地方の博物館の活かし方~テーマを持って博物館を巡る、奈良県観光、連携こそ観光振興につながる!~

奈良県内には国立、県立、市町村立、私立のさまざまな博物館が存在する。これらはどのような目的で設立運営されているのだろうか。まずは国や地方自治体が設立する博物館を列挙してみよう。

人気の博物館として「奈良国立博物館」

奈良国立博物館は東京、京都と並んで、明治時代に日本で最初に設置された国立博物館の一つである。明治初年に吹き売れた廃仏毀釈運動で、奈良の仏教美術は危機に瀕した。そのため、跡形もなく破壊された大寺院や貴重な仏像も多い。しかし、フェノロサの尽力でようやく奈良の仏教文化財の価値が見直されるようになった。そのおかげで、同館の設置目的は神社仏閣の伝来品を収蔵展示することとされた。現在も仏教美術を中心として収蔵展示を行っている。

明治に建造された奈良県初の西洋建築である旧本館は「なら仏像館」として仏像の展示を行っている。また、東新館では、毎年秋に正倉院展が行われ、全国から多数の観覧者が訪れる。観光客に最も知られている博物館と言っていいだろう。

「国立奈良文化財研究所」とその「附属博物館」

奈良文化財研究所は平城宮跡の保存運動の高まりを受けて、平城宮跡の発掘調査を主な目的として設立された。平城宮跡の発掘のみならず、国内外の発掘調査や遺物保存で多大な成果を上げている。そして、附属博物館として平城宮跡の発掘成果を展示する「平城宮跡資料館」が平城宮跡内に設置されている。また、藤原宮跡には「藤原宮跡資料室」、明日香村には「飛鳥資料館」が設置されている。いずれも遺跡の所在地に存在し、それぞれの遺跡からの発掘成果を展示するユニークなものになっている。

研究施設としての県立「橿原考古学研究所」

橿原考古学研究所はもともと、京都大学教授だった末永雅雄博士が中心となって、弥生時代の巨大集落跡である唐古・鍵遺跡の発掘をはじめ、奈良県内で行ってきた遺跡発掘活動を継続させる目的で設立された。そのため、奈良県立の組織となっている。奈良文化財研究所と活動内容が重なるが、奈良県内の遺跡はいくら掘っても国宝級を含めて重要な遺跡遺物がたくさん出てくるので、研究所が2つ存在することはむしろありがたいことと私は思っている。

同研究所にも「附属博物館」があり、常設展のほか、その年の重要な発掘成果を展示している。飛鳥遺跡や藤原京跡に近いことから、弥生時代から飛鳥時代までの発掘成果の展示が充実している。

数が多い「寺院が設置する」博物館

多くの神社仏閣がそのまま博物館

奈良には大寺院が今も健在であることから、寺院が設置する博物館も多い。そもそも寺に安置されている仏像そのものが国宝であるものも多い。まさしく、寺全体が博物館のようなものだが、「東大寺ミュージアム」「興福寺国宝館」「春日大社国宝館」「法隆寺大宝蔵院」なども見応えのある展示物が豊富だ。

多岐に渡る「歴史的遺物」を展示する市町村が運営する博物館

唐古・鍵考古学ミュージアムで
展示されている楼閣を描いた土器

唐古・鍵遺跡に関する展示を行う「田原本町立唐古・鍵考古学ミュージアム」、34枚の銅鏡が出土して卑弥呼の鏡かと話題になった黒塚古墳の石室を再現した「天理市立黒塚古墳展示館」、飛鳥時代の四神の壁画が見つかったキトラ古墳の石室模型を展示する「明日香村立埋蔵文化財展示室」、金銅製馬具が発掘され重要人物が葬られたとされる藤ノ木古墳の石室や馬具のレプリカを展示する「斑鳩町立文化財活用センター」など、多数存在する。

また、奈良の古寺や自然をテーマにした写真で有名な入江泰吉の写真を展示する「奈良市立奈良市写真美術館」もある。

民間企業も博物館を設立している

私立の博物館としては、近鉄が設立した大和文華館もある。太平洋戦争直後の混乱期に散逸や海外流出の危機にあった貴重な美術品を買い集め、東洋美術の作品を中心に展示する。

目的は観光振興といえども・・・

東大寺大仏殿を映し出す鏡池

こうして奈良の博物館を見てくると、やはり奈良の文化財を守るとともに、その価値を訴求することで観光振興につなげる目的を持ったものが多い。奈良公園近くに大規模な博物館が集中している。

一方で、市町村立のものは奈良県内に散在している。これらの施設の観光振興に対する貢献度は大きいものではない。しかし、その土地固有の歴史文化を味わうには魅力ある施設であると思う。もっと多くの方の知るところとなってほしいと思う。

市町村立で考古学に関する展示をする施設の学芸員や教育委員会の職員は奈良文化財研究所や橿原考古学研究所と学術的な交流を行っている。そのことから、いずれの展示も学術的なレベルは相当高く、アップデートも図られているように思う。

県全体での広域連携に、博物館の活用を!

しかし、観光振興という観点では他の機関との連携はそれほど盛んではないようだ。その理由は、市町村は独自の予算を持ち、市民サービスを第一に考えることが優先されるからである。その点から、市町村だけの観光誘致活動になりがちという問題もあるのかも知れない。

これらを例えば「飛鳥時代の天皇と皇族の歴史を辿る」という観光テーマで「飛鳥資料館」「法隆寺大宝蔵院」「斑鳩町立文化財活用センター」を順に巡るといった旅行が提案される仕組みがあれば、博物館の有効活用につながるのではないかと思う。

(これまでの寄稿は、こちらから)

寄稿者 増田充康(ますだ・みちやす) 三重交通GHD 取締役

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