
先の女子ワールドカップで、日本が準々決勝で姿を消してしまったのは、とても残念だった。日本はベスト8に残ったチームの中で一番期待され、愛されていた。
地元オーストラリアのメディアは、FIFAのオフィシャルテクニカルグループ(8人の元選手、監督からなるグループでどのW杯にも存在する)の意見も取り入れつつ決勝トーナメント開始前にグループリーグのベストイレブンを発表したが、そこには日本の選手が4人も入っていた。DFの熊谷紗希、MFの長谷川唯、そしてFWの宮澤ひなたと田中美南。これほど多くの選手が選ばれた国は存在しなかった。
彼らはベストコーチに日本の池田太監督を選んだ。その証拠にそのベストイレブンの構成はDF4人、MF3人、FW3人となっていた。池田監督の用いた4-3-3に準じていたのだ。
私は現地で取材に来ていた各国メディアの記者に尋ねてみたが、口をそろえて池田監督を高く評価していた。相手やプレーの展開に合わせた臨機応変な戦術の変化、またスペイン戦ではスタメンを大きく変え、それがピタリとはまったこともほめそやしていた。
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ライバルとなる各国指揮官も彼を称賛していた。
ブラジル女子代表のピア・スンドハーゲ監督は池田監督となでしこジャパンについてこう語っていた。
「大会前の我々のアナリストの分析では、日本は警戒すべき10チームのうちに入っていなかったのだが、ふたを開けてみたらまるで違った。特に池田監督の用いた戦術の素晴らしさには驚かされた」
ベスト8に入ったチームの指揮官で唯一の女性だったイングランドのサリナ・ウィーグマン監督も「日本がこれほど優秀な監督を持っているとは、女子サッカー界にとって喜ばしいことだ。女子チームも、男子に比べてと遜色ない名将に率いられるべきだ」と称えた。
またブラジル代表の重鎮マルタはこう言っていた。
「日本は世界中の女子選手たちが羨ましく思えるチームだ。秩序、才能、テクニック、冷静さがあり、なにより優秀で彼女らのことを常に考え寄り添う監督までいる」
実際、W杯出場国の中には、選手と監督が衝突したチームが少なくない。
例えば、優勝したスペインはビルダ監督の女性蔑視の姿勢を嫌って、大会前には15人がチームを出ていく事態にまで発展した。フランスでも監督が女子選手に対するリスペクトと思いやりがないと主力の選手がSNSで発信し、もう少しで彼女らを欠くところだった。またアフリカでも多くの選手が男性監督のセクハラを訴えた。
それを考えると、日本の選手と監督の関係性はまさに理想的だ。
取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子
【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。