手と決定的に異なっているといえるのだ。科学技術の発展により相手打者を抑えることが難しくなる中で、ウォルドロンの投球スタイルはナックルボーラーが現代に生き残るための可能性を示していると言えるのかもしれない。

パドレスは現在ダルビッシュ有やジョー・マスグローブを欠き、先発投手不足に陥っている。現状防御率5.16と振るわないウォルドロンに再三に渡ってチャンスが巡ってきているのはそのためだ。彼が、ひいてはナックルボールが来季もMLBに残るためには残り10試合で結果を残す必要がある。

絶滅危惧種の変化球が、そして1人の若手投手が来季もMLBに生き残れるか。厳しい戦いは続く。

© 株式会社SPOTV JAPAN