匂い<先週の一枚>ANAオープン

群雄割拠(撮影/今井暖)

◇国内男子◇ANAオープンゴルフトーナメント◇札幌GC輪厚コース(北海道)◇7066yd(パー72)◇曇り(観衆3128人)

ギャラリープラザからやってくる美味しそうな匂いに負けた僕は、撮影をひと休みしてプレスルーム(試合を取材する記者やカメラマンが作業をする部屋)に戻った。その部屋の中央にあるモニターには過去のANAオープンの名場面が繰り返し流れている。貫禄の横綱相撲、苦しみを乗り越えた歓喜の涙、腕がちぎれんばかりのガッツポーズ。モニターのスピーカーから聞こえてくる大歓声に何度も箸が止まり、ついには空腹を忘れた。

日本の男子ツアーが女子ツアーの勢いに押され続けてどれくらい経っただろう。この週も愛知・知多半島ではすずなりの人がコースを埋めつくした。そしてそこに響く大歓声が選手、ギャラリー、さらにはメディアをよりヒートアップさせる。いろいろなところでささやかれるプロゴルフトーナメントの男女格差。もう聞き飽きた。

そんな中、少しずつではあるが同世代が世界を目指してしのぎを削り合う真剣勝負が男子ツアーに戻ってきた。日曜午後のリーダーボードの上位には実力者が当然のように名を連ね、賞金ランキングは毎週のように入れ替わる。

僕たちが本当に見たいのは男子の飛距離や技ではなく、「勝ちたい」という人間の熱だ。熱が人を動かし、それを続けることで小さなうねりが生まれる。僕が箸を止めたモニターの映像にはその熱があった。世の中の事象全てに波は存在する。ほんの小さなうねりからいくつもの要因が重なり合って、やがて怖くなるくらいのビッグウエーブを生む。2023年、その匂いは漂い始めた。

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