乗るだけで違法!? 「電動アシスト自転車」で迂闊に “法令違反”しないための基礎知識

秋の交通安全運動(9月21日から10日間)がスタートする。自転車の危険性を改めて認識し、法令順守することが事故の予防につながる

普及が進む電動アシスト自転車。その割合は自転車全体の10台に1台以上を占める(『2021年度 ⾃転⾞保有並びに使⽤実態に関する調査報告書』自転車産業振興協会)。坂道を苦も無く登れる動力アシストの快適さが利用者増の大きな要因だ。一方で、大きな事故につながるケースも増えている。加えて、電動アシスト自転車には、“購入前”から違法リスクもがあるということは意外と知られていない…。

購入前に存在する電動アシスト自転車のリスク

快適な移動手段として電動アシスト自転車の購入を検討しているなら、まず知っておくべきは、市場に違法なものが紛れ込んでいるという事実だ。

国民生活センターは、これまでに違法が疑われた電動アシスト自転車から2銘柄をピックアップしてテスト。その結果、どちらもアシスト比率が道路交通法の定める基準を大きく超え、事故につながるリスクがあると判定し、2023年4月に公表している。

気に入って購入した電動アシスト自転車が、実は違法なものだった…。知らなかったとしても、駆動補助機付自転車の基準を満たしていなければ、道路交通法上は自転車でなく原動機付き自転車(原付バイク)に該当することになる。しかも、こうしたケースでは道路運送車両法における「道路運送車両」の保安基準に不適合のため、道路の通行が許されない。

違法と合法のボーダーラインは「アシスト比率」

違法か否かーー。ボーダーラインとなるのは、道路交通法施行規則(第1条の3)で定められている「アシスト比率」だ。電動アシスト自転車はその名の通り、自走をアシストするために動力がある。自力ならつらい坂道も、補助動力のアシストにより快適にペダリングできるため、主に子どもの送り迎え用途などで子育てにママ層に支持され、浸透してきた。

電動アシスト付きとはいえ、自転車なので動力はあくまで“補助”。人力による走行がメインであり、補助動力がそれを超えてはいけない。だからこそ、漕ぐ力とアシスト比率が法律で厳格に定められている。

最大でも漕ぐ力に対しアシスト比率が1:2

時速10キロまではアシスト比率が最大で、漕ぐ力に対して1:2。時速10キロを超えるとスピードが出過ぎないようアシストを制限していき、時速24キロを超えるとアシストは0になる。漕ぎ出しのつらい初動で運転者の負荷をアシストし、加速に反比例して補助を減退。それによって、安全で快適なペダリングを実現するわけだ。

この比率が守られていないと、自走ではなく動力による走行となるため、運転者は罰則対象に。何気なく電動アシスト自転車を購入し、「快適だ」と重宝していても、アシスト比率が過剰なら、道路交通法に違反することになる。

違法電動アシスト自転車の見分け方

ではどのように自分の自転車が違法かを見極めればいいのか。国民生活センターは次のように助言している。

  • 同センターが把握している違法自転車のリストを参照する
  • 急発進しないかチェックする
  • 電動モーターだけで進むかを確認する

個人では厳密な計測は難しく、感覚的な部分があるものの、乗車して自走の快適さを超えるアシストを感じたり、そもそもペダリングしていないのに前進したりするようなら、「快適だ」と身をゆだねる前に、まずは「おかしいかも」と疑う姿勢が肝要だ。

違法電動アシスト自転車を購入してしまった場合の法的責任は?

多数の交通事故の対応実績がある伊藤雄亮弁護士は、電動アシスト自転車に乗車する上でのリスクについて次のように指摘する。

「アシスト比率が法定を超える電動アシスト自転車に乗車していれば、乗車していた者は当然罰則対象になります。ただし、購入時点で違法かどうか知らなかったとなれば、その証明は難しく、その点で争うのは困難かもしれません」。

一方で伊藤弁護士は、該当の電動アシスト自転車が、時速30キロを超える走力があった場合、法令上原付バイクとしての扱いになり、「事故を起こせば過失割合は原付同様になる可能性は十分にあります。『知らなかった』で押し通すにしてもそれだけのリスクがあることを重々認識しておく必要はあります」と警鐘を鳴らす。

メーカーに責任は問えるのか

では、違法だと知らなかったのが事実だとして、メーカー側に責任を問うことは可能なのか。この点については、「法令違反の電動アシスト自転車に乗っていたことに対する罰則を運転者が受けることになったとしても、別で何らかの手段でメーカーと争うことは理屈上は可能かもしれません。ただし、今のところ参考になるような前例を見つけることも難しいので、確実ではないということに注意が必要です」と伊藤弁護士は補足する。

そのうえで、「自転車による事故でも負わせたケガの重さによっては賠償額が億単位になるケースもあります。自転車といえど、それだけ危険な乗り物であるということ。ましてや電動アシストがついているわけですから、しっかりとそのリスクを自覚し、責任をもって乗車する。そうしないと代償は大きいことを認識することが大切です」(伊藤弁護士)と注意喚起した。

誕生から30年。出荷台数は年々増加しており、自転車市場を牽引する存在となっている電動アシスト自転車。だからこそ、自転車より快適、原付より安全という感覚は一旦リセットし、快適、でも自転車よりリスクがある乗り物だ。そうした認識で、乗車時は常に細心の注意を払うことが、来るべき”電動アシスト自転車標準社会”を見据えても、事故を起こさず、巻き込まれないためにもより重要になっていきそうだ。

© 弁護士JP株式会社