Limited Express (has gone?) - YUKARIと谷ぐち順が語る、それぞれの場所でそれぞれの楽しみ方ができるライブとライブハウスの在り方

*Limited Express (has gone?) 最新作『Tell Your Story』についてのインタビューはこちら。

自由で、自分を解放できる場所、それがライブハウス

──この前、X(旧Twitter)で、ライブでのモッシュやダイブについてちょっとした意見の言い合いがあったじゃないですか。それぞれが自分の考えを発信するのはとてもいいことだなと思ったんですよ。

谷ぐち:僕はね、そうは思わなかった。モッシュやダイブって、現場で衝動的に起こる現象の最たるものだと思うんですよ。それをSNS上で議論したところで、答えが出るとは思えない。

──うん。ライブの楽しみ方も考え方も違って当たり前で、答えが出ないからこそ、それぞれが思うことを発信するのはいいことだなって思ったんだよね。

YUKARI:でもそれだと分断だけになるかもしれないですよ。

谷ぐち:たとえば、めちゃくちゃなパフォーマンスをするバンドがSNS上で叩かれる。マウント取りたい人がひしめき合ってるから、「楽器を大切にしない奴は音楽をやる資格はない。やめちまえ!」みたいな意見がたくさん出てくる。ジミヘンにギター燃やすな! っていう人と議論なんてできないでしょ?(笑)

──確かにSNS上だけだと、ライブに行こうとしてる人が「このバンドはモッシュあるから行かない」、逆に「モッシュやっちゃダメっぽいから行かない」ってなったらこれほどつまらないことはないですね。「モッシュをやる/やらない」は前もって決めることではないし。

谷ぐち:自分なんかはステージ上で感情をむき出しにして演奏している。見た目にはそう見えないかもしれないけど、大暴れしてるんですよ。そして、その場にいる人もそれを受け取って大暴れする。表現の仕方は人それぞれだから、隅のほうでメラメラと燃えている人もいれば、前のほうで全身を使ってモッシュしている人もいる。自由で、自分を解放できる場所、物理的な意味だけではなく大暴れできる場所、それがライブハウスだと思っています。

写真:小野由希子

写真:小野由希子

──うん。でも私は、繰り返すけどSNSでもなんでも、それぞれがライブの在り方を発信するのはいいことだと思うんだよね。

YUKARI:そこはバンドのスタイルとかにもよるかもしれない。わたしの場合、わざわざ宣言したりすると一気にカッコ悪くなっちゃいそうでやりたくないなぁ。

──じゃ、ここで聞きますが、谷さん、YUKARIちゃん、それぞれはモッシュやダイブについて思うことは?

YUKARI:モッシュが危険かどうかって話なら、危険じゃないものをみんなで作っていけると思うんですよ。ま、ケガはしちゃうだろうけど。でもモッシュが起きて、なんか危なくなりそうならお客さん同士でガードし合ったりするし。少しでもケガをすること自体が危険だと言われちゃったら、もうどうしようもないんですけどね。そうだとしたら、わたしもうパフォーマンスできないや。フロアに突っ込んでいくし、高い所には上るし。でも一応それだってめちゃくちゃやってるわけでもないんだよね。無茶しないもん。

谷ぐち:モッシュといえば、昔、こんなことがあった。今でこそ珍しくないんだけど、クラブイベントにハードコアバンド、ニューキーパイクスとかが呼ばれるようになった時期があって。

──90年代初頭から半ば頃かな。

谷ぐち:そう。そこでよく揉め事が起きてたんですよ。文化の違いだと思うんですけど、モッシュピットに入ると痛いんですよ。ケンカっぽくなることも多々あって。だけど、よっぽど危険でない限り、人の暴れ方にとやかく言うのは違うじゃないですか。できれば尊重したい。そうしたら、ある日のライブで、最前列はわりと暴力的なモッシュピット、その後方でサークルモッシュが始まったんです。それに感動したのを覚えています。たったそれだけのことで共存できる、ケンカが起きなくて済むじゃん、って。

YUKARI:そういうことでいいと思うんだよね。

モッシュは男性だけの特権じゃない、女性でも華奢な人でも暴れたい人はいる

──最前列では暴れてて、後ろではサークルモッシュ。それぞれがそれぞれの楽しみ方で。

谷ぐち:そうそう。それぞれの場所でそれぞれの楽しみ方。狭いライブハウスでは難しいかもしれないけど。

──うんうん。でもバンドがひと言、こう、「そこ危ない」とか言ってくれれば……。

YUKARI:うちらぐらいの規模なら、バンドにちゃんとしたアティチュードや信念があったら、お客さんに伝わると思うんですよ。

──たとえば海外のフェミニストのパンクバンドで、ライブ始まる前に、女の子は前に来るようにアナウンスするバンドもいる。そういうふうにライブのやり方をその場でアナウンスするのはいいことですよね?

谷ぐち:いいと思いますよ。そういえば、FUGAZIの初来日を観に行ったとき、ライブ前に通訳をつけてアナウンスしていました。「お客さんがステージに上がるとシールドを抜いたり、マイクスタンドにぶつかって下手したら歯が折れたりするから危ない。やめてくれ」って、最低限のことを言っていただけ。「モッシュするな」とは言っていなかった。

YUKARI:そうそう。モッシュと暴力は違う。

谷ぐち:あれだけ暴力的な表現なのにケンカにならない。なりそうにはなるけど、みんなで止める。誰かが倒れたら、みんなで起こす。ダイビングは受け止めて、安全に着地させる。これこそがモッシュの醍醐味、素晴らしいところ。

写真:HBK!

写真:HBK!

YUKARI:でもね、自分がお客さんとしてぎゅうぎゅうのフロアにいるとき、もしかしたら痴漢に遇うかもって思ったりはしてる。夜道でつけられてないか気になるっていうのと同じレベルで。そんな思いをしてる人はたくさんいる。ただ、演者としての自分が痴漢に遇うとは思ってなかったんですよ。こういうことがあるんだって、頭ではわかってはいたけど、どこか他人事だったっていうか、見えてなかったっていうか…。

【註】2015年10月、京都METROで行なわれた『ボロフェスタスタ』で、Limited Express (has gone?) のライブ終了間際、YUKARIは痴漢の被害に遭う。後にYUKARIは痴漢撲滅ステッカーを制作。当時のブログ:ニーハオ!ジャーナル『【宣言】YUKARI』はこちら。

──それ以降、YUKARIちゃんは変化していったと思うけど…。

YUKARI:自分にあんなことがあって、お客さんや、若いミュージシャンたちには同じ目に遭ってほしくないってめっちゃ思った、今ももちろん思ってます。だからライブやりながらフロアは凄い見てて。なんかあったらライブ止めようって心に決めてる。わたしはモッシュより、痴漢のことを一番気にしていて……。

──モッシュが悪いんじゃなく、悪いのは痴漢であり暴力だし。YUKARIちゃんのツイート、とても印象的でした。(「モッシュやダイブと(性犯罪)痴漢は全く、ぜーーったい違う。絶対に!!」)

YUKARI:モッシュと痴漢行為は絶対に違います。わたしは女性がいやすい場を作りたいとメチャクチャ思ってるし、日々考えてます。ライブの途中で痴漢行為があったら、途中で演奏を止めようって決めていて。正直、何か事件があっても、突発的にアクションを起こすことって凄く難しいと思うんですよ。だからこそ、わたしは絶対になんか言おう、絶対に止めようって決めて心の準備してるんです。

──YUKARIちゃん自身がフロアに降りてモッシュの真ん中に突っ込んでいく。最高! って思うんだけど、モッシュしてるほぼ全員が男性の中、どういう気持ちで? 女性もモッシュしなよ! って気持ち?

YUKARI:来たいならおいでよって気持ちはあります。モッシュは男性だけの特権じゃないから。そこは気兼ねする必要はないんです。女性も子どももやりたければおいでー! って。実は、男性に対して、マッチョな人たちに対しても向けてる部分もあって。女性だって、華奢な人だって、暴れたい人はもちろんいるってことを知ってほしい。わたしは、自分のライブのときだけじゃなくて、お客さんとしてもかっこいいライブに対して昂ったら、前へ行って、モッシュにだって突っ込みます。ぶつかるし、ふっ飛ばされるし、痛いし、ケガするし。いいんですよ、それがライブだから。女がいるから思いきりモッシュできねぇー、とか言う奴がいたら、ごめんなさいねぇ、だってやりたいんだもん、みたいな感じで。

危ないからやめようじゃなく、どうすればやれるかを考えてやってみればいい

──女だってモッシュすることを当たり前としろっていう。

YUKARI:そうそう。してもしなくてもいい。モッシュのいいとこは、倒れた人がいたら手を引っ張って起こすことで。転ぶのはしょうがない。でもガードはする。そういう思いやりがあれば成り立つんですよ。だからわたしは必ず前へ行く。

──リミエキやLess than TVは、お客さんと一緒にそういうモッシュを、そういうライブを作ってきたバンドでありレーベルですよ。

YUKARI:車椅子ユーザーの人も来て。車椅子で最前の真ん中にいるんですよ。もちろん楽しいからそこにいるのは前提として、わたしと同じようなアティチュードなんじゃないかな。誰もがモッシュの場にいていいってことを、自分自身が真ん中に行ってアピールしてるところもあるんじゃないかと。

谷ぐち:車椅子は最前列じゃないと見えないですしね。で、車椅子の人が前にいてモッシュが起きる場合、介助者がいるんですけど、やっぱガードしきれない場面もあって。でも、介助者だけじゃなく、近くにいるお客さんもガード役になってくれる。本当は前で暴れたいのに、必然的にガード役になってしまって楽しめてないんじゃないかって心配になって、顔を覗きこんでみたんです。そうしたら、その車椅子の当事者の人と顔を見合わせながらめちゃくちゃ盛り上がってて。これだよ! って感動しました。

YUKARI:尊いよね。

写真:小野由希子

写真:小野由希子

谷ぐち:この間、視覚障害(弱視)の友人がライブに来てくれて。なんと中学生! ライブハウスに来るのは初めて、モッシュを見るのも初めてで、えらく興奮していました。その日は見ていただけだったけど、もし自分もモッシュピットに入りたいって言ったらどうしよう? どうすれば実現できるだろう? って考えてて。

YUKARI:できるでしょ。手を繋いでモッシュしたっていいし。

谷ぐち:うん。できると思う。危ないからやめようじゃなく、もしもやりたいのなら、どうすればやれるか考えて、やってみればいいんですよ。今までもそうしてきた。作り上げてきたという自負はあります。だからこそ、モッシュが誰かを排除しているっていう意見には賛同しかねるし、それがSNS上で議論されることに違和感を感じます。

──それは現場でしかわからないことだしね。あ~、もう最後にこじつけるけど、やっぱリミエキの曲はライブの経験から出来ていくんだし、YUKARIちゃんの歌詞もライブで気づいたことが社会と繋がって、思いや意志となって歌詞になるんだろうね。

YUKARI:こじつけじゃなく、ホントにそうです。わたしがいろいろ考えるようになったのは、ライブハウスという現場があったからで。やっぱり東日本大震災と原発事故があって世の中変わったじゃないですか。自分のことだけじゃなくいろんなことに関心を持たなきゃいけない。関心をもって行動したり考えたり話したりしよう。そういうことにみんな気づき始めて、わたしも少しずつ気づいてきた部分があって。自分だけが良かったらいいってことはないっていう、当たり前のことかもしれないけど。その当たり前のことを、ライブハウスという場所でより実感した。自分が痴漢に遇って、他の人は嫌な思いをしてほしくないって凄く実感したんです。フェミニズム的なことに自分のアンテナは向いていったし、自分のことだからこそ、他の人、周りの人のことも考えるようになった。自分だけがいい思いをしたいなんて、全く思わなくなった。

──『Tell Your Story』に繋がるな~。

YUKARI:繋がってたら嬉しいし、ホントにそうだと思います。人に対しての思いがあるからこそ、自分の歌って唄えるのかなって。自分の歌だけで終わりたくないっていうか。投げっぱなしではなくなってきたと思うんですよ。

© 有限会社ルーフトップ