【香港】どうなる?1千億ドル投資[建設] 碧桂園「森林都市」の今(上)

フォレスト・シティーから見えるシンガポールとマレーシアをつなぐ国境橋「セカンドリンク」=7日(NNA撮影)

マレーシア・ジョホール州に人工島を造成して新たな都市をゼロからつくる「フォレスト・シティー」計画。これを手がける香港上場の中国不動産大手、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)が今、深刻な経営悪化に直面している。総事業費1,000億米ドル(約14兆7,700億円)という空前の巨大プロジェクトは、今後どこへ向かうのか。現地の今を取材した。【菅原真央、Charlotte Chong】

フォレスト・シティーはシンガポールから直線距離でわずか2キロメートルの位置にある。シンガポール西部トゥアスの国境検問所を通り、国境橋「セカンドリンク」を渡れば、現地までは車で20分。地図を見る限り絶好の立地だが、現実はそうでもないことにすぐに気づくこととなる。

フォレスト・シティー・マリーナ・ホテルの朝食バイキング。4~5組いた客はいずれも中華系で、中国語が飛び交った=7日(NNA撮影)

取材で宿泊したのは、フォレスト・シティーのランドマーク的存在となっている「フォレスト・シティー・マリーナ・ホテル」。訪れたのは9月初旬の平日だったが、フロントの女性によると、この日は「満室」だという。しかし、フロントスタッフは1人のみで、ロビーのバーも営業していない。283室を有する客室の実際の稼働率が気になる。

シンガポールから来たキリスト教関連団体の男性(50代)は、団体の会合のため4日間ホテルに滞在すると話した。「広い場所が必要で、シンガポールから近く、価格も合理的だったためここでの開催を決めた」。碧桂園を巡るニュースも耳にしており、「来るまではフォレスト・シティーが機能しているか心配だった。人が少なく、できることは限られそうだ」と顔をしかめた。

スーパーでは中国製の食品が売られている。店の規模は小さい=8日(NNA撮影)

ホテル周辺を離れた住宅エリアでは、清掃員や建設作業員などの労働者を除き、人の姿がぐんと減る。マンション1階部分の飲食店はほとんどが中華料理店だ。中国メーカーの食品や生活用品などを置くスーパーマーケットもあるものの、生鮮食品が少なく個人商店のような規模。約9,000人とされる住民を支える生活感はない。

■構想は70万人都市

フォレスト・シティーは、碧桂園が2015年からジョホール王室や同州政府の支援を受ける地場企業と共同で開発を進めている。マレーシアとシンガポールにまたがる4つの人工島を埋め立て造成し、住宅やオフィスタワー、商業施設、教育機関などを建設する巨大プロジェクトで、最終的に70万人が住む計画だ。

碧桂園はここにきて経営状況の悪化が表面化し、直近では債券の利払いを巡ってデフォルト(債務不履行)寸前に追い込まれた。23年6月中間期決算は純損益が489億3,200万人民元(約9,900億円)の赤字となり、前年同期の黒字から巨額赤字に転落した。

碧桂園は8月28日、フォレスト・シティー事業を計画通りに推進するとの声明を発表した。「安全かつ安定している」とし、人工島内での不動産販売も順調だと強調している。

フォレスト・シティーは一時、国外への資本流出を阻止しようとする中国政府の方針や新型コロナウイルスの影響などで計画が停滞し、ゴーストタウン化したことが話題となった。現在も活気があるとは言い難く、人けを感じたのはホテルと隣接するショッピングモールの周辺のみだった。

閑散とするショッピングモール。免税店にのみ数組の客がいた=7日(NNA撮影)

ショッピングモールのフロアマップには飲食店やアパレル店、家具店など約30店舗が掲載されているが、実際に営業しているのは3分の1程度。最近施設内にスーパーをオープンした中国人オーナーの孫奇超さん(30代男性)は、コロナ後にほとんどのテナントが入れ替わったため、現在は改装中なだけだと説明。「コロナ前はとてもにぎやかだった。最近は人が戻ってきている」と主張した。

一番にぎわっていたのは免税店で、4店舗が営業していた。フォレスト・シティーは「免税特区」に指定されているため、酒類などが免税で購入できる。「アサヒスーパードライ」の320ミリリットル缶は4.8リンギ(約152円)で、市内の約半額だ。

■弱い交通とインフラ

フォレスト・シティーが人を遠ざけている原因に、実は脆弱(ぜいじゃく)な交通とインフラがある。シャトルバスが3路線あるものの、多くても1時間に1本程度だ。

タクシーもつかまりにくい。タクシー運転手の女性(60代)は「(観光で)滞在する人は多くない。需要が少ないのでタクシーが入ってこず、出かけるのは難しいと思う」と指摘した。

夜のフォレスト・シティー。マンションの明かりのまばらさが目立つ=6日(NNA撮影)

当地のマンションを所有するマレー系シンガポール人のアスリさん(60代男性)も「ここから出るためのシャトルバスがもっと必要だ」と訴えた。

7月23日にはマレー半島と人工島をつなぐ連絡道路で崩落事故が発生した。タクシー運転手は「大雨の影響のようだ」と話した。現在は仮設道路が利用されている。事故から1カ月半が経過した今も断裂した道路と柱ごと倒れた高架の様子が確認でき、埋め立て地である人工島の地盤の弱さが懸念される。

シャタック・セントメリーズ・フォレスト・シティー・インターナショナルスクールでは最近、韓国人の生徒が増えている=7日(NNA撮影)

人工島のインターナショナルスクールで教員として働く米国人のイアン・ペティグリューさん(男性)は「この事故が起こる前から、設備に対して心配はしていた。建物の安全性についても若干の不安がある」と話す。学校が提供する敷地内の宿舎に住んで4年目となり、今年が仕事の契約の最終年度となる。延長するかどうかは悩んでいるといい、「もしキャンパス外に住むことができれば、教員の多くはもっと長く在籍したいと思うはずだ」と胸の内を語る。

■韓国人生徒が増加

ペティグリューさんが在籍する学校は米ミネソタ州に本校を置く「シャタック・セントメリーズ・フォレスト・シティー・インターナショナルスクール」で、フォレスト・シティーが住民を誘致する取っ掛かりの一つとしている。幼稚園から高校までのカリキュラムを用意し、18年夏に開校した。

生徒数は約160人。以前はほとんどが中国人だったが、コロナ禍で帰国が相次ぎ、現在は韓国人が40%を占める。外国人教員の半数以上は英語ネーティブだ。

人数に対して校舎は広く、50メートルプールやサッカー場なども備えられている。生徒にとってはのびのびと学べる環境が整っているといえそうだが、多くはフォレスト・シティーの住民ではなく、近隣の地域から通学しているという。

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