チェッカーズ「Seven Heaven」バンドの多面性が開花したセルフプロデュース第3弾!  ヒットシングル「素直にI'm Sorry」「Room」の2曲が収録された「Seven Heaven」

アルバムアーティストとして深化を続けリリースした、チェッカーズ「Seven Heaven」

1987年、ザ・チェカーズは初のセルフプロデュースアルバム『GO』をリリースする。これ以降も年に1枚のアルバムリリースというペースは崩すことなく、88年には『SCREW』、そして89年には、この『Seven Heaven』をリリース。ロックンロール・スピリットを内包させ、硬派なブリティッシュ・ビートが主体となった『GO』、そして『SCREW』では収録曲全11曲中6曲が鶴久政治楽曲という勝負に出る。

そこからの『Seven Heaven』である。実質的なファーストアルバムである『GO』からのサードアルバムだ。ビートルズで言えば、唯一、レノン=マッカートニーの楽曲のみで構成された『ハード・デイズ・ナイト』。クラッシュで言えば、米ローリング・ストーン誌で80年代最高のアルバムと評された『ロンドン・コーリング』。そういう位置にあるアルバムである。

1989年7月19日にリリースされた本作には先行シングルとしてリリースされた「素直にI'm Sorry」「Room」の2曲が収録されていることから、メンバーが手掛けるシングルの世界観をダイレクトに反映させたアルバムという印象もある。さらに、前年には藤井郁弥(現:藤井フミヤ)が初のソロシングル「Mother's Touch」をリリースした影響からかアルバム全体のトーンは藤井のボーカリストとしての力量を今まで以上に打ち出しているアルバムでもある。しかし随所に散りばめられたギミックが、アルバムとしての個性を際立たせたいたのも確かなこと。

オープニングナンバーはファンクチューンの「Welcome to my planet earth!!」だ。起伏のあるメロディ、1曲の中で完結させるストーリー性は、チェッカーズの音楽的深化を如実に体現していた。テレビゲームの電子音をサンプリングし、スペーシーな雰囲気を醸し出すなど遊び心も満載で、セルフプロデュース3枚目にしてのディティールへのこだわりは、彼らがアルバムアーティストである証のようにも思える。

大土井裕二が示したチェッカーズの音楽の多面性

そして、特筆すべきは、大土井裕二作曲の「HEART IS GUN〜ピストルを手に入れた夜〜」だった。「HEART IS GUN~」は、ケルティックなイントロにスカのリズム。ジャマイカ発のルーツミュージックがロンドンを経由した洒脱さが大きな魅力だった。「ROOM」にしてみてもダウンビートのレゲエアレンジは、これまでの一連のヒット曲と比べてみても極めて独自性の高いものだったことがわかる。

『Seven Heaven』リリースされた89年を振り返ってみると、ジャマイカのスカバンドの開祖とも言われるスカタライツが初来日を果たし、クラブミュージック界隈はバック・トゥ・ルーツの波が本格的なものとなりつつあった。スカタライツが奏でる60年代のオリジナルスカ、そこからのルーツレゲエの流れが最先端の音楽としてアンダーグラウンドでは盛り上がりを見せていた。そんな時流をチェッカーズの面々が察知したのも想像に難くない。この部分をフォーマットにしてオリジナリティを高め作り上げた「ROOM」「HEART IS GUN~」という流れは、彼らの多面性を語るにあたり極めて重要な部分だろう。

高杢禎彦、鶴久政治のボーカル、武内享の作曲にも注目

そしてもう一つ、サイドボーカル二人がリードをとる楽曲の秀逸さにも注目しておきたい。高杢禎彦、鶴久政治という2人のボーカリストは、アルバムごとに自身のキャラクターを活かした名曲の数々を残した。アルバムアーティストとしてのチェッカーズを語る上で、忘れてはならない重要な部分だ。

高杢が歌う「IT'S ALRIGHT」は武内享の作曲。CMソングになってもおかしくないようなキャッチーな魅力が溢れている。ブラックミュージックを基盤とし、サックスが主体となるアレンジに高杢の低音を活かした歌唱法が見事にマッチしている。『絶対チェッカーズ!!』に収録された「MY ANGEL(I WANNA BE YOUR MAN)」、『GO』に収録された「GO INTO THE WHOLE」もそうだが高杢=武内のコンビが担う楽曲の不良っぽさ、骨太さもチェッカーズの一つの側面であり、たまらない魅力がある。

また、鶴久が歌う「80%」のキラキラした疾走感もアルバムの中で大きなアクセントとなっている。自らが作曲を手掛け、まさに鶴久節と言ってもいいポップさが炸裂。メロディ展開の意外性も加味した軽快なロックンロールだ。鶴久は同年の2月8日に「貴女次第」でソロデビューを果たしていたが、「80%」にも「貴女次第」同様アメリカン・オールディーズとは一線を画したロックンロールの新たな方向性を示唆していた。

クラブミュージックの盛り上がりを感度の良いアンテナでキャッチした尖り具合と、サイドボーカル2人のオリジナリティ。この2つのパーツがアルバムのオリジナリティを際立たせ、セルフ・プロデュースアルバムとして一つの到達点を見せた『Seven Heaven』。しかし、ビートルズが『ハード・デイズ・ナイト』以降、『ラバー・ソウル』や『リボルバー』で、クラッシュが『ロンドン・コーリング』以降、『サンディニスタ!』で新たな音楽性を模索したように、チェッカーズもまた、その探究心を止めることはなかった。

そして、次作『OOPS!』で、これまでのバンドサウンドを大きく覆すことになる。時代は90年代に入ろうとしていた。

カタリベ: 本田隆

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