定年直前だけど、退職金も貯金もゼロ。どう暮らしていけばいいですか?

定年を目前としているにもかかわらず、貯蓄がない場合、定年後の収入は年金収入のみになります。貯蓄がなくても退職金があれば、それを切り崩しながら生活できますが、退職金がない場合、どのように生活していけばいいのでしょうか。

今回は定年直前の貯蓄率や、年金だけの生活の実態を紹介するとともに、年金だけで生活できない場合の対処法について解説します。


定年直前で貯金が全くない割合は?

金融広報中央委員会が公表している「家計の金融行動に関する世論調査[総世帯](令和4年)」によると、60歳代で金融資産を保有していない人の割合が23.1%あることが分かります。また、60歳代で金融資産を保有していない人のうち、無収入の割合が62.6%と大部分を占めており、次いで多いのが300万円未満で37.5%となっています。

年金だけでの生活の実態

総務省の「家計調査年報(家計収支編)2022年」にて、65歳以上の無職世帯の家計収支を読み取ることができます。

●夫婦2人の場合
65歳以上の夫婦のみの無職世帯の収入は24万6.267円です。それに対し、支出は23万6,696円となっており、毎月2万2,270円の不足が生じていることがわかります。

●単身者の場合
65歳以上の単身無職世帯の収入は、13万4,915円です。それに対し支出は14万3,139円で、こちらも月2万580円の不足です。

老後に係る費用にはどのようなものがある?

では、老後生活に係る費用には、どのようなものがあるのでしょうか。

●食費
支出のうち、一番多くの割合を占めるのが食費です。

夫婦2人の場合、毎月の食費は6万7,776円で、支出全体の28.6%を占めています。また、単身者の食費は月に3万7,485円で、支出全体の26.2%となっています。

●交通費・通信費
生活費の中で意外と大きな割合を占めるのが、交通費および通信費です。最近では高齢でもインターネットを利用する人も多く、また1人に1台携帯電話を持つ時代で、高齢者も例外ではありません。キャッシュレス決済が急激に普及している現在では、スマートフォンはなくてはならない存在になっていることも背景として考えられます。

毎月の交通費および通信費は、夫婦2人世帯で2万8,878円と全体の12.2%を占めています。単身世帯では1万4,625円と全体の10.2%を占め、支出の1割が交通費および通信費に使われていることが分かります。

●交際費
食費に次いで多くかかるのが交際費です。冠婚葬祭などにかかる費用のほか、孫へのプレゼントなども必要でしょう。

交際費は夫婦2人世帯で2万2,771円となっており、全体の9.6%を占めています。単身者の場合は1万7,893円と若干少ないものの、全体12.5%と交通費および通信費よりも大きな割合となっている点には注意したいところです。

生活費が不足した場合に頼れる制度

ここまで紹介したように、老後生活を年金だけで暮らすと、毎月2万円程度の不足が生じています。そのため、できれば定年退職後も仕事を続け、収入を得る手段を持つことをおすすめしますが、体況などの理由で働けない可能性もあります。

最終的に生活費が不足したときに頼れる制度には、生活福祉貸付や生活保護 があります。

生活福祉貸付
生活福祉貸付とは、各都道府県の社会福祉協議会が行っている、低所得世帯や障害者、高齢者に向けた貸付制度です。

そして、高齢者が利用できる貸付には、以下の3つがあります。
・生活支援費
・住宅入居費
・一時生活再建費

生活支援費は生活を再建するまでの間に必要な費用で、2人以上の世帯では月20万円以内、単身世帯では月15万円以内を借り入れられます。利子は年1.5%ですが、保証人をつけることで無利子になります。ただし、貸付期間は原則として3ヶ月となっており、10年以内に返済しなければなりません。

住居入居費は、家の賃貸契約を結ぶ際に必要な費用や敷金、礼金を借りられるもので上限額は40万円以内に設定されています。

一時生活再建費は、生活を再建するために一時的に必要であり、かつ日常生活費で賄うことが困難な費用を借り入れられるものです。借り入れられる上限額は60万円で、住居入居費と同様に6ヶ月の据置期間を経過後10年以内で返済する必要があります。

●生活保護
生活保護制度とは、資産や能力など全てを活用しても生活に困窮する人に対し、その困窮の度合いに応じて必要な保護を行う制度です。

生活保護を受けるには、生活費に充てられる資産がないことや、働く能力がないことなどの要件を満たす必要があります。また、親族などから援助を受けられるなら、そちらを優先するよう求められます。生活保護で支給される保護費は、厚生労働大臣が定める基準で計算される最低生活費と収入との差額です。そのため、受給している年金額が最低生活費を超える場合は保護を受けられません。

生活保護を受けるためには、まず居住地を管轄する福祉事務所に相談する必要がありますが、生活に困窮しているなら相談し、保護の申請を行いましょう。

持ち家があるなら活用する方法も

貯金が全くなくても、家が持ち家ならそれを活用する方法もあります。

上で紹介した生活福祉貸付制度の中には、不動産担保型生活資金が用意されており、高齢者に向けた「要保護世帯向け不動産担保型生活資金」を借りることができます。

借りられる金額は土地および建物の評価額の70%(集合住宅は50%)程度ですが、生きている間は利息のみを支払い、亡くなった際には担保として設定した自宅を差し出す仕組みです。保証人も不要で利用できるため、持ち家があるなら、考えてみてもいいかもしれません。

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