蚊の活動期?

 9月も下旬、そろそろ秋めく頃だが、今年はその気配にいまだ乏しい。酷暑の夏は人に限らず、小さな命も気息奄々(えんえん)とさせた。小欄で以前、気の毒なクマゼミの話を書いたことがある▲例年は盆過ぎから命が尽きたクマゼミの姿が見られる。猛暑だった5年前の夏は8月に入った途端、その姿が多く見られた。暑さに耐えきれなかったのだろうと、昆虫を長く研究されている読者のお一人に教わり、ここに書いた▲暑気を好むとばかり思っていたが、酷暑となれば別らしい。同じように小さな命…といっても人に好かれることはまずないが、蚊もまた、今夏の暑気ですっかり弱ったという▲暑すぎると蚊の活動は鈍り、人を刺すこともあまりない。不活発のまま夏は過ぎたが、今年はこれから活動期に入る可能性があるらしい。暑さが去り、秋雨で水たまりが多くなり、幼虫が増える…。うれしくない「繁殖のシナリオ」ではある▲詩人まど・みちおさんに「蚊」という一編がある。〈蚊も亦(また)さびしいのだ/螫(さ)しもなんにもせんで/眉毛などのある面(かお)を/しずかに触りに来るのがある〉。元気のない、晩夏や初秋の蚊だろうか▲今秋の蚊はむしろ活発で〈螫しもなんにもせんで〉とはいかないかもしれない。おとなしく、寂しい様子の蚊を見つけるとすれば、まだ先だろう。(徹)

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