ロケット全体の再使用を目指す米企業が2段目プロトタイプの飛行試験に成功

アメリカの民間宇宙企業ストーク・スペース(Stoke Space)は、同社が開発を進めている再使用型ロケットのプロトタイプによる飛行試験をワシントン州モーゼスレイクの同社試験場で現地時間2023年9月17日に実施し、成功したと発表しました。【2023年9月19日10時】

【▲ ストーク・スペースが開発中のロケット2段目プロトタイプによるHopper 2試験の様子(Credit: Stoke Space)】

地上から宇宙へとペイロード(人工衛星などの搭載物)を打ち上げるために使われるロケットは、アメリカ航空宇宙局(NASA)が運用していたスペースシャトルのオービターおよび固体燃料ロケットブースターのような一部を除いて、これまで使い捨てられることの多いシステムでした。

近年ではスペースXの「ファルコン9」ロケットで1段目(ファルコンヘビーのブースターを含む)とフェアリング(打ち上げ時にペイロードを保護するロケット先端の部品)の再使用が実現していますが、ペイロードを軌道に投入する2段目は使い捨てられており、ロケット全体の再使用には至っていません。同社の再使用型宇宙船「スターシップ」および再使用型ロケット「スーパーヘビー」では全段の再使用が実現するとされているものの、まだ1回目の飛行試験が行われた段階です。

【▲ ストーク・スペースが開発中の2段式ロケット。同社ウェブサイトから引用(Credit: Stoke Space)】

ワシントン州に本社を置くストーク・スペースは、100パーセント完全再使用かつ24時間以内の再飛行対応を目指す2段式ロケットの開発を進めています。1段目には推進剤にLNG(液化天然ガス)と液体酸素を採用した7基のエンジンが、2段目には推進剤に液体水素と液体酸素を採用したエンジン(後述)が搭載されます。

【▲ ストーク・スペースによる同社のイメージ動画(開発中のロケットによる打ち上げのイメージ映像あり)】

「Hopper 2」と呼ばれる今回の試験では、1段目ではなく2段目のプロトタイプによる短時間のホップ(跳躍)飛行が実施されました。同社によると、試験機は高度30フィート(約9m)まで上昇し、15秒後に計画通りの場所へ着陸することに成功しています。ストーク・スペースは2023年に入ってから2段目に関連した地上試験を何度か実施しており、今回の飛行試験は一連の技術実証プログラムの締め括りとなりました。

【▲ ストーク・スペースが開発中のロケット2段目プロトタイプによるHopper 2試験の様子(動画)(Credit: Stoke Space)】

ペイロードを軌道に投入するロケットの上段はそのものが人工衛星とも言えるもので、地上へ帰還させて再使用するためには大気圏再突入時の熱に耐えなければなりません。そこで、ストーク・スペースはロケット2段目の下端、一般的にはエンジンが配置されている部分にドーム状の金属製耐熱シールドを設け、その周囲に小さな30基(プロトタイプでは15基)の燃焼室およびノズルを配置する設計を採用しています。

【▲ ストーク・スペースが開発中のロケット2段目プロトタイプによるエンジン燃焼試験の様子(Credit: Stoke Space)】

耐熱シールドは2段目ロケットエンジンのエキスパンダーブリードサイクル(※)に組み込まれていて、再突入中は燃焼室やノズルと一緒に極低温の液体水素によって冷却されます。言い換えれば、2段目に搭載されているのはロケットエンジンと耐熱シールドが一体となった推進・耐熱システムということになります。

※…燃料の液体水素でエンジンの燃焼室やノズルを冷却し、加熱されガス化した水素の一部でエンジンのターボポンプを駆動する仕組み。日本の「H-II」ロケット2段目のエンジン「LE-5A」で初めて実用化されました。

また、多くのロケットエンジンではノズルを動かして推力方向を制御しますが、ストーク・スペースのロケット2段目ではノズルが固定されているため、推力方向は各ノズルの推力を個別に増減させることで制御されます。15基のノズルの推力を細かく調整することで、向きを変更できる1基のノズルを搭載しているのと同じ効果を得ようというわけです。

【▲ Stoke Space公式Xアカウントによる推力方向制御の解説動画。15基のノズルの推力を調整することで1基のノズルの向きを変えるのと同じ効果を得る】

今回の飛行試験成功は、ストーク・スペースにとって再使用型ロケットの実用化に向けた大きな一歩となりました。同社はHopper 2の成功を報告した9月17日付の声明において、一連の技術実証について計画された目標がすべて無事に完了し、信じられない量のデータが得られたと述べています。

海外メディアのSpaceNewsによると、ストーク・スペースのCEOを務めるAndy Lapsa氏は本格的な軌道打ち上げ用ロケットの開発について、内部では2025年を目標としているとコメントしています。早ければあと数年で、完全再使用型のロケットが登場するかもしれません。

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文/sorae編集部

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