金正恩、犯罪が手に負えず「公開処刑」乱発…市民は効果を疑問視

最近になって、北朝鮮から公開処刑の情報が相次いで伝えられている。

両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)では、大量の牛を盗んで売り払ったとして、9人が、多くの市民が見守る中で処刑された。厳しい経済状況から各地で強盗・窃盗などの犯罪が相次いでおり、見せしめにすることによって犯罪を抑制しようという「さらし首」にも通じる、前近代的な法感情に基づいたやり方で対処している。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)清津(チョンジン)でも、5人が公開処刑されたと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えている。これほど公開処刑が続くのは、金正恩総書記を含む最高レベルが、何らかの「対処方針」を示した可能性が高い。

情報筋によると、今年5月に清津市の羅南(ラナム)区域で、食うに困って人を強盗殺人を働き、200万北朝鮮ウォン(約3万4000円)を奪って逃走した2人がまず処刑された。犯行の様子がマンション周辺に設置されていた監視カメラに捉えられていたのだ。

この監視カメラ、普段は停電のためにまともに作動していなかったが、ちょうど犯行時刻に限って電気が供給され、作動していたのだという。

咸鏡北道安全局(県警本部)捜査課は、この2人が他の殺人事件の容疑者であると見て大々的な捜査を行った結果、4月末にも、バラバラ殺人を起こしていたことが明らかになった。

さらに、処刑された別の1人は、電線を盗んで売ろうと思いある人を訪ねたが、断られたため、殺害したという。情報筋によると、電線の窃盗は昔から深刻な犯罪だったが、今回はそれに加えて殺人を犯したために処刑されたと説明した。なお、同時に処刑された残る2人の容疑について、情報筋は言及していない。

情報筋によると、市内では今年に入ってから月に1〜2回のペースで強盗殺人など凶悪犯罪が発生している。かつては年3回ほどだったことを考えると激増といってもいいだろう。

それも単純な物取りではなく、殺人に及ぶのが従来との違いだ。中には、容疑者検挙に至っていないケースもあり、市民の不安が増幅しているということだ。市民の間では、こんな話がされているという。

「家に強盗が押し入ってきても追い出そうとせず、彼らが要求するものを素直に出して命乞いしなければならない」

そんな状況を意識してか、当局は公開処刑に踏み切ったと思われるが、市民は口々に「銃声を鳴らしたところで、犯罪が減るのか」と懐疑的に見ているという。いずれもカネ目当て、食べ物欲しさに犯行であることから、食糧問題が解決しなければ、いくら公開処刑をしたところで犯罪は絶えないだろうと、情報筋は語った。

北東部最大都市の清津は、水南(スナム)市場という、全国有数の巨大市場を擁している。中国から輸入、密輸入された品物や、周辺各地から入荷した品物が、この市場を通じて全国に出荷されている。

ところが、2020年1月にコロナ対策として国境が閉鎖され、中国から品物が入ってこなくなった。野菜を栽培する土地のある農村部や小都市とは異なり、清津にはかなり郊外に行かなければそんな土地がないため、食糧難がより深刻なものになっていると伝えられている。

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