新生チェッカーズ「SCREW」アイドルから大人のバンドへ!真価が問われた勝負作  セルフプロデュース第2弾! 新たなチェッカーズの世界へいざなう鶴久政治の手腕

セルフプロデュース第2弾としてリリースされた「SCREW」

チェッカーズの6枚目のオリジナルアルバム『SCREW』が発売されたのは1988年7月21日。前作アルバム『GO』が、初のセルフプロデュースにより、全曲がメンバーの作詞・作曲による楽曲で固められ、これに続くセルフプロデュース第2弾として約1年3ヶ月のインターバルでリリースされたのが『SCREW』であった。

『GO』が、売野雅勇&芹澤廣明の手を離れ、全曲自作による新たな船出の作品であるなら、その第2弾である本作は、バンドとしての真価が問われる勝負作でもある。収録曲でまず目を惹くのは、鶴久政治の楽曲が11曲中6曲を占めている点だ。

新たなチェッカーズの世界へ聴き手を引き摺り込んでいく鶴久作品

クールなエレクトロポップナンバー「WORLD WAR IIIの報道ミス」、THE WHOにインスパイアされたというビート感に、エキゾチックなメロディーを乗せた「Gipsy Dance」、ミディアムのレゲエ、しかもジャマイカではなくエルヴィス・コステロあたりからの着想と思しき「Rolling My Stone」、そして高杢禎彦がヴォーカルをとるパワーポップ「CRACKER JACKS」と、アタマ4曲はすべて鶴久の作曲で、この前半を聴いただけでも彼のソングライティングの多彩さ、アイディアの豊富さがわかる。冒頭からブリティッシュビートのスピード感をキープしたまま、新たなチェッカーズの世界へ聴き手を引き摺り込んでいく役割を果たしているのだ。

他にも子供のコーラスで始まるワルツから、いきなりハイパーなスカビートに変貌する「愛と夢のFASCIST」では自身がヴォーカルをとり、16作目のシングルとしてリリースされた「Jim&Janeの伝説」では、正調8ビートのロックチューンで藤井郁弥(現:藤井フミヤ)のエモーショナルなヴォーカルを立たせている。このように音楽面では鶴久の様々なアプローチによって、アルバム全体を単調な印象から遠ざけているのだ。

武内享の作曲によるメロウなアコースティックナンバーながらアイリッシュ風のエンディングでフェードアウトする「Good Night」や、藤井尚之作曲の、フォルクローレの香りもする「鳥になった少年の唄」など、他のメンバーの楽曲もそれまでのチェッカーズのイメージを覆す個性の強いナンバーで、バンドとしての新たな方向性をそれぞれが模索しながら、その中心軸を担い、アルバム全体のトーンを決めたのが鶴久のメロディーメーカーとしての多彩さであったことが窺える。

コントでもお馴染みになった「ONE NIGHT GIGOLO」その本質とは?

そのトーンとは、アダルトでセクシー、そしてやや重たい印象。言い換えれば「トッポい」男の生き方と呼べるかもしれない。前作『GO』のジャケットは革ジャンにジーンズ姿で、大人の不良ムードを醸し出したビジュアルは、アマチュア時代に原点回帰したかのようなメンバーの覚悟を感じさせるものであった。しかし『SCREW』のジャケはスーツ姿のメンバーのポートレートで、彼らの音楽の進化と符合している。

シングル曲「ONE NIGHT GIGOLO」のMVではメンバー全員が華麗にスーツを着こなし(郁弥のみベスト姿)、粋な大人の男たちのイメージを打ち出している。この曲の郁弥のヴォーカルが醸し出す色っぽさにはたまらないものがあり、『とんねるずのみなさんのおかげです』のコントでもお馴染みになったこの曲の本質は、アルバム全体を通して聴くとしっかりと伝わってくるのだ。

また、このジャケット写真で興味深いのは、ベースの大土井裕二がモッズスーツを着こなしていること。「ONE NIGHT GIGOLO」のMVに見られる彼のプレイスタイルも、ベースを腰のあたりまで下げたダウンピッキング奏法に移行しており、新生チェッカーズが目指すブリティッシュビートのスタイルに合致したものであった。その意図を強く感じさせるモッズファッションなのではなかろうか。

大人の男女の駆け引きが描かれている藤井郁弥の詞のトーン

さらに、1曲を除きすべての作詞を担当した藤井郁弥の詞のトーンにも変化が見られる。ラブソングでも「NANA」にはまだ残っていた、ダイレクトすぎる求愛、イキったフレーズなどは影を潜め、より大人の男女の駆け引きが描かれている。 特に「鳥になった少年の唄」における哀切極まりないメロディーに乗せた、童話のような温かみと哀しみを感じさせる比喩力の高さは特筆すべき点。詩人としての才能に一層磨きがかかっている。

第三次世界大戦が始まるという誤報に気づかず普通の日常を過ごした男の話「WORLD WAR IIIの報道ミス」ではストーリーテラーとしての才能を発揮。「Gypsy Dance」もコロンビアのノーベル賞作家、ガルシア=マルケスの短編集「エレンディラ」から着想をとったそうで、その一方で「Jim&Janeの伝説」は、紡木たくの大ヒット少女漫画『ホットロード』を読んで詞を書いたと当時、テレビ番組で語っていた。この曲で描かれているのは、大人になった暴走族の回想で、明らかにそれまでのやんちゃなイメージとは異なる。

次なるステップへ歩み出そうとする彼らの矜持を代弁するかのような「Standing on the Rainbow」

そして、アルバムのラストを飾る「Standing on the Rainbow」は、デビューしてから現在までの7人の歩みを歌ったナンバー(11曲目の「Blue Rain」はCDにのみボーナストラックとして収録)。キャリア5年を迎え、次なるステップへ歩み出そうとする彼らの矜持を代弁するかのような内容で、その後、コンサートのアンコールで歌われることが多かった。

1988年はこのアルバムを提げての、夏と冬のコンサートツアーが行われたが、その中盤、8月26日に夏ツアーのファイナル公演として、この年完成した東京ドームでの初公演が開催された。この際の映像を今、見返すと、初期のヒットナンバーをほとんど歌わず、徹底して大人のチェッカーズをイメージしたセットリストになっているものの、郁弥のセクシーな立ち振る舞いやエモーショナルなヴォーカル、メンバーの華やかなダンスや演奏には、特にそこを強調していないにも関わらず、自然とアイドル性の高さが滲み出ている。特にアンコールの「ギザギザハートの子守唄」でのパフォーマンスには、この曲でデビューし、アイドル街道を突き進みながら音楽性を高めていき、ここまで辿り着いたバンドの歴史が集約されているようだった。

この道を歩んできたからこそ生まれたアルバム、それが88年の『SCREW』だったのである。

カタリベ: 馬飼野元宏

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