阪神18年ぶりの優勝、岡田監督が振り返る「アレ」への歩み 「試合をこなしていけば強なると思ったよ」

選手交代を告げる阪神・岡田監督=甲子園

 プロ野球の阪神が18年ぶりにセ・リーグ優勝を果たした。前回優勝した2005年に指揮を執っていた岡田彰布監督が復帰し、巧みな采配で頂点へ。選手が意識しすぎないように優勝を「アレ」と言い換える独特の言い回しも話題となった。虎党に久々の歓喜をもたらした名将にペナントレースを振り返ってもらった。(共同通信=原嶋優、松澤勇人)
 ―阪神監督復帰1年目で優勝。シーズンは長かったですか。
 「途中から早なったな。最初はシーズン長いなと思ったけどな。6月ぐらいからかな」
 ―チーム状況は苦しかった時期では。
 「いやいやそんな苦しないよ、5月に貯金作ったからな。交流戦ちょっと負け越しても全然そんな苦しさないよ」
 ―手応えはいつごろから。
 「5月に思わぬぐらい勝ったから、なんか力付いてきたんかなと思ってたけどな。その後は勝ったり負けたり、5割ぐらいやったやんか、オールスターまでな。それである程度メンバーが絞れたというかな、形になっていくんかないうのはあった。夏のロード(高校野球開催のため長期間甲子園球場を離れる期間)の前に」
 ―昔と違いドーム球場だから夏場も戦いやすい。
 「そらもう全然違うよ。(8月15~20日に屋外球場で組まれた)広島、横浜の6連戦だけ乗り切ったらと思とったもん。あそこ言うたやん3勝3敗でええて。梅野がけがした後やったからな。3勝3敗言ったらほんまに3勝3敗になってもうた。そこを乗り切ったから、その辺からすっといったんやな」
 ―得点力が上がっている。
 「チームの数字はめっちゃ上がってるよな。俺あんまり個人の数字とか気にならへんよ。最後になって、タイトルとかなったら、やっぱり取らせたろと思うけどな」
 ―年頭のインタビューで、オールスター以降チームが強くなると言っていたのが的中しました。
 「去年まで外から見てて、ああした方がええんかなとずっと思とったんやんか。中野ショートではしんどいな~、セカンドやな~とかな。そういうのが中に入ってできるようになったわけやんか。ポジションも全部変えた。未知のチームがスタートしたからな。最初からそんなうまいこといくとは思ってなかった。みんなほとんど初めてのポジションというか、守ったことはあるけど本職のポジションっていう感じではなかったわけやからな。徐々に試合の中でいろんなこと出てくるわけやから、だんだん経験していって、ある程度試合をこなしていけばね、開幕の時よりも強なると思ったよ」

3ランを放った佐藤輝(8)を笑顔で迎える阪神・岡田監督=神宮

 ―中継ぎ陣に桐敷ら新しい人材が出てきました。
 「『JFK』(2005年の優勝の原動力となったウィリアムス、藤川、久保田の救援陣)みたいに突出した者はいてないわ。でも真ん中(の力量)の人数がいてるから、ああいう風に使えるわけやんか。俺はリリーフ陣には負けパターンとか敗戦処理なんて言葉を一切言わへんよ。1軍の戦力として置いているわけやからな」
 ―素直な選手が多くてやりやすかったのでは。
 「やりやすい、やりやすい。新しいことを知ったらものすごく興味を持つよな、今の若い選手」
 ―若い選手と接するときの工夫はありますか。
 「うーん、あんまりきつくは言わんようになったな。柔らかく、納得するように言うようになったかなとは思うけどな」
 ―18年前と比べて監督の表情が豊かになりました。何か変化はありますか。
 「前の方が絶対に勝たなあかん言うのがあったよな。中日、巨人に勝たんと優勝できないいうのもあったし。ずっと3チームがAクラスでな。ほとんど(上位と下位が)分かれとったからな。そういう意味では今回に比べたら、前回の方がきつかったよ。今回はやっぱり未知というかな、18年も優勝してないのに、勝てるとかそんな簡単に考えられんと思うとったけどな」
 ―いろいろな監督を見てきて、監督としてのベースになっているものは何かありますか。
 「それはあるけどな。でもみんな一長一短あるもんな。全部が全部、その人の真似したら勝てるという話もないし。ええとこ取り言うてもな、ええとこなかった人もおるしな。でも、ええとこない人もええんやで。ああいうことやらんかったらええんやからな逆に。そういう発想とかはな、俺考えるの好きやからな」

18年ぶり6度目のセ・リーグ優勝を決め、胴上げされる阪神・岡田監督=甲子園

 ―野球の楽しさは?
 「監督はあんまり楽しいって思えへんけど、周りが喜んでる姿見たら楽しいけどな。勝ってな、喜んでる姿を見るほうが楽しいわ」
 ―よく「普通にやるだけ」と言ってますが「普通」とは。
 「普通っていうか、当たり前のことな、当たり前にするいうこと。これが本当は一番難しいかも分からんけどな。自分の今の力以上のことをやらんでええいうことじゃないかな。ゲームで出す力いうのはな、キャンプとか練習の中で、上げていったらええんやからな。象徴的なのは木浪やな。あいつ力あったんよ。最初、言うたもんな。『おまえ、何しとったん?どこにおったん?』ってな。力あるのに、チームの戦力にならないのはおかしいからな。それを見極めんのもおれらの仕事やと思うよ」
 ―世間でも「アレ」を使う人が増えました。
 「いや、まあ勝っていったら増えるとは思ってたけどな」
 ―理想のチームは現役時代に日本一になった1985年ですか。
 「え、俺そんなん言ってないよ、理想じゃないやろ。あんなチームつくられへんやん。俺は守りの野球やから。85年は打つだけのチームやから。理想やないで」
 ―4番の大山のことはどう見ていますか。成績としては他球団の4番に及ばないところもありますが。
 「違った意味でチームを引っ張ってるんちゃう?数字じゃなしに。選手との信頼関係やろ。選手みんなが認めた4番でないとあかんということや。こっちがあてはめたんじゃなし、選手が認めた4番よな」
 ―打順やポジションを変えましたが、解説者時代に阪神を見ながらイメージしていたことですか。
 「近本は1番やと思ってたよ。見てていなかったのは3番やな。大山は『僕、3番タイプ違います』って自分で言いよったわ。佐藤も3番タイプじゃない。やっぱり4番、5番タイプやな」
 ―佐藤輝は来年変わりそうですか。
 「ちょっと変わってきたかな。8月以降ぐらいかな。自分の数字もちょっとづつ上がってきて、ホームランも出るようになって、ちょっと変わってきたよな。野球をしている姿や。数字じゃなくてな。練習でも見ててみ。ノック終わったら一番先に走塁練習やっとる。前までは、ノック終わったらずっとクーラーのとこにずっとおったのに(笑)。そういう姿をずっと見とるってことや」
 ―就任時に「そんなに長くは…」と言っていましたが、今回の優勝で長くやろうという気持ちはでてきましたか。
 「そういうのないわ。しんどいわ」
 ―来年は…
 「来年はやるわ」

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