動物についての知識や経験は犬種への固定観念に影響するか【研究結果】

犬種へのイメージや固定観念を違う属性の人々に調査

犬の気質は同じ犬種の中でもいろいろな違いがあり、犬種以外の要因に左右されることが多いという研究結果が多く発表されているにも関わらず、犬種のステレオタイプによって犬の気質を判断してしまう例は後を絶ちません。

人々が特定の犬種に対して、どのよう固定観念をどのくらいの強さで持っているのかを知ることは、啓蒙教育のためにも大切です。

このような固定観念は、犬と関わり合った経験によっても違ってきます。アメリカのノースカロライナ州立大学獣医学部の研究チームは、一般市民、大学生、獣医学部学生、獣医学部教員などを対象にして犬種への固定観念を調査し、どのような違いがあるのかを分析しました。

犬種への信頼性の評価と感情的な温度を質問

この調査への参加者は、一般市民1,020名、ノースカロライナ州立大学の獣医学部以外の学部生361名、ノースカロライナ州立大学およびアメリカ国内の8つの大学の獣医学部学生および教職員834名でした。

一般市民はアマゾンが運営するクラウドソーシングサイトを通じて募集されました。ノースカロライナ州立大学の獣医学部以外の学部生は、動物科学、動物学、生物学を専攻している学生に特化して募集されました。

これらを専攻する学生は動物に対して知識と関心が高く、将来獣医学部に進む割合が最も高い分野であるというのが理由です。

調査のための質問は10種類の純血種(シベリアンハスキー。ラブラドール、ボーダーコリー、ボステンテリア、ジャーマンシェパード、ゴールデンレトリーバー、ジャックラッセルテリア、マルチーズ、ピットブル、チワワ)と6頭のミックス犬の写真を提示して、質問内容について「まったく可能性がない」〜「非常に可能性がある」の5段階で評価するというものでした。

質問内容は、「この犬を幼い子どものいる家庭で飼う」「この犬を家に迎える」「この犬を猫や小動物といっしょに飼う」「この犬を人混みに連れて行く」「この犬を公園に連れて行く」というものでした。

全く同じ犬種と質問内容で2種類の質問票AとBが用意されました。Aでは6頭のミックス犬のうち、最初の3頭についてどのような犬種が含まれるかのDNA検査の結果が円グラフで示され、残り3頭は写真のみでした。

Bの質問票では同じ6頭について最初の3頭は写真のみが提示され、残り3頭についてDNA検査の結果が円グラフで示されました。これは犬種が回答に与える影響を評価するためです。

質問票はもう一種類あり、上記の10犬種に加えて、小型犬、中〜大型犬、純血種、雑種の4つのグループを示し、回答者がその犬種やグループに対して感じる感情的な温度を評価してもらいました。

これは感情温度計と呼ばれ、0から100までの目盛りの中でスライダーを動かして回答します。0から49は特に好意を持っていない冷たい感情、50は温かくも冷たくもない中立的な感情、51から100は好ましい温かい感情を持っていることを意味します。

獣医療のトレーニングや臨床経験が犬への信頼や感情に影響する

回答から分析された結果は、犬種への信頼性、犬種やグループへの感情的な温度、家庭に迎える可能性について、回答者の属性によって違っていました。これは研究者が予想していた通りだったといいます。

ミックス犬のDNAプロフィールについては、回答者の属性による違いはほとんどありませんでした。回答者の属性とは別に研究者の予測では、犬のDNAプロフィールのうち最も割合の高い犬種に似た傾向の評価が出ると考えられたのですが、実際にはそうではありませんでした。

ミックス犬のうち小型プードル50%シーズー50%という犬がいたのですが、この犬は写真だけの場合の方が信頼性評価が高く、DNAプロフィールを見た場合「家に迎える」「子どものいる家庭で飼う」「公園に連れて行く」の項目での信頼性評価が低くなっていました。

ピットブル系のDNAを持つ犬では信頼性評価が低くなると研究者は予測したのですが、ピットブル系50%以上のミックス犬では「猫や小動物のいる家庭で飼う」という項目のみで信頼性評価が低く、その他の項目では他の犬と有意な違いはありませんでした。

犬種への信頼性評価全般では、獣医学部以外の学生および獣医学部学生と一般市民では有意な違いは見られませんでした。ただし学生は一般市民に比べてピットブルとジャーマンシェパードへの信頼性評価が高く、特にピットブルについて顕著でした。

ラブラドールとゴールデンレトリーバーに対する評価も、一般市民よりも高いものでした。反対にチワワとマルチーズについては、学生の評価は低く一般市民の信頼性評価が高くなっていました。

獣医学部学生と教職員では、一般市民や獣医学以外の学生のみに比べると、犬種に関係なく犬への信頼性の評価が全般的に低く、家庭に迎える可能性も低いという結果が示され、また感情的な温度についても、獣医学部学生と教職員は全般的に低い傾向を示しました。

獣医学部学生の中でも、獣医臨床経験のある学生とない学生を比べると、臨床経験のある学生は信頼性評価、感情的な温度、家庭に迎える可能性全てにおいて低いという結果でした。獣医学部教職員は全てにおいてさらに低くなっていました。

獣医学の教育や臨床経験が高くなるほど、犬全般への信頼や感情的な温度が低くなるという結果は、彼らが一般市民よりも多くの犬に触れる機会があり、これらの犬は恐怖や不安の行動を示す可能性が高いことから、理に適っていると考えられます。

これらの結果は、獣医師と一般市民の間で犬への感情や信頼に対する評価が異なることを示しています。この違いが犬のケアに影響を与えるかどうかについては、今後さらに研究が必要だということです。

まとめ

犬種への信頼性や感情的な温度について異なるグループへの調査から、これらの結果はグループによって異なり、獣医療のトレーニングや臨床経験が評価の違いと関連していたという結果をご紹介しました。

獣医療のトレーニングと臨床経験は、ピットブル、ラブラドール、ゴールデンレトリーバーの顕著な例外を除いて、ほとんどの犬種で全体的に低い評価と関連していたことから、知識や経験を持つ集団では犬種への固定観念が無い(あるいは少ない)とも言えます。

《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-40464-3

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