【櫻井海音】“自己肯定感”を持てるようになったきっかけ【ドラマ『アオハライド』インタビュー】

撮影/稲澤朝博

出口夏希、櫻井海音がW 主演を務める連続ドラマW-30『アオハライド Season1』が9月22日(金)よりWOWOWにて放送・配信スタート。咲坂伊緒による大ヒット漫画を原作にSeason1、2の2部作で描く。

中学時代の同級生の双葉(出口)と洸(櫻井)は、お互いに淡い恋心を抱きながらも突然の洸の転校で離ればなれに。そんな中、高校生になった双葉の前に、名字が田中から馬渕に変わった洸が現れる。思い出の優しかった洸とは別人のようにぶっきらぼうな態度に戸惑いながらも、双葉は距離を縮めようする――そんな二人を中心に繰り広げられる青春ラブストーリーだ。

さまざまなつらい経験をし、“誰にも理解されない”という気持ちを抱えながらも、双葉や仲間たちの存在により徐々に変わっていく洸を演じた櫻井は、どのように本作と向き合ったのか。現場でのエピソードを交えながら、その想いを語ってくれた。

【櫻井海音】連続ドラマW-30『アオハライド Season1』インタビュー&場面写真

原作を教科書のように何度も読んだ

撮影/稲澤朝博

――『アオハライド』という作品にはどんなイメージがありましたか。

僕が中学生くらいのときに原作漫画やアニメがすごく流行っていて、当時、僕は読んではいなかったのですが、大人気で多くのファンに支持されている作品なんだという認知はしていました。

今回、そんな作品の実写化にお声掛けをいただいて、プレッシャーもありますし、どうしたら原作ファンの方々を裏切らない表現ができるだろうかと考えました。

それと同時に、同世代のキャストで、WOWOWで連続ドラマとして制作されることにはワクワクしましたし、好奇心が湧きました。あの原作のキラキラした世界をどうやって実写化しようかなと。

撮影/稲澤朝博

――出演が決まってから原作は読みましたか。

もう何回読んだかわからないくらい読み倒しています(笑)。全巻、漫画本は買って家に置いてあって、電子書籍もダウンロードして、現場ではそれを教科書代わりにしていました。

撮影の前にそのシーンの原作の場面を確認して、洸がどういう動きをしているのか、どんな姿勢でいるのか、ポケットに手を入れているのか、いないのかとか、読み取れるものはできるだけ読み取って表現したので、本当に何回も読みました。

――先ほど「キラキラした世界」ともおっしゃっていましたが、やはり「キラキラ」という印象は強かったですか。

学生時代、僕はあまり少女漫画を読んだことがなくて、俳優のお仕事をするようになってから原作ものを演じさせていただくなかで、「こういう世界もあるんだ」と知ったので、もっと早くに出会えていたら、もっと楽しかっただろうなと思いました。

大人になって、22歳という年齢になってから読んでも、あんなふうにキラキラした世界を見てドキドキ、ワクワクできるのは、少女漫画の魅力だなと思います。

――洸をどんな人だと思って演じていましたか。

洸にはいろいろな背景があって、そのなかで背負ってしまった翳りのようなものを抱えていて、それを双葉や仲間たちと触れ合うことで乗り越えていく人なんですけど、その塩梅というか。

物語の中で何回も浮き沈みがあって、「いやいや、さっきまで元気だったじゃん」みたいに、いきなり沈むこともあるので、その感情の起伏みたいなところは、演じる中で自分の中でも整理をつけなければいけないところでした。

監督やスタッフの皆さんと話し合いをしながら「ここはもう少し明るくしたほうがいいですか?」「もう少し暗いほうがいいですか?」など、ニュアンスを確認しながら作り上げました。

あとは先ほども言いましたけど、本当に原作を何回も何回も読み返したので、僕の頭の中に洸のイメージ像が出来上がっていて、それを自分という身体を通してどう表現していくかという演じ方でした。

兼近大樹(EXIT)との共演シーンが「一番好きでした」

撮影/稲澤朝博

――演じていて印象に残ったシーンは?

ここではたぶんキラキラしたシーンを言うことが正解だと思うし、とても魅力的なんですけど(笑)、僕が洸を演じたなかでは、やっぱり洸が抱えている過去の部分が大きくて。

洸の兄の田中陽一役を演じた兼近(大樹/EXIT)さんと夕食にカレーを食べるシーンが一番好きでした。今でも撮影風景を思い出せるくらい。撮影の前日から台本を読んでいるだけで涙が出ていました。

特に、陽一が洸に向かって「俺らのお母さん、そんなに心の狭い人じゃなかったよ」と頭をポンポンと叩きながら言う言葉で、これまでの洸が全て救われた気がして。このシーンの前に、お母さんが病気で亡くなってしまうところも撮り終えていたので、そういう場面もフラッシュバックしました。

原作でもドラマの中でも具体的には描かれていないお母さんとの思い出が、その一言で浮かび上がってくるような感覚もあって、本番前の段取りの段階から必死で涙を堪えていました。

頭をポンポンしてくれた兼近さんの手が本当に温かくて、普段は面白いんですけど、何かパワーのようなものも感じました。

――制服を着ての学校での撮影は、青春時代に戻ったような感覚もありましたか。

僕、自分の学生時代は私服の学校だったので制服を一度も着たことがなかったんです。制服は作品の撮影でしか着たことがなくて、だから未だに制服姿が見慣れず、自分では似合わないと思っている節はあります(笑)。実年齢より上に見られることも多いので、いつまで制服が着れる役ができるのか、着れるうちに着ておきたいです。

ただ単純に学校で撮影をして、学生生活を演じているので、「やっぱり学生っていいな」と思う瞬間は多々ありました。

――学生役を演じるうえで心がけたことは?

まずはこの『アオハライド』という作品が持っているキャラクターの魅力を最大限に引き出すために、ビジュアル面はしっかり作り上げていきました。

髪型だったらパーマのかけ具合とか、耳元にエクステを付けて少し長めにするとか。いつもお世話になっているヘアメイクさんと、現場のヘアメイクさんと細かく話し合いながら、そこに監督も入っていただいて「これならいけるね」というジャッジをしていただきました。

ただ心情に関しては学生の頃の気持ちってもう思い出せないくらいの、尊いものだったなと感じるんです。お芝居をしていて不意に思い出すこともありましたけど、当時の気持ちをすべて持ってくることはできないので、うらやましいと感じる気持ちのほうが強かったと思います。

現場はすごくにぎやかで、楽しくて、現場自体が「青春」みたいな感じでした。撮休の日が本当に嫌で、撮休の日に現場にいる夢をみるぐらい(笑)。それも共演者さんだけでなく、スタッフさんも皆さん出てきて。

温かい雰囲気なのですが、ちゃんとやるときはやるというメリハリもあって、すごくいいチームでした。こんなにいいチームはなかなかないと思います。本当にこの現場が大好きでした。

現場で裏方の仕事を体験「勘違いしがちだけど当たり前ではない」

撮影/稲澤朝博

――撮影中、楽しかったことは?

もう現場にいることが楽しかったです。自分の出番がないときもずっと現場にいました(笑)。自分の撮影は昼ぐらいからでも、朝一のシーンから現場に行っていることもありました。

すごくうれしかったし、ありがたかったことなのですが、自分が出ないシーンのときは現場のお仕事を体験させていただいて。カチンコを打たせてもらったり、いわゆる裏方としての、荷物を運んだり、一般の方々の誘導をしたりもさせてもらいました。

なかなかそんなことをやらせていただける現場はないので、僕にとってはとても大事な経験になりました。

普段、僕は演者として現場にいるので、お水やお弁当も出てくるし、メイクもしてもらえるし、時間になったら呼びにきてもらえて、行ったら撮影が始まる。けどこれって勘違いしがちだけど当たり前ではなくて。

その裏で地道に準備をしてくださっている方たちがいるからこそというのが、いろいろなお仕事を経験させていただくなかで知ることができました。本当の意味で“一緒に作品を作っている”ということがわかったような気がしました。

だから演者以外の人たちの気持ちも知ったうえで現場に居られるようになったのは、大きな収穫だったと感じます。皆さんにとっては本当にご迷惑だったかもしれないですけど(苦笑)、「ありがとうございます!」という感謝の気持ちです。

撮影/稲澤朝博

――もともと裏方の仕事には興味があったのですか。

ありました。でもいざやってみると本当に大変で、簡単なことではないなと。例えば、助監督にも、フォース、サード、セカンド、チーフとあって、それぞれにいろんな役割があるんですけど、それを全うするもの大変だし、それが繋がって一つの作品になるんだと感じました。

どの仕事をやらせていただいても、皆さんが同じ方向を向いてくださっていることが感じられて、だからこそすごく温かい現場で、僕は好きでした。

――この仕事をやってみたいと思うようなものはありましたか。

いろいろ体験させてもらいましたけど、さすがに監督の仕事はできなかったので、それはいつかやってみたいなと。自分で脚本も書いて、監督もできたらすごく面白いだろうなとは感じました。

自分を閉じ込めるのは簡単だけど、開いていくことが大事

撮影/稲澤朝博

――洸は「誰にも理解されない」という気持ちを抱えている人ですが、その辺りはどのようにアプローチしていきましたか。

洸は抱えているものが大き過ぎますよね。僕はなるべくそんな洸の気持ちを理解しようとしましたけど、客観的に見るとめんどくさいと思われるところもあるんだろうなって。

ちょっとかまってちゃんの部分や、情けない部分もあって、ただそれがまた洸の魅力であることは間違いないので、そこをどうやったら自分の中に落とし込んで表現できるかは考えました。決してくどい感じにはならずに、嫌な感じ映ることもなく、愛らしさ、かわいらしさに変えられるように。

そこは原作から魅力としてある部分だとも思ったので、監督やスタッフの皆さんと話し合いを重ねながら、どうやったら引き出せるかは意識しました。

撮影/稲澤朝博

――「誰にも理解されない」という気持ちには共感できましたか。

誰も理解してくれないだろうと決めつけて、自分を閉じ込めるのは簡単だけど、僕はそこを開いていくことが大事だと思うんです。きっかけはどんなことでもいいんです。洸の場合は、それが双葉であり、村尾(志田彩良)であり、槙田(莉子)であり、小湊(新原泰佑)という仲間たちとの関わりで。

そういうなかで「理解されない」と思っていた気持ちをオープンにしていく、その人の人間味みたいなものが出てくるのが、この『アオハライド』の魅力の一つだと思います。

正直、僕も「誰からも理解されないだろう」と思っていた時期はありました。けど、ちょっと視点を変えてみると、何でもないことだったりもするんですよね。広い視野を持つことは大切だなと思います。

――櫻井さんにも何か変われたきっかけがあったのでしょうか。

単純に大人になったというのもありますし、自己肯定感を持てるようになったというのもあると思います。何かに自信を持つことができたり、誰かに愛されていることを自覚できたりすることがつながっていくのかなと思います。

だから洸は双葉に愛されて、仲間に愛されて、少しずつ弱かった自分を認めてもいいという自己肯定感のようなものが生まれたのかと。そうやって成長していけたから、いい方向に進んでいけたんじゃないかと、僕は思います。

好きだと思う人物に対しては素直に好きという気持ちを伝えます

撮影/稲澤朝博

――洸と双葉の恋模様にはどんな印象を持ちましたか。

いや~もうじれったいなと(笑)。洸みたいな人がいたら「行けよ」って言いたくなっちゃいますね。でも僕には洸が背負っているようなものはないわけで、そこは難しいところではありますけど、一個人としては「もっとストレートに、正直になれよ」とは思います。

――櫻井さん自身は自分の想いをストレートに伝えられるタイプですか。

わりとそうです。というか、ダメなんです。顔に出ちゃうんです(笑)。嘘がつけなくて嫌なときは表情に出てしまうし、好きなときは楽しそうにしていると思います。それに好きだと思う人物に対しては素直に好きという気持ちを伝えます。そのあとどうなるかわかりませんけど(笑)。

――例えば、お仕事の現場で仲良くしたいと思う人がいたらどうしますか。

わりと自分から声をかけます。若干、人見知りなところがあるので、最初の頃は苦労もしたのですが、人見知りを克服する方法がありまして(笑)。

全然話が変わってしまうのですが、一人で居酒屋に行って店の方に話しかけてコミュニケーションを取るということを、お酒が飲めるようになってから1年間ぐらい続けていたら人見知りをしなくなりました。

ドラマや映画の撮影の現場だと、共演者の方やスタッフさんと距離感を見つつもお互いを知っていくスピードが早くないと、撮影期間ってあっという間に終わってしまうので。でも連続ドラマの現場とかだと、1ヶ月ぐらい様子見しちゃうかも(笑)。

共演者の方によく言われるのですが、「最初は怖い人かと思ってた」とかって思われがちなんです。いきなり距離を縮めるようなことをして「何だこいつ?」って思われたくはないじゃないですか。だから何となく皆さんの人間性を遠目から見て確認して、ある程度わかったところで自分からいけるようになるので。常にいろんなところを見ています。

――でも、居酒屋ではそんなに時間をかけられないですよね。

そこは行けるんです(笑)。お酒の力もあるかもしれないんですけど、仕事か、そうではないかは大きいと思います。現場での見られ方は気になるので、そこはやはり慎重になってしまいます。

撮影/稲澤朝博

――洸と双葉の間には“匂い”が一つのアイテムのような描かれ方をしていますが、櫻井さんにも「この匂いをかぐと〇〇を思い出す」と言ったような“匂い”はありますか。

僕も匂いでいろんな記憶がフラッシュバックすることは多いです。例えば、春の匂いとか、冬の匂いとかってあるじゃないですか。そういう匂いをかぐと、去年のその季節を思い出すとかはよくあります。

あとこれは双葉というか、出口さんとのやり取りというか。僕が使っているDIORのソヴァージュという香水があるのですが、よく周りの方からも「いいにおい」と言っていただけて(笑)、それを、それこそ双葉が洸の髪の毛の匂いをかぐというシーンでも付けていて。

それで今日もそれを付けていたら、出口さんから「あのときの撮影を思い出した」と言われました。出口さんのなかの洸の匂いがその香水のにおいになっているんだなと思いました(笑)。

それからリフレッシュするときとかにお香を使います。お仕事で関わらせていただいたこともあっていただくこともあるのですが、香りをアイテムとして使うことはわりとありますね。

ヘアメイク/高草木剛[VANITÉS] スタイリング/藤井晶子


演じた洸は少々ぶっきらぼうなところがあるキャラクターでしたが、インタビュー中の櫻井さんはとても丁寧に、笑顔でさまざまな質問に答えてくださいました。

原作が大ヒット作だけにプレッシャーもあったとおっしゃっていた櫻井さんですが、お話からもわかるようにとても真摯に洸という人物に向き合っていて、画面の中にいる櫻井さんは洸そのものでした。1話ごとに変化していく洸の心境を感じながら、初の連続ドラマ化となる『アオハライド』をお楽しみください。

作品紹介

連続ドラマW-30『アオハライド Season1』(全8話)
2023年9月22日より 毎週金曜 午後11:00WOWOWで放送
WOWOWオンデマンドでは、第1話放送終了後に全8話を一挙配
TVerでは最新話を見逃し配信

(Medery./ 瀧本 幸恵)

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